ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

母子感染症:パルボウイルスB19

2010年06月05日 | 周産期医学

パルボウイルスB19は別名ヒトパルボウイルスと呼ばれ、人間にのみ感染する。骨髄中の赤血球先駆物質に侵入する能力がある。

パルボウイルスB19感染症は、伝染性紅斑(りんご病)として知られているが、多くの非定型例や不顕性感染がある。

本感染症は、ほぼ5年毎の流行あるいは散発性に発生し、春から初夏が多く、4~10歳児に多い。感染力は強く、集団では40%、学童クラス内60%、家庭内では50~100%感染する。

[感染経路] 主として飛沫感染。接触感染やまれに輸血、血液製剤による。

[潜伏期間] 5~6日で血液中にウイルスが出現、気道分泌物への排泄が始まる。発熱までに6~11日、発疹発現までに16~20日。

[小児の症状] 発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛などが現れ、数日遅れて、頬に境界鮮明な紅い発疹(蝶翼状-リンゴの頬)が現れ、 続いて手・足に網目状・レ-ス状・環状などと表現される発疹がみられる。胸腹背部 にもこの発疹が出現することがある。これらの発疹は1 週間前後で消失する。

Parvo1
両側の頬に出現した蝶翼状の発疹

Pavo2
手・足に出現した発疹

[成人の症状] 発熱、関節痛などの非特異的症状が主で、典型的な頬部皮疹は出現しないことが多い。約半数は不顕性感染。

[感染期間] 発疹の発現する7~10日前のかぜ様の前駆症状期に最もウイルス排泄量が多く、発疹が現れたときにはウイルス血症は終息しており、ウイルスの排泄はほとんどなく感染力はほぼ消失している。

[胎児への影響]
・ 妊娠初期の母体感染では、胎児貧血、胎児水腫、胎児死亡の可能性がある。
・ 奇形発生頻度は少ない。

[母子感染]
・ 経胎盤感染が成立すると、胎児の赤芽球系細胞に感染、破壊し高度の胎児貧血をもたらし、胎児は非免疫性胎児水腫(non-immune hydrops fetalis)となる。
・ 妊娠20週未満の感染では約24~30%に胎内感染が成立し、その3分の1(母体感染の9~10%)が胎児水腫や子宮内胎児死亡となる。妊娠20週以降の感染では胎児水腫はないとされている。
・ 母体感染から2~17週(平均10週)に発症(胎児水腫、胎児死亡)するので、妊娠中期に発生した胎児水腫や子宮内胎児死亡では本疾患を疑う必要がある。
・ 原因不明とされた胎児水腫や死産例の約20%はパルボウイルスB19の母子感染であるという報告もある。
・ 胎児水腫の自然治癒例も報告されている。

[感染診断]
①母体血中の抗B19-IgM抗体の証明
 IgM抗体陽性で最近の感染と考える。
②B19DNAの証明
 胎児血、羊水、胎盤、胎児組織中にPCR法で検出。

[治療法]
・ 臨床症状があり抗B19抗体が2~3週間後に陽性化した場合や、抗B19-IgM抗体陽性例は最近の感染(3か月)であるので、最低週1回超音波検査し、胎児異常の早期発見に努める。
・ 胎児水腫がみつかった場合は胎外生活の可能性を検討し、治療法を選択する。
・ 胎児輸血による治癒例も報告されている。
・ 免疫グロブリン投与や胎児へのジギタリス投与の有効性はまだ確認されていない。

[妊婦罹患率] 妊婦の抗B19抗体保有率は30~40%。成人の抗B19抗体保有率は60%といわれている。

[妊婦スクリーニングの必要性] 感染力が強いうえに、予防・治療法がないのでスクリーニングは有効でない。

[ワクチン] パルボウイルスB19に対するワクチンは現時点では存在しない。現在、ワクチンの開発中で、将来は未感染の妊婦が接種の対象になる可能性はある。

[次回妊娠の注意点] 終生免疫を獲得するので問題はない。