○会陰裂傷(perineal laceration)
[定義] 分娩時の会陰組織の裂傷をいう。
[分類] 裂傷の程度により第1~4度に分類される。
・ 第1度:会陰皮膚および腟粘膜にのみ限局する。
・ 第2度:会陰の皮膚だけでなく筋層の裂傷を伴うもの。肛門括約筋は損傷されない。
・ 第3度:肛門括約筋や腟直腸中隔の一部まで断裂したもの。直腸粘膜は損傷されない。
・ 第4度:第3度会陰裂傷に加えて、肛門粘膜および直腸粘膜に裂傷がおよんだもの。
[治療]
・ 第1度: 自然治癒が可能である。1cm以上のものは縫合する。
・ 第2度以上では、手術的修復が必要である。
・ 第3度以上では、確実な縫合・止血をしても、感染によって直腸腟瘻や直腸会陰瘻を形成することもある。その場合は抗菌薬などを投与して炎症が治まるのを待つ。瘢痕治癒した後、数カ月(4~6カ月)してから再手術を行う。
○会陰切開(episiotomy)
[定義] 児の分娩時、剪刀で会陰を切開する手技。
[目的] 分娩第2期に会陰の過剰な裂傷を予防し、短時間により安全な分娩とするために行う。胎児機能不全で分娩を急ぐ場合や、鉗子分娩や吸引分娩などの産科手術の場合も施行する。
[会陰切開を実施するタイミング]
会陰組織が十分に伸展した状態が望ましい。
[会陰切開の手技]
腟および会陰を十分に消毒する。局所麻酔を施行する。示指と中指を児頭と会陰の間に挿入し、児頭を保護しつつ切開する。主に正中会陰切開(Midline episiotomy)、中-側会陰切開(Medio-Lateral episiotomy)、側会陰切開(Lateral episiotomy)がある。
[適応]
①会陰が硬く、伸展性が不良のため児頭の娩出が遷延すると予想される時。
②瘢痕により会陰の伸展が不十分の時。
③急速遂娩の必要がある時。
④未熟児出産に際し、児頭に対する圧迫を回避する必要がある時。
⑤巨大児娩出や回旋異常が疑われる時。
⑥骨盤位分娩、吸引分娩、鉗子分娩に際して。
会陰切開縫合術(perineorrhaphy)
・ 腟壁縫合: 創断端のやや上方より縫合する。吸収糸にて縫合し、処女膜縁を左右縫合の目安とする。
・ 皮膚縫合: 会陰皮膚は最下端より縫合する。会陰皮膚結節縫合や会陰皮下連続埋没縫合などがある。
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会陰切開は是か非か?
・ 必要に応じて適切な時期に会陰切開を実施することにより、第3~4度の大きな会陰裂傷や胎児機能不全・新生児仮死などを未然に予防することが可能な場合も少なくない。
・ 会陰切開が必要な状況であったにもかかわらずそれを行わなかったため、母体や児の後遺症で生涯にわたり悩まされる女性もいる。
・ 習慣的な会陰切開は慎むべきであるが、安易に会陰切開を否定するのにも問題がある。
・ 会陰切開が必要な妊婦に対してのみ、必要性を見極めて、適切なタイミングで実施することが重要である。