ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

被災住民の方々に対する支援活動

2011年03月18日 | 東北地方太平洋沖地震

休暇をとって被災地に入り、現地での支援活動に従事することはなかなかできません。でも、当地に避難して来られた被災住民の方々に対する支援活動、例えば、避難して来られた妊産婦の方々の分娩のお手伝いなど、微力ながら私達のできることを可能な限り実施したいと思います。

被災住民の方々が被災地にずっと留まって、避難所で不便で不自由な暮らしを無理をして続けるよりは、ライフラインや医療体制の整った安全な地域に一時避難していただくことも重要だと思います。

****** 日本産科婦人科学会HPより(要約) 

福島原発事故による放射線被曝について心配しておられる妊娠・授乳中女性へのご案内(特に母乳とヨウ化カリウムについて)

放射線被曝により甲状腺がんの発症率が高くなります。乳幼児や若年者では特に甲状腺がんの発症率が高くなります。胎児の甲状腺にも悪影響がでます。40 歳以上では被曝してもあまり発症率は高くならないとも報告されています。

甲状腺がんになりやすくなる被曝量は50 ミリシーベルト(50,000 マイクロシーベルト)以上とされています。例えば、時間当たりの被曝量が2,000 マイクロシーベルトの環境にいると、25時間で総被曝量が50ミリシーベルト(50,000 マイクロシーベルト)となり、甲状腺がん発症の危険が高くなります。

ヨウ化カリウム錠(50mg 錠を2 錠)を被曝後なるべく早期に服用すると、甲状腺がん発症の予防効果があるとされています。50 ミリシーベルト(50,000 マイクロシーベルト)以上の被曝を受けた40 歳以下の妊娠・授乳中女性にはヨウ化カリウム錠(50mg 錠)2 錠服用をお勧めします。しかし、ヨウ化カリウム錠を妊娠中女性が服用すると、胎児に甲状腺機能低下が起こることがあります。胎児や乳幼児にとって甲状腺ホルモンは脳の発達に特に重要とされているホルモンです。したがって、妊娠中女性がヨウ化カリウムを服用した場合には児は出生後ただちに甲状腺機能の検査を受けます。

50 ミリシーベルト(50,000 マイクロシーベルト)以上被曝したが、既に安全な場所(大気の放射能汚染がない)に移動し、安全な水と食物(放射能汚染がない水と食物)を摂取している場合には50mg 錠を2 錠1 回服用(計100mgを一回)で十分です。しかし、この薬剤の効果持続時間はだいたい24 時間です。再び50 ミリシーベルト(50,000 マイクロシーベルト)以上の被曝があった場合には同様にヨウ化カリウムを100mg服用します。しかし、妊娠中女性では胎児への副作用(甲状腺機能低下)も心配されるので、2 回目服用は特に慎重に行なうべきとの意見もあります。

妊娠中もしくは授乳中の女性では、ヨウ化カリウム服用が児の甲状腺機能低下につながる可能性があります。したがって、妊娠中ならびに授乳中の女性にあっては、ヨウ化カリウムを服用しないで済むよう、特に被曝量を少なくする工夫が重要です。線源(ここでは福島原発)から離れること(遠隔地への移動)が可能な状況であれば、それをお勧めします。

****** 共同通信、2011年3月18日

全国で妊婦受け入れを 厚労省、被災地支援で

厚生労働省は17日、東日本大震災で被災した妊婦が安全な状況で出産できるよう、被災地でない都道府県に受け入れ態勢の整備を求める通知を出した。

被災地でない都道府県には、関係機関と相談の上、被災した自治体や医療機関の相談を受け付ける窓口を設けるよう要請。被災地の妊婦や新生児が他県での出産や緊急医療を希望した場合、受け入れについて適切に対応するよう求めた。

被災した県にも、他県での出産希望者には適切に情報提供するよう求めた。

(共同通信、2011年3月18日)

****** 長野県産科婦人科医会

被災地の妊産婦さんが、長野県内への移動を希望される際には、長野県のすべての産 婦人科で可能な限りの対応をいたします。 分娩受け入れ施設が不明の場合には、長野県産科婦人科医会事務局 (信州大学医学部産婦人科医局内)にご連絡

