ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

脳室周囲白質軟化症(PVL)

2011年07月12日 | 周産期医学

periventricular leukomalacia: PVL

PVLは、早産児(主として在胎32週以下)の脳室周囲の白質に起こる虚血性脳病変である。早産児では、脳血管とグリア形成が未熟であるため、脳の血流(灌流)が低下するとPVLを起こす。

PVLの特徴:
①基本的に左右対称の病変である。

②大脳白質が選択的に障害を受ける。

③大脳白質の脳室壁に近い部位に主な病変があり、拡大する場合には皮質下へと広がる。

● 病態生理

PVLの好発部位である脳室周囲の白質は、脳表面から脳室に向かう動脈と、脳室周囲から深部白質に向かう動脈の灌流境界領域にあたる。早産児では、脳室側からの血管の発達が遅れており、グリア形成も未熟であるため、脳血流が減少すると、容易に虚血性の組織壊死がおこると考えられている。このPVLの好発部位は大脳の運動領野からの錐体路系にあたるため、脳性麻痺(CP)の原因となる。特に脳室の近くには下肢にいく神経繊維が通っているため、この部位の障害によりPVLでは下肢の痙性麻痺が多い。

● 臨床的危険因子

①出生前因子:双胎間輸血症候群、胎児発育不全(FGR)、胎児機能不全(NRFS)など。

②出生時因子:新生児仮死、緊急帝王切開を要する母体出血(常位胎盤早期剥離、前置胎盤など)など。

③出生後因子:徐脈を伴う無呼吸発作、敗血症、低炭酸ガス血症、動脈管開存症、気胸など。

④その他の因子:PVLは前期破水や羊膜絨毛膜炎のある例に多いことから、感染とそれに伴うサイトカインの影響が、発症に関与しているのではないかと考えられている。

● 臨床症状

生後数か月は無症状のことが多く、生後6か月以降に下肢優位の痙性麻痺が出現してくる。障害の程度はさまざまであり、知能障害を起こさない症例もある。

PVLが原因のCPの症状は、痙性両麻痺(下肢の痙性が強く、上肢では軽い麻痺を示す)が最も多い。PVLが原因のCP例では、他のCP例(成熟児の低酸素性虚血性脳症が原因のCPなど)に比して、精神発達の遅れは軽度である。特に、痙性両麻痺例は、全く知能障害を認めないことも珍しくない。しかし、四肢麻痺例では中等度から重度の知能障害を認めることが多い。四肢麻痺例の一部は、West症候群などのてんかん、視空間認知の傷害、学習障害などを合併する。

1. 頭部超音波検査

頭部超音波検査での初期の所見としては、脳室周囲高エコー輝度(PVE)がある。PVE出現の1~3週間後に、多くは多発性の嚢胞形成を認め、嚢胞性PVL(cystic PVL)と診断される。ただし、明らかな嚢胞を認めない場合もある。

2. 頭部MRI

頭部MRIでは、超音波検査で診断できないPVLの診断が可能であるが、検査室への移動や検査中の全身管理など、NICU入院児にはむずかしい面が多く、新生児期の適応は限られる。したがって、主に新生児期以降、状態が安定してから、超音波検査で診断されたものの経過観察と、診断されなかったがリスクの高いものについての検査に用いられる。

● 発症頻度

PVLの発症頻度は、本邦NICUでの33週未満の児に関する調査によると、超音波検査では約5%、CT/MRIでは8~9%にのぼっている。

● 治療

PVLの診断時には虚血性病変が起きたあとであり、これを修復する有効な治療法はない。

CPになったら運動療法リハビリが不可欠となる。

● 予防法

予防策は、この疾患が早産による未熟性に起因することから、早産を避けることに尽きる。また、出生前、出生後を通じて、脳血流の低下をきたさぬよう血圧の維持に留意する。

出生前の母体へのステロイド投与がPVLの予防効果があると報告され、RDSの予防も兼ねて行われている。ステロイドの中でもベタメタゾン(商品名:リンデロン)のみにて有効性が認められており、PVL予防に至る機序は明らかではない。


壊死性腸炎(NEC)

2011年07月12日 | 周産期医学

necrotizing entero-colitis: NEC

NECは、主として低出生体重児にみられる腸管壊死を伴う重篤な腸炎である。未だ死亡率も高く、新生児における最も重篤な病態の一つである。腸管の未熟性、血行障害、細菌感染などが発症の要因となっている。

