深海の美魚が
真珠の声で歌いながら
嘘と糞で造った都市の中を
静かに泳いでいる
人間は目を覚ましているが
まだ眠っている
ここまできても
何かをしようとする人間は
誰もいない
汚いことをやった人間は
苦しい奈落の匂いが漂う館の中で
奥の座敷の隅に座って
美魚の声に呼び出された
灰の鼠の声を聞いている
もう帰れ もうだめだ
もうやめろ
おまえのよどんだ右目の中に
その鼠は棲んでいる
蚤のように小さな薔薇の造花を作りながら
これが一万本できれば百円になるのだと
鼠はつぶやく
もう帰れ もうだめだ
もうやめろ
鼠の声が聞こえる
どんなに耳をふさいでも 聞こえる
おまえの本当の故郷は
おまえの目の中にある
帰って来いと 鼠が言う
深海の美魚は
真珠の声で歌いながら
そうして次々と真実の芽を呼び出していく
明らかな嘘で造った夢の斜塔が
幸福の歌のような音を立てて
静かに傾ぎはじめる
ここまできても まだ動かぬか
人間よ
奥座敷の 柱にもたれながら
人間は かすかに
幻の館を食う 紫水晶の白蟻が
柱をかじる音を 聞いている
もうすぐ終わりだと
鼠が目の中でささやく