ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

DOHaD( Barker説 )とは?

2011年07月03日 | 周産期医学

Developmental Origins of Health and Diseases (DOHaD)

近年、DOHaDという概念が注目されている。1980年代にBarkerらがはじめに提唱したのでBarker説ともいわれる。世界中の多くの疫学的な検討がこの学説を支持している。

これは、「胎生期から乳幼児期に至る栄養環境が、成人期あるいは老年期における生活習慣病発症リスクに影響する」という考え方である。

具体的には、「胎児期に低栄養環境におかれた個体が、出生後、過剰な栄養を投与された場合に、肥満・高血圧・2型糖尿病などのメタボリックシンドロームに罹患しやすくなる」というものである。

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我が国における出生時平均体重の推移

1975年以降の約30年間で、日本人の出生時平均体重は200g近く減少している。 これは、日本人の胎児期の栄養状態が悪化していることを意味し、今後、日本人のメタボリックシンドロームの発症率が増加する危険性が極めて高いのでは?と懸念されている。

出生時平均体重の減少の主因が、妊婦の栄養摂取不足によるとの説が有力である。我が国ではこれまで長年にわたって、多くの産科施設において妊婦健診で厳格な体重管理を行ってきた。しかし、厳格に体重管理を行う根拠は必ずしも充分ではない。今後は、妊娠中の栄養状態が児の将来の健康に影響を及ぼすことを、十分認識しなければならない。

Weight

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妊娠中の食事摂取

・ 妊娠中の栄養摂取量は、非妊時の所要量に、妊婦自身の基礎代謝の亢進と胎児の発育に要する量を加えて計算する。

・ 非妊時の必要量に加え、妊娠初期には1日約50kcal、妊娠中期には約250kcal、妊娠後期では約500kcalが必要である。

・ 1日栄養摂取量は、妊娠初期2000kcal、妊娠中期2250kcal、妊娠後期2450kcal程度を目安とする。

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妊娠中の体重増加量

・ 妊娠中の体重増加の推奨値に関しては統一見解がなく、介入研究も極めて少ない。したがって、厳しい体重管理を行う根拠となるエビデンスが乏しく、慎重な姿勢が求められる。 厳格に体重管理を行う根拠は必ずしも充分ではないと認識し、個人差を考慮してゆるやかな指導を心がける。

・ National Collaborating Center for Women's and Children's Health(英国)のガイドラインでは、初診時に身長体重を測定して評価を行い、栄養状態に問題がある場合のみ定期的に体重を測定し、通常の妊婦健診では体重を測定しないことを推奨している(定期的な体重測定は妊婦に不必要な心配を与えるに過ぎずメリットがないとしている)。

・ 日本人の食事摂取基準(2010年度版、厚生労働省策定)では、普通の体格の妊婦(非妊時BMI 18.5~25.0)が妊娠40週の時点で約3kgの単胎児を出産するのに必要な体重増加量は11kgとしている。

・ 妊娠中の体重増加は、妊娠前に痩せていた人(BMI 18.5未満)では9~12kg、普通の体型の人(BMI 18.5~25.0)では7~10kg、太っていた人(BMI 25.0以上)では5~7kg程度を目安とする。【日本産科婦人科学会周産期委員会、1997年】

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妊娠高血圧症候群の食事療法は有用ですか?

Answer
・ 食事療法に関するエビデンスはない
・ 極端な塩分摂取制限はしない
・ 水分制限やカロリー制限もしない

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妊娠高血圧症候群の予防法はありますか?

Answer
・ 現在のところ、有効な予防法がない


双胎間輸血症候群(TTTS)

2011年07月03日 | 周産期医学

TTTS: twin-twin transfusion syndrome

【定義】TTTSとは、双胎の一児から他児へ何らかの原因により血液が移行し、供血児(donor)では循環血液量減少、尿量減少、羊水過少をきたす腎不全型を示し、受血児(recipient)では循環血液量増加、尿量増加、羊水過多をきたす心不全型を示す症候群である。

Ttts1_3

【診断】 羊水過多児、過少児の最大羊水深度が、それぞれ>8cm、<2cmで、同時にみられた場合にTTTSと診断する。

羊水過多・羊水過少をきたす疾患(胎児消化管閉鎖、泌尿器疾患、前期破水など)は除外される。

【頻度】 TTTSは一絨毛膜二羊膜(MD)双胎の5~15%に発症し、一絨毛膜一羊膜(MM)双胎での発症はまれである。

TTTSは胎盤上での吻合血管の存在が必須であるために二絨毛膜二羊膜(DD)双胎での発症はまずない。

【予後】
・ 周産期死亡率は60~100%におよぶ。
・ 受血児は循環血液量の増加により心拡大を起こし、うっ血性心不全となる。悪化すると胎児水腫となる。また、尿量の増加によって羊水過多となる。
・ 供血児は循環血液量の減少からFGRとなる(stuck twin)。また、尿量減少によって羊水過少となる。
・ 受血児、供血児ともに胎児機能不全に陥り、子宮内胎児死亡となることがある。

