****** 日本産婦人科医会ホームページより
http://www.jaog.or.jp/News/2011/sinsai/fukusima_0325.pdf
平成23 年3 月25 日
l福島原発事故による妊婦・授乳婦への影響について(2)
-汚染農産物の出荷停止と乳児の水道水摂取を控える通知に対して冷静な対応を-
社団法人日本産婦人科医会 会長 寺尾俊彦
政府は3 月21 日、東京電力福島第1 原発から放出された放射性物質により、汚染の暫定基準値を上回った農作物に対して、福島県など4 県という広範な地域を対象とした異例の出荷停止に踏み切りました。さらに、3 月23 日には、乳児の飲用に関する暫定的な指標値である、100Bq/kg(ベクレル/キログラム)を超えた、210 Bq/kg が測定されたため、東京都は、23 区及び一部の多摩地域の乳児による水道水の摂取を控えるように、また授乳中の母親も避けた方が好ましいとの、通知を発しました。
このように、国や都から食品や飲料水の放射線汚染に関する通知が報じられると、食物の放射線汚染に関する正確な知識を持たない生産農家は無論のこと、一般の国民は大変不安になり困惑いたします。
結論からいえば、出荷停止を受けた農作物や牛乳の放射能の測定値は、暫定基準値より高かったのですが、妊婦や授乳中の女性が、もしこれらを一時的に摂取したとしてもまた、軽度汚染水道水を連日飲んでも、実際の健康被害はありませんし、また、軽度汚染水道水を用いて授乳しても、乳幼児に健康被害は起こらないと考えられます。
下記に、なぜ健康被害は起こらないか、また、暫定基準値や食物汚染の放射線単位などのご説明をいたしますので、よくご理解いただき、どうぞ、過度の心配をすることなく、冷静に対応することをお願い致します。
1.国が出荷停止の判断をした理由
万一、原発事故により高濃度の食品汚染が起こった場合は、放射性物質の被害は広域に広がる可能性があります。しかし、食品衛生法では規制値を超えていない農産物の出荷規制まではできないため、広域の規制が難しいのです。
実際に、原発事故の周辺大気中で、濃度は低いのですが、放射能が検出されているだけに、その大気にさらされる農作物の放射線濃度が検出されることは、避けられません。そこで、原発事故を想定した放射性物質の規制値はなかった各農作物に、急きょ規制値を暫定的に設け、対象の品目と地域を明確にすることで、規制値以下で店頭に流通している農産品は、安全だということを示すことが、風評被害を防ぐために重要だと判断されたのです。
今回適用された暫定規制値は、原子力安全委員会が「指標」を示し、厚生労働省食品安全部長名で3 月17 日、全国の都道府県知事に通知されました。その上で、原子力災害対策特措法の原子力災害対策本部長たる首相からの指示によって、広域の出荷停止を可能とする非常措置に踏み切ったのです。
2.暫定規制値はどのようにして決めたのでしょう。
厚労省によると、原子力安全委員会により示された「飲食物摂取制限に関する指標」を暫定規制値としました。これは、国際機関「国際放射線防護委員会(ICRP)」が1 年間に、ほとんど健康被害を及ぼすことがない、許容できる体内被曝量を1 ミリシーベルト(1mSv)としていることを受け、1年間摂取し続けても1 ミリシーベルトを超えないように設定された指標です。食品安全委員会のリスク評価を経て正式な基準値を決定したものです。
仮に1 回、規制値の100 倍程度の放射性物質に汚染された農作物を誤って摂取してしまったとしても、身体的な影響が表れることはないのです。
「飲食物摂取制限に関する指標」を基に、食品・飲料水などを6 項目に分け、放射性ヨウ素や放射性セシウムなどの出荷制限する汚染基準値として、飲料水や牛乳は1 キロ当たりヨウ素300 ベクレルなどと暫定的に定めました。
この通知を受け、各都道府県、保健所を設置している市、東京23 区が対象品目のサンプル検査を実施しています。
もしも、放射性ヨウ素や放射性セシウムなどの放射性物質が基準値以上であれば、食品衛生法に基づき生産者による出荷を差し止めることになります。
基準値は放射性セシウムで飲料水や牛乳・乳製品が1 キログラムあたり200 ベクレル、野菜類、穀類、肉・卵など同500 ベクレル、放射性ヨウ素では飲料水などが同300 ベクレル、野菜類同2000 ベクレルなどです。
ただし、大人と違い、乳児は放射性物質を吸収しやすいとのデータがあるため、1 キログラムあたり100 ベクレルを超えた飲料水(水道水)を用いて乳児用調製粉乳を溶かし乳児に与えることや乳児の水道水摂取については控えること等が通知されています。また、同100 ベクレルを超えた牛乳・乳製品も乳児に飲ませないよう求められています。