● 疫学

男女比は1:2と女児に多い。

90%が生後10日までに発症する。

十二指腸を除く全腸管に発生しうるが、好発部位は回腸下部、盲腸、上行結腸である。

母乳栄養児に比較して人工栄養児で高い発生率を示す。

日本での発生頻度は、NICU入院中の児で0.15%で、出生体重が小さいほど高くなり、出生体重1000~1499gでは0.46%、出生体重1000g未満では1.49%とされている。

● 臨床所見

大部分の症例は授乳開始後に発症する。初発症状は、腹部膨満、嘔吐、下痢、下血、不活発、発熱、低体温などであるが、急激な経過で腸管穿孔をおこすことが多い。

Necabd
著明な腹部膨満

● Bellの病期分類

Ⅰ期(NEC疑診例):
非特異的な症候で、胃残乳増加、血性胃残、腹部膨満増強など、いわゆる未熟児でみられる重篤だが非特異的な症候を認める。

Ⅱ期(NEC確診例):
Ⅰ期で認める症候に加え、X線所見として、腸管の壁内ガスや門脈ガスがみられると、臨床的にNECの確定診断に至る。

Ⅲ期(NEC進行例):
腸管穿孔によって、Ⅱ期よりもさらに進行した重篤な状態であり、全身的なショックの所見を呈する。X線所見で腹腔内遊離ガスの存在を認める。

● 腹部単純X線所見

初期の腹部X線像は軽度の腸閉塞像で、びまん性の腸管ガス像、拡張腸管ループ、腸管壁の肥厚像などを示すが、Bellの病期分類Ⅰ期に相当する時期ではNECの確定は困難で、鑑別のため便・吐物・血液の細菌検査、血清電解質、生化学、血液・凝固機能検査を行い、X線撮影を繰り返して経過観察する。腹部単純X線所見で腸壁気腫像(pneumatosis intestinaris)が認められれば診断が確定する。門脈内ガス像が認められれば最重症新生児の状態で、一般的には高度の壊死を伴う。腹腔内遊離ガスがあれば腸管穿孔の所見であり手術適応となる。

Necperforatecone
腸壁気腫像(pneumatosis intestinaris)

Portalvenousgas
腸管穿孔を起こしたNECの症例
腹腔内遊離ガス(free air)
門脈内ガス像(portal venous gas)

● 血液検査所見

特異的な検査所見はない。白血球数の増加もしくは減少、白血球分画の左方移動、顆粒球減少、血小板減少、アシドーシスの進行、電解質異常、CRPの上昇などを、病態の進行に伴い認める。Ⅰ期では正常であることも多い。

● 予防

Probiotics(生菌製剤)の使用、母乳による超早期授乳によるNEC予防効果が期待される。

● 治療 

NECは早期診断、早期治療が重要で、多くの症例では疑診の段階からの治療が必要になる。NECが疑われればまず内科的治療が主体となり、外科的治療は穿孔例や、内科的治療に反応せずに状態が増悪した症例に行われる。

1. 内科的治療

基本は腸管の安静と合併症や敗血症の予防で、状態の悪化を防ぐことにある。絶食(経腸栄養の中止)、経鼻胃管を挿入し消化管の減圧、電解質バランスおよび蛋白補給に留意した輸液、適切な抗生剤、抗真菌薬の使用、積極的な呼吸・循環管理を行う。DICの所見を認めた場合は、新鮮凍結血漿や濃厚血小板を輸血する。保存療法で全身状態の改善を認めれば、症状、特にCRPの改善を目安にして慎重に経腸栄養を再開する。

2. 外科的治療

腸管穿孔は手術の絶対適応である。腸管病変に対する内科的治療にても腸管の損傷が強く、イレウス症状が改善しない場合も外科的治療が必要になる。穿孔性腹膜炎を来す前での早期の外科治療の介入が生存率向上に関与するとされるが、穿孔する前での腸管壊死の臨床所見は不正確であり、手術適応には議論がある。手術の基本は壊死腸管の摘出と二次感染巣の除去で、最も病変の強い腸管の切除と一時的腸瘻造設が標準とされるが、一期的に腸吻合を行うこともある。状況によっては、まずドレーン留置のみを行い、炎症所見や全身状態をみながら、必要に応じて腸瘻造設などの腸管への治療を行う場合もある。

● 予後

汎発性腹膜炎,敗血症,DICなどを高率に合併し,予後は不良である。治癒しても腸管の狭窄や短腸症候群などの後遺症を残すことがある。日本小児科学会で5年ごとに行っている新生児外科全国集計では、1998年から2008年までの低出生体重児のNECの死亡率は42~50%で推移している。

****** 参考となるサイト

日本小児外科学会ホームページ:壊死性腸炎の解説
http://www.jsps.gr.jp/05_disease/gi/nec.html

腸管壁内ガス像( Professor Fujioka's Files )