電子メール:ifujin@shinshu-u.ac.jp
FAX:0263-39-3160
TEL:0263-37-2719

いただけば、当該地区の分娩可能医療機関の情報を提供いたします。なお、長野県も北部を主体に大きな地震が発生しており、 施設によっては、受け入れ状況が変動する可能性があることをご了承願います。

(長野県産科婦人科医会)

****** 信濃毎日新聞、2011年3月18日

南相馬市民103人が飯伊に 飯田市用意のバス5台で

東日本大震災で沿岸部が壊滅的な被害を受けた福島県南相馬市の被災住民103人が17日夜、飯田市が用意したバス5台で避難先の飯田下伊那地方に到着した。住民は約10時間に及ぶ長旅に疲れた表情を見せながら、飯田市の風越山麓(ろく)研修センターなど同市と下条、泰阜、豊丘村が用意した6施設へ向かった。

南相馬市の桜井勝延市長が16日に被災住民の受け入れを飯田市に要請、同市が下伊那郡の町村にも協力を呼び掛けた。桜井市長は「申し訳ない思いでいっぱいだが、市の再生のためにも市民の命を守りたい」と話している。

飯田市の職員ら約20人が16日夜、市のマイクロバス3台と信南交通(飯田市)のバス2台で被災地へ。南相馬市の中心部は東京電力福島第1原発から20~30キロの屋内退避指示の圏内に位置するため、被災住民は圏外でバスに乗った。

バスは17日午後10時36分ごろ、飯田市の中央道飯田インター近くの駐車場に到着。牧野光朗市長ら4首長が出迎えた。1台のバスに乗り込んだ牧野市長は「本当に長い間、ご苦労さまでした」と声を掛け、住民たちは「ありがとうございます」。同市丸山町の風越山麓研修センターに着いた住民24人は「お願いします」「お世話になります」などと話しながら施設へ入った。

桜井市長は市議時代から飯田市を視察で訪れるなどしており、昨年10月に同市内で開かれた「定住自立圏」全国市町村長サミットにも出席。桜井市長によると、南相馬市内では原発事故により一時1万人余が避難。電気や水道の復旧は進んだものの、津波による安否不明者も少なくない。飯伊地方での受け入れに感謝しながら「離れた飯田とのつながりを復興のエネルギーとしたい」と気丈に話した。

(信濃毎日新聞、2011年3月18日)

****** NHKニュース、長野、2011年3月18日

飯田市が被災避難者を受け入れ

福島第一原子力発電所の事故で屋内退避などの指示が出されている福島県南相馬市では、市内に残っているおよそ3万人を順番に県外に避難させていて、このうち100人余りが17日夜、飯田市に到着しました。

福島第一原発の相次ぐ事故を受け、福島県南相馬市ではこれ以上とどまるのが困難になったとして市民、およそ3万人を県外などに避難させています。

このうち、県内では、飯田市や豊丘村など1つの市と3つの村で100人余りを受け入れることになりました。

17日は、午後10時過ぎ、4歳から86歳までの南相馬市の住民、103人を乗せたバスが飯田市に無事到着し、それぞれのバスに乗り換え、下伊那地域の6か所の施設に移動しました。

このうち、飯田市丸山町にある市の研修施設には26人が到着し、市の職員たちが「お疲れさまでした」と声をかけていました。

施設には、市が用意したおにぎりや着替えが用意されていて、避難してきた人たちは疲れた表情を見せながら大きな荷物を持って次々に施設の中に入って行きました。今回、受け入れを行った市や村では、今後も要請があれば、さらに避難者を受け入れることも検討したいとしています。

03月18日 08時59分

****** NHKニュース、長野

南相馬市から避難 一夜あけ

福島第一原子力発電所の事故を受けて福島県南相馬市から17日夜、飯田市などに避難してきた住民100人あまりは、市などが用意した施設で新たな生活を始めています。

福島第一原発の相次ぐ事故を受け、福島県南相馬市ではこれ以上とどまるのが困難になったとして市民、およそ3万人を県外などに避難させています。

長野県内には17日夜、南相馬市の住民、103人が到着し、飯田市や豊丘村など、4つの自治体が6つの施設で受け入れています。このうち25人が避難している飯田市丸山町の市の研修施設では、昨夜、疲れ切ったようすだった人たちが一夜明けて、少し安どしたような表情を見せていました。