3.放射線単位のベクレルとシーベルトの関係
放射線による人体への影響度合いを表す単位を「シーベルト(Sv)」、放射性物質が放射線を出す能力を表す単位を「ベクレル(Bq)」といいます。
ベクレル(Bq)は、ある放射性物質がどの程度放射線を出すかを示す単位ともいえます。
放射性物質にはさまざまな種類があり、各々の放射性物質によって、放出される放射線の種類やエネルギーの大きさが異なるため、これにより人体が受ける影響も異なります。このため、放射線が人体に与える影響は、放射性物質が出す放射線量(ベクレル)の大小を比較するのではなく、放射線の種類やエネルギーの大きさ、放射線を受ける身体の部位なども考慮した数値(実効線量:シーベルト)で比較する必要があります。
放射性物質の種類・摂取経路によって、身体への影響は異なるため、人体への影響を表すシーベルト(Sv)は、
シーベルト(Sv) = ベクレル(Bq) × (実効線量係数)
(実効線量係数は、核種・摂取経路などにより異なる)
によって計算されます。
たとえば、
①300Bq の放射性ヨウ素131 の入った食物1 キログラムを食べた時の人体への影響は、
300Bq × 2.2 × 10-5 = 0.0066ミリシーベルト(mSv)
②500Bq の放射性セシウム137 の入った食物1 キログラムを食べた時は、
500Bq × 1.3 × 10-5 = 0.0065ミリシーベルト(mSv)
被曝したことになります。
4.出荷停止された農作物
3 月21 日:福島県、茨城県、栃木県及び群馬県
原子力災害対策特別措置法第20 条第3 項の規定に基づき、原子力災害対策本部長である内閣総理大臣から、関係自治体に対し、食品の出荷制限の指示がありました。
①福島県、茨城県、栃木県及び群馬県において産出されたホウレンソウ及びカキナ(都道府県単位の産地表示は義務づけられていますが、消費者は栽培方法を区別できないため、露地物かハウス物かなどにかかわらず、県内全域での生産品が対象になりました)
②福島県において産出された原乳(搾りたての牛の乳)
3 月23 日:東京都
食品衛生法に基づく乳児の飲用に関する暫定的な指標値である、100Bq/kg(ベクレル/キログラム)を超えた、210 Bq/kg が測定されました。
都によれば、23 区及び一部の多摩地域では、乳児による水道水の摂取を控えるように、また授乳中の母親も避けた方が好ましいと通知されました。厚労省によれば、生活用水(お風呂や手洗いなど)としての利用は問題なく、また、暫定的規制値の100Bq/kg は、十分な余裕をもって設定された値であり、一時的な使用による健康影響はないため、代わりとなる飲用水がない場合は、飲用しても差し支えないとのことです。
3 月23 日:福島県
以下の11 品目から暫定規制値を超える放射性物質が検出されました。
ホウレンソウ、キャベツ、ブロッコリー、かぶ、アブラナ、茎立菜(くきたちな)、信夫冬菜(しのぶふゆな)、山東菜(さんとうな)、小松菜、ちじれ菜、紅菜苔 (ホンツァイタイ・コウサイタイ)
対象となる野菜は、
摂取・出荷を差し控えるもの
・非結球性葉菜類及び結球性葉菜類:ホウレンソウ、コマツナ、キャベツ 等
・アブラナ科の花蕾(からい)類:ブロッコリー、カリフラワー 等
出荷を差し控えるもの
・上記に加えカブ
です。
(全国農業協同組合連合会を経由した福島県の露地野菜は、21 日以降、出荷されていないとのことです。)
3 月23 日:茨城県
加工前牛乳とパセリから、暫定規制値を超える放射性物質が検出され、牛乳とパセリについて出荷制限を指示されました。
これらの指示は、当分の間続くことになるようです。
5.今後、留意してほしいこと
Q1 放射性物質が付着した食品を摂取するとどうなりますか?
A1 放射性物質が、食べ物や水から口に入ると、体内にとどまって放射線を出します。しかし、仮に1 回、規制値の100 倍程度の放射性物質を誤って摂取してしまったとしても、身体的な影響が表れることはありません。まして規制値以下の野菜については、心配する必要はありません。
(放射性ヨウ素131 は8 日たつと放射線の量が半分に、16 日後には4 分の1 と次第に減り、土壌には長く残りません。放射性セシウム137 は、放射線の量が半分になるのに30 年かかり、土壌に長くとどまって農産物に影響を与えます。ただし、放射性セシウムが付着した野菜を摂取し、体内に入ってもその多くは排出されます。)
Q2 放射性物質はどうやって野菜に付着するのでしょうか?取り除く方法はありませんか?
