ATL: Adult T-cell Leukemia
あるいは、
成人T細胞白血病リンパ腫
ATLL: Adult T-cell Leukemia/Lymphoma
HTLV-1(ヒトTリンパ向性ウイルス1型、あるいは成人T細胞白血病ウイルス1型)は、レトロウイルスでCD4 + T リンパ球に感染し、成人T 細胞白血病(ATL)[あるいは、成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)]を起こす。ウイルスは血液、精液、母乳、唾液中に含まれ、感染経路は母乳感染、性交感染(ほとんどが男性から女性へ)、輸血(1986 年以後日本赤十字社では検査、排除している)による。
ATL(あるいはATLL)は、乳幼児期に母乳感染したキャリアが成人後に、5~10%の頻度で発症する(大多数の患者は40 歳以上である)。地域内流行があり、沖縄県、鹿児島県、宮崎県、長崎県などが多く、日本海側にも流行地域がある。ATL(あるいはATLL)は、病態により白血病型、リンパ腫型、皮膚型に分類され、それぞれにくすぶり型、慢性型、急性型がある。
病原体: HTLV-1
human T-lymphotropic virus type 1
あるいは、
human T-cell leukemia virus type 1
感染経路: 主に母乳感染、性交感染、輸血(新鮮凍結血漿では感染しない)
潜伏期間: 非常に長期、数十年。
乳幼児期に母乳感染したキャリアが成人後にATL(あるいはATLL)を発症する。潜伏期は長く、感染から発症までに40~50年要するので、性交感染ではATL(あるいはATLL)をほとんど発症しない。
診断法:
HTLV-1 抗体の検出(PA法、WB法、EIA法、IF法)が最も簡便。
プロウイルスDNA検出(PCR 法)。
ウイルス特異蛋白(抗原)検出(IF 法)。
①抗HTLV-1抗体陽性は免疫応答があり抗体産生能があり、通常ウイルスの存在も意味する。
②抗原陽性はIL-2 による抗原発現能がある。当然ウイルスの存在を意味するが抗体陽性を伴うとは限らない。
③PCR陽性はプロウイルスDNAの存在を意味する。抗原・抗体陽性を伴うとは限らない。
新生児、幼児では感染リンパ球が少ないので成人と同様の検査では検出率が低い。リンパ球を数週間培養してPCRを行う。
症状: 感染症による発熱、全身倦怠感などやリンパ節腫脹、発疹など。免疫不全徴候。
感染のリスク因子: 地域性。キャリア化率が減少しているので特別なリスク因子はない。
妊婦のHTLV-1キャリア頻度は、約0.1~5%と地域差がみられる。わが国では、ATL(あるいはATLL)の患者のうち、九州・沖縄の患者が半数以上を占める。
妊娠への影響: なし。
胎児への影響・催奇形性・新生児への影響・児の予後:
母乳による新生児のキャリア化が問題となる。
胎内感染診断法: 特別な方法はない。
垂直感染経路: 母乳,経産道感染。
垂直感染率・わが国での頻度:20 ~ 30%
母乳感染率:15 ~ 25%
経産道および胎内感染は極めて少ない(2 ~ 6%)
垂直感染予防法・治療法:
母乳の加熱56℃、30分でリンパ球は死滅するが、60℃を超えると母乳中の蛋白質の変性や抗体活性が消失するので難しい。短期母乳哺育は確かに長期母乳哺育よりも感染率は低いが決して人工栄養と同等に感染率を下げるものではない。
母乳によるキャリア化を防止できる対策:
①人工乳(母乳哺育を中止し、人工栄養にすることで約95%は感染を防ぐことができる。)
②除感染処理母乳(凍結母乳:-20℃、12時間)
③移行抗体存在時のみの短期間母乳哺育。
①②は確実だが、③ではキャリア化を確実に防止できない。