・ 単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus: HSV)はⅠ型(HSV-1)とⅡ型(HSV-2)とがあり、Ⅰ型は上半身(口唇、顔面、眼瞼)から、Ⅱ型は下半身(外陰部、腟、頸管、下肢)から分離されることが多い。
・ 皮膚や粘膜に感染し、限局性の水疱性病変を形成する。
・ 初感染でも不顕性感染の形をとる場合もある。
・ 感染局所で増殖したウイルスは末梢神経の軸索を伝わり神経後根細胞に運ばれて宿主の生涯にわたり潜伏する。紫外線、発熱、外傷、免疫抑制、坦癌などでウイルスが再活性化されると、神経の末梢に到達して増殖し神経支配域の皮膚・粘膜に病変を形成する。
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性器ヘルペス感染症
[病態による分類]
①初感染
発症時にHSV抗体が陰性で、症状は激烈である。
②誘発型(不顕性初感染後の再活性化)
③再発型(顕性初感染後の再活性型)
②、③では、すでに抗体を有するため軽症が多い。
[性器ヘルペス感染症の症状]
強い外陰部痛、外陰の左右対称性の発赤と浅い潰瘍・小水疱、鼠径リンパ節の有痛性腫脹、発熱。不顕性感染も多い。
[感染経路] 接触感染(性感染症)
[潜伏期間] 2~20日間
[診断方法]
・スクリーニング:抗体IgG、IgM
・確認試験:HSV抗原(IFA)、HSV-DNA
[感染期間]
・初感染で2~4週間
・再発で3~7日間
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新生児ヘルペス
分娩時に母体に性器ヘルペスが存在すると、初感染では約50%、誘発型、再発型では1~3%に新生児ヘルペスが発症する。産道感染を予防する必要がある。
[分類]
①全身型:生後1週間以内に発症して、肝、腎、肺、脳など全身の臓器に広がり、多臓器不全をきたし、アシクロビルを投与しても57%が死亡する。
②中枢神経型:中枢神経に感染して脳炎を起こす。死亡率15%、2/3に重篤な神経学的後遺症が発生。
③皮膚型:病変が皮膚、眼、口腔に限局する。
[臨床症状]
ヘルペス性の皮疹の存在は有力な診断の助けにはなるが20~40%には皮疹がみられず、非特異的症状が主である。
①全身型:生後10日くらいまでに発症する。発熱、哺乳力弱く、不活発など。皮膚症状はない。多臓器不全を起こす。
②中枢神経型:発熱、痙攣、脳炎、髄膜炎症状。
③皮膚型:発熱、水疱。
[性器ヘルペス感染妊婦から娩出された新生児に対する対応]
・ 出産時にヘルペス病変がある妊婦からの、あるいは感染が懸念される妊婦からの新生児に対しては、出生時に眼、口腔内、耳孔内、鼻腔内、性器から検体を採取し、ウイルス分離検査とPCR法を行い、慎重に経過観察することが望ましい。
・ 分離培養検査では、結果が出るまでに4~21日かかる場合があるので、結果を待たずに臨床症状で判断しなければならない場合もある。
・ 感染が強く疑われる場合には、とりあえずアシクロビルを投与し、検査結果が陰性であればその時点で中止することになる。
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産婦人科診療ガイドライン産科編2008、p163-166
妊娠中に性器ヘルペス病変を認めた時の対応は?
Answer
1.妊娠初期には、性交を禁止しアシクロビル軟膏塗布を行う。(B)
2.妊娠中・後期の初発では、抗ウイルス療法が勧められる。(B)
3.以下の場合には帝王切開分娩を選択する。
①分娩時にヘルペス病変が外陰部にある、あるいはその可能性が高い。(A)
②初感染発症から1カ月以内に分娩となる可能性が高い。(C)
③再発または初発非初感染発症から1週間以内に分娩となる可能性が高い。(C)
4.新生児ヘルペスの発症に注意する。(B)
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性器ヘルペス合併妊娠の管理
1 .発症時
①診断の確定:
ウイルス分離、ウイルス抗原やDNAの検出
②臨床型の決定:
血清抗体の測定(IgG抗体,IgM抗体)
③治療:
妊娠初期:アシクロビル軟膏による治療
妊娠中~末期:初発 アシクロビル1g/日7~10日間経口投与
重症例は入院して静脈内投与
再発 アシクロビル軟膏塗布
時にアシクロビル1g/ 日 5日間投与
2 .分娩様式の選択
①分娩時に外陰病変あり ………………帝王切開
②分娩時に外陰病変なし
a.初感染…発症より1か月以内……帝王切開
1か月以上……経腟分娩
b.再発型または非初感染初発
発症より1週間以内……帝王切開
1週間以上……経腟分娩