A2 放射性ヨウ素と放射性セシウムは風で運ばれ、ホウレンソウなど葉の大きいものほど付きやすいと言われています。
キャベツでは、外側には付きますが、中には入りにくいです。野菜は水でよく洗えば、ある程度放射線量は減少します。キャベツなどは外側の葉を取ってから水洗いするとよいでしょう。
また、放射性物質は土の表層にとどまりやすく、短期的には大根などの根菜類への影響は少ないとも言われています。
Q3 子どもへの影響は心配ないですか?
A3 子どもは大人より、放射線の影響を受けやすいと言われています。大人では体内に入った放射性ヨウ素のうち、約7%が甲状腺に留まり、残りは24 時間以内に排出されます。一方、子どもでは、約20%が甲状腺にたまってしまいます。従って、子どもの方が健康への影響は大きくなりやすいのです。
しかし、今回の規制値は、子どもが放射性ヨウ素に被ばくした食物の摂取を続けても問題がない結果を基に作られていますので、安心してください。
Q4 すべての野菜が問題なのでしょうか?
A4 規制値を超える値が出たのは、主に、ホウレンソウ、かき菜などの葉物野菜と、ブロッコリーなど花蕾(からい)類が中心です。畑で葉を広げて育つために、放射性物質を受け止めやすいようです。他の野菜には問題が出ていないものもあります。
福島県の検査では、ニラ、ネギ、ふきのとう、アサツキ。
茨城県では、ネギ、レンコン、ハウスで栽培したトマト、イチゴ、キュウリ、ニラ、水菜、チンゲンサイ、ピーマン、エシャロット、大葉、切りミツバ、セロリ、小玉スイカ、覆いをかけて栽培したレタス、白菜は規制値以下の低い値でした。
また、露地栽培の野菜に規制値を超えたものが多いようです。ハウス栽培した野菜や、露地栽培でも寒さよけで不織布をかけて育てた野菜は、規制値以下が多かったようです。
Q5 出荷制限が指示された野菜が市場に出回ることはないでしょうか?
A5 全国農業協同組合連合会を中心に該当野菜の出荷がない事を確認し、市場、卸、小売でも、該当野菜の入荷がない事を再確認していますので、心配はありません。
国、厚労省などからの情報には、気をつけるようにしましょう。
Q6 放射性物質が検出された水道水を、知らずに飲んでしまいました。大丈夫でしょうか? また、飲み水以外の使用もいけないのでしょうか?
A6 短期間の飲用では、健康上に問題はありません。
現在、厚生労働省は、福島原発事故の影響で、水道水の摂取制限が指示された場合に関して、以下の見解を発表しています。
①飲用水には用いない。
②生活用水(お風呂や手洗いなど)としての利用は問題ない。
③代わりとなる飲用水がない場合は、飲用しても差し支えない。
しかし、実際的には、水道水の代わりにペットボトルの水を求めても、商店には不足しており、水道水に摂取制限を受けた地域の多くの国民は、それを手に入れることは困難です。
厚労省の見解があるとしても、既にご説明したように、今の軽度汚染水道水は、毎日飲んでも健康被害は起こりませんし、既に測定値は、基準値以下になり始めているところも出始めています。
現実的には、今まで通り、飲用していて差し支えないのです。
Q7 妊婦や授乳中の女性が、摂取制限を受けた水道水を飲んでも、胎児や乳児に影響はありませんか?
A7 妊婦や授乳中の女性が、軽度汚染水道水を飲んでも、胎児や乳児に健康被害は及ばないことを、日本産婦人科学会はその理由を含め、詳しく、ご説明しています。
内容が重なりますので、下記のHPの発表を読んで、ご理解いただき、ご安心ください。
放射線の妊婦と乳幼児に対する健康に関して、
安心であると、詳しく説明しているホームページ
1. 日本産婦人科学会
「水道水について心配しておられる妊婦・授乳中女性へのご案内」
http://www.jsog.or.jp/news/pdf/announce_20110324.pdf
2. 日本医学放射線学会放射線防護委員会
「妊娠されている方、子どもを持つご家族の方へ-水道水の健康影響について」
http://www.radiology.jp/modules/news/article.php?storyid=912