18日は飯田市内に住む南相馬市出身の男性が施設を訪れ、「みなさんが、無事来てくれてうれしいです。困ったことがあれば、電話をしてください」と励ましていました。

これに対して避難している人たちの中には、涙を流す人もいました。家族で避難している18歳の男性は、「福島では毎日地震におびえていたので、受け入れてもらえてうれしいです。地元を離れるのはつらかったですが、昨夜はぐっすり寝ることができました」と話していました。
飯田市などでは避難している人たち対して食事や衣類の提供も行っていて今後、要請があれば、さらに福島県の住民を受け入れることも検討したいとしています。

03月18日 13時20分

****** NHKニュース、長野

知事“被災者受け入れ”表明

阿部知事は、東北関東大震災で被災した人たちを受け入れるための窓口を18日、県庁内に設置し、今後、人工透析を受ける必要がある人や自宅に住めなくなった人などを受け入れていく考えを明らかにしました。

阿部知事は18日開かれた会見で東北関東大震災で被災し、県内に避難してくる人たちを受け入れるための窓口として「避難者受入対策チーム」という組織を18日、県庁内に設置したと公表しました。この対策チームは被災者を受け入れることができる施設のとりまとめや、受け入れ施設についての情報提供を行うとしています。

そのうえで当面の対応としては人工透析を受ける必要がある人については長野市周辺と松本市周辺の病院で優先的に対応する、自宅に住めなくなった人や避難指示を受けた人については県営住宅などに受け入れる、さらに自主的に避難した人については、旅館やホテルなどで料金を割り引いて受け入れるとしています。

阿部知事は、「県として受け入れ窓口を設置するので、協力が可能な方からの情報提供をお願いしたい。県民全体で温かく迎えていただくことが重要だ」と話しています。

03月18日 13時20分

(NHKニュース、長野、2011年3月18日)


動脈管開存症(PDA)

2011年03月18日 | 周産期医学

patent ductus arteriosus

● 概要

満期産児では、動脈管は生後48時間から72時間で動脈管の血流はほとんど消失し、数日以内に自然閉鎖する。

動脈管開存症は、動脈管が出生後も遺残している病態である。

初期には大動脈から肺動脈への血液の流入(左右シャント)により肺の血液量が増加し、左心系うっ血性心不全を示すが、病気の進行により肺動脈圧が大動脈圧を超えると肺動脈から大動脈への血液の流入(右左シャント)が生じ、静脈血が全身に循環することにより低酸素血症を示す(Eisenmenger症候群)。

動脈管開存症では通常の血流量より多くの血液が流れるため、肺動脈や肺静脈の血管径は拡張する。

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● 病因

胎生期には肺が酸素化に寄与することはないため、右心室が駆出する血液が肺へすべて流れないように、動脈管が生理的に開存し主肺動脈から下行大動脈へと血流をバイパスしている。動脈管は胎内ではプロスタグランディンEの生成により維持されているが、出生後の酸素分圧の上昇とプロスタグランディンEの血中濃度低下に伴って収縮し、数週間かけて器質的に閉鎖する。何らかの原因でこの過程が阻害されると動脈管開存症が生じる。

未熟児動脈管開存症では、動脈管の閉鎖過程の遅延が原因となっている。

成熟児動脈管開存症は何らかの内因性異常が原因と考えられるが、原因が特定できることは少ない。ある種の染色体異常症、先天性風疹症候群、胎児アルコール症候群、高地の居住者に動脈管開存症の率が高いと言われている。

● 病態

動脈管を介して大動脈から肺動脈へとシャント血流が流れ、肺血流量が増加する。左心系の容量負荷が生じる。高度のシャント血流があると左心系の負荷による心不全症状をきたし、多呼吸、頻拍などを呈する。拡張期の短絡が増加すると拡張期血圧が低下し、冠循環の低下、腸肝循環の低下、脳循環の低下などによる臓器不全症状をきたす。太い動脈管では肺高血圧症が生じ、放置すると肺血管閉塞性病変からEisenmenger化する。

