街を
足が三本ある女が
歩いている
いや二本なのだが
歩くたびに何かがぶれて
三本あるように見えるのだ
馬鹿が
自分が嫌で
顔も体も人生も
すべてを盗んで
まるっきり別の人間になった
それを生きるのが苦しすぎて
霊魂はたちまちのうちに逃げた
あとの空っぽになった命と人生を
ほかの大勢の霊魂が
共同で運営しているのだ
大勢の人間がそれを生きているがゆえに
時にほかの人間の足がずれてきて
三本の足があるように見えるのだ
よく見れば
この黄昏の世界には
そのように
蛸のように足の数が増えた
人間がうようよといる
あれらはもう人間ではないのだ
人間の形をした
空蝉だ
血の流れる音はしても
心は流れていない
生きていても
生きていることには
ならない