2) 新FIGO進行期分類との関係 本ガイドラインの作成作業中にFIGO(International Federation of Gynecology and Obstetrics)の進行期分類が改訂されました。新分類では上皮内癌0期を除外することとなっていますが、0期は患者数も多く患者年齢も若年者が多いためにガイドラインに記述する意義は高いと判断し、従来通り0期に対する治療指針を示すこととしました。 一方、新分類でIIA期がIIA1期とIIA2期に細分類されました。それに伴い日本産科婦人科学会を中心とした「子宮頸癌取扱い規約」の改訂作業が急速に進み、本ガイドライン発刊時期からそれほど期間をおかずに発刊されることが明らかとなりました。そこで、本ガイドラインではIIA1期とIIA2期の細分類を採用しています。
編集:日本婦人科腫瘍学会
後援:日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、婦人科悪性腫瘍研究機構、日本放射線腫瘍学会
第51回日本婦人科腫瘍学会学術講演会が福岡県久留米市のホテルマリターレ創世で開催されてます。学会会場内に設置された書籍販売コーナーで、「子宮頸癌治療ガイドライン」(2011年版)定価2940円が販売されてました。2011年11月30日発行で、正式に発行する前の学会場での先行販売とのことで早速購入しました。
****** 第2版序文
初版(2007年版)から4年が経過し、やっと改訂版(2011年版)の発刊にこぎつけました。初版の時も「子宮体癌治療ガイドライン」と同時に作業を開始したにもかかわらず1年長くかかりましたが、今回の改訂でも時間がかかってしまいました。これは、第一に子宮頸癌のエビデンスが蓄積されているとはいえ、エビデンスが一つ一つ連続して積み重なっておらず、各エビデンス間での比較が難しかったことによります。第二に、国内の治療法発達の歴史的背景の違いから、せっかく欧米で高いエビデンスがある領域であっても、それがそのまま国内の治療指針に適応とならなかったという点にも依存します。そのために初版作成にあたっては作成委員会内でも意見がなかなか集約せず、コンセンサスミーティングでも多くの意見が出されるなかでコンセンサスに至らないままの事項が残っておりました。今回の改訂に際しては、新たな項目は設けずに、最新のエビデンスを収集しながら国内の意見を再度集約することを目的としました。すなわち、初版を吟味しなおしてブラッシュアップするという方針で改訂作業を進めることとしました。そのために、できるだけ全国の大学やがんセンター、中核病院などで実地診療に携わっている専門家に作成をお願いしたいと考え、今回初めて作成委員を公募しました。また、初版で放射線腫瘍医側の意見を十分に反映できなかったのではないかという反省から、日本放射線腫瘍学会に事前に作成委員の推薦をお願いしました。
今回の改訂の主なポイントは以下の通りです。
1) 推奨グレードの変更
初版では推奨グレードがA、B、C、D、A’、Eの6段階になっていましたが、「子宮体がん治療ガイドライン2009年版」や「卵巣がん治療ガイドライン2010年版」に倣い、A、B、C1、C2、Dの5段階に変更しました。
2) 新FIGO進行期分類との関係
本ガイドラインの作成作業中にFIGO(International Federation of Gynecology and Obstetrics)の進行期分類が改訂されました。新分類では上皮内癌0期を除外することとなっていますが、0期は患者数も多く患者年齢も若年者が多いためにガイドラインに記述する意義は高いと判断し、従来通り0期に対する治療指針を示すこととしました。
一方、新分類でIIA期がIIA1期とIIA2期に細分類されました。それに伴い日本産科婦人科学会を中心とした「子宮頸癌取扱い規約」の改訂作業が急速に進み、本ガイドライン発刊時期からそれほど期間をおかずに発刊されることが明らかとなりました。そこで、本ガイドラインではIIA1期とIIA2期の細分類を採用しています。
3) 「子宮頸癌取扱い規約」との役割分担
「子宮頸癌取扱い規約」との役割分担という意味で、放射線治療の具体的な方法については本ガイドラインで詳述することとしました。
4) 腺癌関連のCQの取り扱い
子宮頸癌では腺癌単独での臨床試験がほとんど施行されていないことから、初版に設けていた腺癌単独の章は削除し、各進行期のなかで腺癌についても記述することとしました。
5) 妊娠合併症例の充実
子宮頸癌症例の若年化、妊娠出産年齢の高齢化という傾向から、妊娠に合併した子宮頸癌の取り扱いはますますその重要性を増しています。そのために、これに関連するCQを増やし詳細に治療指針を示すこととしました。
東日本大震災の年に、大変困難と思われた「子宮頸癌治療ガイドライン」の改訂版を世に出すことができましたことは、本書に関わったすべての人にとって大きな誇りとなるはずです。ガイドライン作成のまとめ役をしてきたものとして、改訂作業に携わっていただいたすべての皆様に深甚なる感謝を申し上げます。
2011年盛夏
日本婦人科腫瘍学会子宮頸癌治療ガイドライン検討委員会
委員長 八重樫伸生
副委員長 片渕秀隆
****** 目次
第1章 ガイドライン総説
第2章 0期とIA期の主治療
I 0期
総説
CQ01 上皮内癌に対して推奨される治療は?
CQ02 治療後に再発した場合、どのような対応が推奨されるか?
II IA期
総説
CQ03 IA1期に対して推奨される治療は?