PDAでは、感染性心内膜炎のリスクが増加する。心雑音がないPDAの感染性心内膜炎のリスクについて明らかなエビデンスはない。

● 自覚症状

左右シャント量が少ない場合には自覚症状はない。

左右シャント量が多い場合には、多呼吸、陥没呼吸、気道感染の増加、哺乳力低下、体重増加不良などの高肺血流にともなった症状をきたす。

● 他覚症状

左右シャント量が増加するほど左室心尖拍動は顕著となり側方に偏位する。

速脈(急速に強くなり、急速に消失する)がみられる。

第2肋間胸骨左縁に最強点を有する連続性雑音Gibson雑音)を聴取する。

Eisenmenger化した動脈管開存症では動脈管開存に由来する雑音は消失し、動脈管を介する右左シャントのため下半身がチアノーゼを示す

●検査成績

① 心エコー:
PDAは左肺動脈-主肺動脈接合部と下行大動脈の間にある。カラードップラー法を用いると容易に肺動脈内に左右シャント血流を検出することができ、これをガイドにするとPDAが直接描出される。シャント血流量の増加に伴って左房、左室、上行大動脈の拡大が観察される。ドップラー法で示されるシャント血流の最大流速により肺高血圧症の程度が評価できる。

② 胸部Xp:
左右シャント量が多い場合、肺血流量の増加に伴って肺血管陰影が増強し、左房、左室の拡大による心陰影の拡大、上行大動脈の拡張を認める。Eisenmenger化すると心陰影は正常化し、肺血管陰影は中枢部では拡大、末梢で目立たなくなる。

● 治療

未熟児PDAにおける動脈管の収縮を促す治療としては、インドメサシンが保険適応となっている唯一の薬剤である。インドメサシンはプロスタグランジンの生合成を抑制することで動脈管の収縮を促す。副作用としては乏尿・腎障害、低血糖症、血小板機能低下、消化管穿孔などがある。インドメサシンの動脈管収縮効果は投与量依存性であるが、重篤な副作用も有するため少量投与が原則とされている。インドメサシンを使用するに当たっては、動脈管閉鎖のことばかりでなく副作用の発現への注意が必須である。

心不全症状を呈している症例に対しては強心剤、利尿剤などによる抗心不全治療を行い、早期に閉鎖手技を行う。薬物治療で心不全症状がコントロールされた症例、心不全症状がなく心雑音のみの症例でも、待機的な閉鎖適応になる。

閉鎖手段として、外科的治療(直視下結紮・切離手術、クリップを使用した胸腔鏡手術)およびカテーテル治療がある。

一般的には1歳未満で心不全症状がコントロール不可能な症例では外科治療を選択する。外科治療(開胸手術)の安全性、成功率は高いが、合併症として反回神経麻痺、乳び胸、脊柱側彎などが生じうる。胸腔鏡手術は肋間筋の損傷が軽微で術創を小さくできる利点がある。

1歳以上で動脈管の内径が2.5mmを超えない症例はカテーテル治療のよい適応となる。わが国ではGianturcoコイルや着脱可能型コイルを用いた塞栓術が行われている。カテーテル治療ではコイルの脱落、遺残短絡、遺残短絡に伴う溶血、コイルへの感染などの問題が生じうる。コイル塞栓後の軽微な遺残短絡はほとんどの場合自然閉鎖することが知られている。

コイル塞栓による閉鎖術は3mm以上の径を有する動脈管開存の場合には困難であるが、動脈管開存用のAmplatzer閉鎖栓が開発され、良好な臨床成績を収めている。

一般に外科治療やカテーテル治療後、半年程度は感染性心内膜炎に対して注意する必要があるとされている。

心雑音がないPDAに対して治療を行うべきかについては明確な指針はない。

●予後

閉鎖適応のある動脈管開存症に対する治療は安全性が高く、治療を終了した症例ではその他の合併症(僧帽弁逆流など)がなければ予後は良好である。