ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

肥厚性幽門狭窄症

2011年07月16日 | 周産期医学

hypertrophic pyloric stenosis

● 概念

生後2~3週頃より嘔吐が始まり、回数、量が次第に増加し、1~2週間で噴水状となる。無胆汁性の嘔吐で、嘔吐の直後から飲みたがる。飲ませないと嘔吐しない。嘔吐により体重増加不良、脱水、低Cl血症と低K血症を伴う代謝性アルカローシスをきたす。

Ps_2

● 発症頻度

頻度は出生1000人に対し1~2人で、男女比は4~5:1、男児では第1子に多い。家族内発症例もみられる。

● 病因

輪状筋を主とした幽門筋肥厚により、幽門管が延長・狭小化し、胃内容の通過障害をきたす。出生直後には肥厚は存在せず徐々に肥厚して来る。幽門筋が肥厚する機序は未だ正確には解明されてない(神経原説、筋原説、消化管ホルモン説などがある)。

● 診断

触診: 右上腹部にオリーブ状の腫瘤を触知。

腹部エコー: 長軸像では幽門が狭小化し、肥厚した幽門輪状筋が前庭部に突出して、子宮頸部様に描出される(ultrasonic cervix sign)。短軸像では低エコーの肥厚した幽門輪状筋が高エコーの粘膜面を取り囲むように描出される(doughnut sign)。幽門筋厚4mm以上、幽門管長14mm以上で確診される。

Psus
ultrasonic cervix sign

Pyloricstenosis3_2
doughnut sign

消化管造影検査: string sign、umbrella signなどが特徴的。

Stringsign
string sign

Pyloricstenosisumbrellasign
umbrella sign(幽門が十二指腸へ突出した像)

● 治療

アトロピンによる内科的治療も試みられているが不確実である。

Ramstedt(ラムステット)手術(幽門筋切開術)が劇的に有効である。術後24時間で経口摂取可能で、創も臍部アプローチ(臍部弧状切開法)でほとんど目立たない。腹腔鏡を用いたアプローチで幽門筋切開術を行なう施設もある。

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日本小児外科学会のホームページ:肥厚性幽門狭窄症の解説
http://www.jsps.gr.jp/05_disease/gi/hps.html

MyMed:肥厚性幽門狭窄症
http://mymed.jp/di/rei.html


未熟児網膜症(ROP)

2011年07月16日 | 周産期医学

retinopathy of prematurity (ROP)

● 概念

ROPは早産児の未熟な網膜を基盤として、さまざまな要因が加わり発症する血管増殖性病変で、大部分が無治療で軽快するが、一部のより未熟性の強い児では網膜剥離を起こし視力障害を残すこともある。

● 発症率

在胎26週未満では約90%ときわめて高率であり、在胎週数の増加とともに減少し、32~34週では約12%である。

● ROPの国際分類

stage 1:境界線形成
stage 2:境界線の隆起
stage 3:網膜外に線維血管性増殖を伴った隆起
stage 4A:中心窩外網膜剥離
stage 4B:中心窩を含む部分的網膜剥離
stage 5:全網膜剥離

aggressive posterior ROP: 網膜血管の発育が著しく未熟で早期に治療をしなければ、すみやかに網膜全剥離にいたるもの

● 厚生省未熟児網膜症研究班による新臨床経過分類(1986)

Ropstage

● 病因・病態

早産児では網膜の血管が周辺まで発達せず、無血管領域を残している。ROPでは、さまざまな病因により、網膜血管先端の未熟な血管芽細胞が異常な方向へ成長や増殖をすることによって、有血管領域と無血管領域の境界に厚い組織(境界線)を形成する。軽症の場合は境界線を越えて鋸歯状縁まで血管が伸びるが、重症例では増殖組織の牽引によって網膜剥離を起こし広範囲になると失明に至る。

ROPのリスク因子としてよく知られているのは、不適切な高濃度酸素投与、低炭酸ガス血症、輸血、重症感染症、過剰輸液などである。

● 診断・治療

在胎34週以下、出生体重1800g以下であった早産児に対して、生後3週より定期的に眼底検査を行う

網膜剥離のリスクが高い場合(国際分類stage 3)には、アルゴンレーザーによる光凝固術を開始する。

網膜剥離が拡大傾向にあるときは硝子体手術や輪状締結術を行う。

1990年に出生した超低出生体重児(1000g未満)の6歳時全国調査では、ROPによる両眼失明の頻度は2.2%と報告されている。


完全大血管転位症( complete TGA)

2011年07月16日 | 周産期医学

complete transposition of great arteries (complete TGA)

● 定義

大動脈が右室、肺動脈が左室から起始する心奇形である。

● 分類

Ⅰ型:心室中隔欠損を伴わないもの。
Ⅱ型:心室中隔欠損を伴うもの。
Ⅲ型;心室中隔欠損と肺動脈狭窄を伴うもの。

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完全大血管転位症(Ⅰ型)

● 血行動態

いずれの型においても、体静脈血は、右房→右室→大動脈→全身→大静脈→右房、肺静脈血は、左房→左室→肺動脈→肺→肺静脈→左房と、各々の血行が並行に潅流する。したがって、心内の有効シャント量により症状が異なる。

● 心エコー

左室から肺動脈(血管が分岐する)が、右室から大動脈(血管がアーチを描く)が出ていることを確認する。正常では肺動脈が大動脈の左前方を走るが、完全大血管転位症(complete TGA)では大動脈が左前方を走る。合併する心室中隔欠損(VSD)、肺動脈狭窄症(PS)、動脈管開存(PDA)を描出し、各型の分類をする。

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Ctga

● 治療

1. BAS (Balloon Atrial Septostomy)

左房内に入れたバルーンを右房内に引き抜くことによって、卵円孔(左右の心房の間の交通)をひろげて、出生後早期に低酸素血症の改善を図る。

Bas

2. 外科的手術

①大動脈スイッチ手術(arterial switch operation: ASO)、Jatene(ジャテーン)手術:

Ⅰ型、Ⅱ型が対象。大動脈と肺動脈を弁のすぐ上で付け替え、冠動脈も走行がねじれないよう付け替える。

Aso
大動脈スイッチ手術後

②Rastelli(ラステリ)手術:

Ⅲ型が主な対象。左心室-大動脈トンネル作成+右室流出路作成(心室中隔欠損を利用し、右心室と肺動脈を人工血管を用いて通路を作成する)。

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Rastelli手術

3. 内科的治療

BASを行うまで、あるいは出生後早期の外科手術の間、動脈管を介する血流を確保するためにプロスタグランジンE1を使用する。

● 予後

出生直後にBASなどの治療が行われなければ、きわめて予後不良である。また、出生前に卵円孔および動脈管が狭小化もしくは閉鎖している症例は予後不良である。

大動脈スイッチ手術の後の完全大血管転位症の予後は比較的良好である。ただし、大動脈弁閉鎖不全、肺動脈・大動脈の狭窄、冠動脈の吻合部の狭窄の有無などについて、注意深く経過を観察する必要がある。 再手術やカテーテル治療が必要になる場合がある。