ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

合併症妊娠:特発性血小板減少性紫斑病(ITP)

2010年06月27日 | インポート

idiopathic thrombocytopenic purpura

[ITPの定義]
・ ITPは血小板膜蛋白に対する自己抗体(IgG)が発現し、血小板に結合する結果、主に脾における網内系細胞での血小板の破壊が亢進し、血小板減少をきたす自己免疫性疾患である。

・ 種々の出血症状を呈する。通常、赤血球、白血球系に異常を認めず、骨髄での巨核球産生能の低下もみられない。自己抗体の発現機序は明らかでなく、血小板減少をもたらす基礎疾患がなく、薬剤の関与がないことから特発性と呼ばれている。

・ ITPは妊娠中によく合併する自己免疫性疾患であり、妊娠に合併する率は0.3~0.4%である。

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ITPの症状

・ 血小板数<10万/μL: 出血時間延長。
 血小板数<5万/μL: 出血傾向出現。
 血小板数<2万/μL: 大出血や致命的な出血。

・ ITPが非寛解のまま妊娠した場合、母体の抗血小板抗体(IgG)が経胎盤的に胎児に移行して、胎児の血小板も減少することがある。児の頭蓋内出血の原因となりうる。母体由来のIgGが消失するため、児の血小板数は生後3~4週間で正常化する。

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ITPと妊娠・分娩との関係

1. 妊娠・分娩が疾患に与える影響
  ・ 増悪する可能性がある
2. 疾患が妊娠・分娩に与える影響
  ・ 分娩時出血 ・ 産道血腫(腟壁血腫)
  ・ 児の頭蓋内出血

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ITP合併妊娠の治療

1. 血小板数10万/μL以下でも、出血傾向がなければ治療の必要がない。
2. 胎児採血(臍帯血穿刺)により胎児の血小板数を測定し、
 ①血小板数<5万/μLでは頭蓋内出血を予防するために帝王切開とする
 ②血小板数≧5万/μLでは経腟分娩を原則とする
(しかし、ITPの母体から出生した新生児の頭蓋内出血発症率は現実にはきわめて低く、臍帯穿刺に伴う児への危険性から、臍帯穿刺による分娩方針決定については異論もある。)
3. 分娩に際しては血小板数5万/μL以上を保っておく必要がある。分娩2~3週前からステロイド大量療法(プレドニゾロン40~60mg/日)を行い、これが無効の場合には、γグロブリン大量療法(400mg/kg/日、5日間静注)を行う。グロブリン療法では治療開始後5~7日目に血小板数が最高となることが多いので、この時期に分娩を計画する。
 母児共に血小板数5万/μL以上であれば原則として経腟分娩でよい。極力産道損傷を避け、児娩出後は子宮収縮剤を投与し出血量の軽減を図る。
4. 分娩時大量出血の場合は血小板輸血

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ITP合併妊娠の分娩方法

・ 分娩方法:産科的適応がない限り経腟分娩とする。
 (血小板数5万/μL以上の適切な時期に)計画分娩を行い、切創や裂傷を避けた緩除な分娩を原則として、吸引・鉗子分娩は避ける。

・ 帝王切開:血小板数を少なくとも5万/μL以上に持続させる。血小板輸血、赤血球輸血を準備する。
 帝王切開の適応:
①産科的適応がある場合
②第1子の出生時に血小板減少が認められた場合の第2子の分娩
③あらかじめ児の血小板数が5万/μL以下であることがわかった場合

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ITPの胎児・新生児への影響

・ 抗血小板抗体陽性で母体のplatelet associated IgG(PAIgG)が高値である場合、その児はpassive immune thrombocytopeniaを発症する危険性がある。
・ 出生時、新生児の血小板数が正常であっても、生後4~5日目に最低となり、正常化するまで約1か月を要するので、経過観察が必要である。
・ 母体が脾摘を受けている場合、母体の血小板数はさほど低下していてなくても、児の血小板数がきわめて低値を示す場合がある。
・ 新生児の頭蓋内出血発症率は低く(1%)、臍帯穿刺に伴う児への危険性から、臍帯穿刺による分娩方針決定については積極的に行わなくなった。

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次回妊娠へのアドバイス

・ 寛解しないうちに妊娠したものでは、増悪することが多い。
・ 完全寛解してからの計画的妊娠。
・ ピロリ菌があれば、除菌後の妊娠。
・ 難治性の場合は、摘脾後の妊娠を考慮。

****** 問題

妊娠中の血小板減少症で正しいのはどれか。1つ選べ。

a 妊娠性血小板減少症(gestational thrombocytopenia)の頻度が高い。
b 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)合併妊娠で新生児の約50%に血小板減少が起こる。
c ITPで新生児頭蓋内出血を予防するために帝王切開術が必要である。
d 母体のITP治療にはデキサメタゾンを用いる。
e 胎児の中大脳動脈の収縮期最大血流速度で胎児血小板数が推定できる。

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正解:a

a 妊娠性血小板減少症は、妊娠中の血小板減少の原因の74%を占める。 

b ITP合併妊娠では、約14%の頻度で新生児血小板減少症を発症する。

c 原則的に、分娩様式は経腟分娩であり、帝王切開は産科的適応による。

d プレドニゾロン投与が第一選択となることが多いが、緊急性が高い時には免疫グロブリン大量投与を行う。

e 胎児の中大脳動脈の収縮期最大血流速度で胎児貧血が推定できる。 


合併症妊娠:血小板減少症

2010年06月27日 | 周産期医学

thrombocytopenia

同義語:血小板減少性紫斑病(thrombocytopenic purpura)

血小板減少症:血小板数15万/μL以下
(血小板数の基準値:15万~35万/μL)

血小板減少症・合併妊娠の管理:
一次医療施設で管理することは難しいため、有症状のもの、血小板数が10万/μL以下の場合は、血液内科を併設する高次医療施設に紹介する。

妊娠中に認められる主な血小板減少症の病因
1. 妊娠性血小板減少症
2. 妊娠高血圧症候群
3. HELLP症候群
4. 偽性血小板減少症(EDTAによる血小板凝集などを含む)
5. HIVウイルス感染症
6. 特発性血小板減少症(ITP)
7. SLE症候群
8. 抗リン脂質抗体症候群
9. 脾機能亢進症
10. 播種性血管内凝固症(DIC)
11. 血 栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
12. 溶血性尿毒症症候群(HUS)
13. 先天性血小板減少症
14. 薬剤性血小板減少症
  (ヘパリン、キニン、キニジン、ジドブジン、サルファ剤など)