※ TTTSは16週未満にも発症する。早期発症TTTSは放置すれば極めて予後不良なので、発症有無確認のために一絨毛膜双胎では頻回の外来受診(少なくとも2週間に1回以上)が勧められる。

【治療】
(1) 体外生活が可能な時期(妊娠26週以降)であれば娩出後に新生児治療を行う。

(2) 妊娠26週未満の治療法
① 羊水除去(AR: aminio reduction)
・ 子宮内圧の減圧により妊娠期間を延長し児の生存率を改善する。
・ ARによる成績は児生存率60%、神経学的後遺症を残す割合は25%である。

② 胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP: fetoscopic laser photocoagulation)
・ FLPは、TTTSにおいて供血児と受血児との間の胎盤吻合血管をYAGレーザーにより凝固・遮断させる方法である。TTTSの原因と考えられている吻合血管を遮断することで、両児間の血流不均衡を是正できる根治療法で、近年注目されている。
・ 欧米と日本でのFLPとARの治療成績を比較した報告をまとめると、少なくとも一児が生存する割合は80%対60%とFLPがやや上回る程度であるが、助かった児がその後神経学的後遺症を残す割合が5%対25%というようにFLPの方が有意にすぐれていると言える。
・ 欧州における前方視的無作為試験でも、Stage Ⅰ~Ⅳにおいて、FLPはARに比較して児生存率を上昇させ、神経学的後遺症を減少させた。
・ 米国での前方視的無作為試験では、FLPのARにたいする有用性は示されなかったが、レーザー手術の治療成績が悪く、手術手技の未熟によるためと考えられた。
・ 本邦においても26週未満TTTSに対してFLPが限られた施設で行われており、児生存率80%、流産率5%、神経学的後遺症5%前後と良好な成績である。

****** TTTSのStage分類(Quintero)

Ttts

注1:Stage Ⅰは、「供血児の膀胱がみえること」かつ「血流異常がないこと」。
注2:血流異常は、1) 臍帯動脈拡張期途絶逆流、2) 静脈管逆流、3) 臍帯静脈の連続する波動のいずれかを、供血児および受血児のどちらか一方に認めれば、stage Ⅲと診断してよい。
注3:血流異常を認めるが供血児の膀胱がみえるものは、Stage Ⅲ atypical と亜分類し、膀胱がみえないStage Ⅲ classical と区別する。
注4:供血児および受血児のどちらか一方に胎児水腫を認めればStage Ⅳと診断する。血流異常や供血児の膀胱の確認は問わない。
注5:供血児および受血児のどちらか一方が胎児死亡となったものはStage Ⅴと診断する。血流異常、胎児水腫の有無、膀胱の確認は問わない。

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本邦におけるFLPの適応と要約
Jpan Fetoscopy Group(JFP)

適応:
・TTTSである(MD双胎、羊水過多>8cm、羊水過少<2cm)
・妊娠16週以上、26週未満
・Stage Ⅰ~Ⅳである

要約:
・未破水である
・羊膜穿破・羊膜剥離がない
・明らかな切迫流早産兆候がない(頸管長20mm以上を原則とする)
・重篤な胎児奇形がない
・母体が手術に耐えられる(重篤な合併症がない)
・母体感染症がない(HIVは禁忌)
・研究的治療であることを納得し同意している

※ 適応は病態の厳密な評価後に決定されるので、病態の評価は超音波・ドプラ検査に習熟した施設で行われ、FLP施行可能な施設への紹介はそれら施設を介して行われている。

※ 本邦でのFLPは、現在、Japan Fetoscopy Group(JFG)に所属する7施設(北海道大学、宮城県立こども病院、国立成育医療センター、聖隷浜松病院、国立長良医療センター、大阪府立母子医療センター、徳山中央病院)にて行われている。

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不均衡双胎(discordant twins)

・ 一般に、双胎で児の体重差が大きい児の25%以上を呈した場合、discordant twinsと診断される。
・ 胎盤内の血管吻合を介する血流移行が成因と一般的には理解されやすいが、出生した児のヘマトクリット値も、大きい児が必ずしも多血症で小さい児が貧血とは限らない。胎盤内血管吻合のない二絨毛膜二羊膜性双胎でもdiscordant twinsは起こりえる。
・ concordant twinsと比較してdiscordant twinsでは、羊水過多症、前期破水、早産、帝王切開分娩が高率に合併する。