CQ04 IA2期に対して推奨される治療は?
CQ05 単純子宮全摘出術後にup stageされてIB期(またはそれ以上)の癌がみられた場合、推奨される治療は?
III 0期・IA期の腺癌
総説
CQ06 上皮内腺癌に対して推奨される治療は?
CQ07 IA 期の腺癌に対して推奨される治療は?
第3章 IB期とII期の主治療
総説
CQ08 IB1・IIA1期(扁平上皮癌)に対して推奨される治療は?
CQ09 IB2・IIA2期(扁平上皮癌)に対して推奨される治療は?
CQ10 IIB期(扁平上皮癌)に対して推奨される治療は?
CQ11 IB・II期(扁平上皮癌)に対して術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy;NAC)は推奨されるか?
CQ12 広汎子宮全摘出術の場合の骨盤神経温存術は推奨されるか?
CQ13 広汎子宮全摘出術の場合に卵巣温存は可能か?
CQ14 広汎子宮全摘出術の場合に傍大動脈リンパ節郭清の追加は推奨されるか?
CQ15 IB・II期の腺癌に対して推奨される治療は?
第4章 IB 期とII期の術後補助療法
総説
CQ16 推奨される術後補助療法は?
CQ17 術後再発リスク因子をもつ例に術後補助療法として放射線治療を行う場合、推奨される照射方法は?
CQ18 傍大動脈リンパ節領域への予防照射の適応は?
CQ19 維持療法として経口抗がん剤や免疫療法は推奨されるか?
第5章 III期とIV期の主治療
総説
CQ20 III・IVA期に対して放射線治療を施行する場合、放射線治療単独と同時化学放射線療法(CCRT)のいずれが推奨されるか?
CQ21 III・IVA期に対して同時化学放射線療法(CCRT)を施行する場合、推奨される薬剤は?
CQ22 III・IVA期に対して主治療前に施行する化学療法は推奨されるか?
CQ23 III・IVA期に対して手術療法は推奨されるか?
CQ24 IVB期に対して推奨される治療は?
CQ25 III・IV期の腺癌に対して推奨される治療は?
第6章 再発癌の主治療
総説
CQ26 前治療として放射線治療が施行されていない場合、骨盤内に限局した再発に対して推奨される治療は?
CQ27 照射野内再発に対して推奨される治療は?
CQ28 照射野外再発、あるいは放射線治療を施行していない場合の骨盤外再発に対して推奨される治療は?
CQ29 再発癌に対して全身化学療法は推奨されるか?
CQ30 再発癌に対して全身化学療法を行う場合、推奨されるレジメンは?
第7章 妊娠合併子宮頸癌の治療
総説
CQ31 妊娠に合併した0期に対して推奨される治療は?
CQ32 妊娠に合併したIA期に対して推奨される治療は?
CQ33 妊娠に合併した浸潤癌に対して推奨される治療は?
第8章 治療後の経過観察
総説
CQ34 治療後の経過観察として推奨される間隔は?
CQ35 治療後の経過観察において施行すべき検査項目は?
第9章 資料集
I 抗がん剤の有害事象一覧
II 子宮頸癌に用いることが多い抗がん剤と保険適用の有無
III 略語一覧
索引
****** 私見
医療従事者が患者さんのためによかれと思って最善を尽くしたとしても、必ずしも100%患者さんの期待通りの結果が得られるとは限りません。患者さんに対して、“我が国における現時点での標準医療”が提供されていれば、結果の善し悪しに関わらず、その結果を厳粛に受け入れるしかありません。
医療従事者は、職務として患者さんに関わる以上、“我が国における現時点での標準医療は何であるか?” を患者さんにきちんと説明して、現時点での標準医療を患者さんに提供できるように最大限の努力を払い続ける義務があります。もしも、自施設でそれが無理な状況であれば、標準医療を提供することが可能な施設に患者さんをただちに紹介する必要があります。
患者さん自身が、御自分の意思で標準医療を拒否し、自己責任において代替療法を選択した場合は、その結果責任を他人に押しつけることは難しいと思います。医療従事者が、現時点での標準医療を患者さんに提供する努力を怠って、エビデンスに乏しい代替療法を患者さんに押し付けて、その結果が不良の場合は、その医療従事者に対して結果責任が問われるのは当然だと思います。そこで、医学の全分野において、“現時点における標準医療は何か?” ということが、常に、非常に大きな問題となります。
最近刊行された産婦人科関連のガイドライン、取り扱い規約は以下の通りです。
・ 子宮頸癌治療ガイドライン(2011年版)
・ 卵巣がん治療ガイドライン(2010年版)
・ 子宮体がん治療ガイドライン(2009年版)
・ 絨毛性疾患取扱い規約第3版(2011年)
・ 産婦人科診療ガイドライン産科編2011
・ 妊娠高血圧症候群(PIH)管理ガイドライン2009
・ 日本版救急蘇生ガイドライン2010に基づく新生児蘇生法テキスト改訂第2版(2010年)
・ 産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2011
・ 子宮内膜症取扱い規約第2部治療編・診療編(第2版)2010年
・ ホルモン補充療法ガイドライン2009
etc.
自分の関わっている診療分野のガイドラインや取り扱い規約の最新版を常に熟読吟味して、科内でも周知徹底させる必要があると考えています。