DAISPO WORLD BOXING EXPRESS

今年もやってるやってる~

「気になったボクサー」(リディック ボウ)

2023年02月08日 05時48分16秒 | ボクシングネタ、その他雑談

以前、2014年7月24日から2020年5月25日の間に、「この階級、この選手」というものを下記のポリシーに従い書いていました。

「1990年代初頭からこれまでの約四半世紀、それぞれの階級で印象に残った選手を各階級3人ずつ挙げていっています。記載上のルールは各選手、登場するのは1階級のみ。また、選んだ選手がその階級の実力№1とは限りません。個人的に思い入れのある選手、または印象に残った選手が中心となります。」

「気になったボクサー」というのは、「この階級、この選手」に類似したものになります。ただ、階級やその選手の活躍した時代にとらわれず、記事を投降した時点で「気になったボクサー」を載せていきます。選ぶ側(私ですが)からすると、気楽に現役や過去の選手を選出出来るという事です。

この企画の第三弾に登場するのは、1988年のソウル五輪で銀メダルを獲得し、その後イベンダー ホリフィールド(米)を破り一度は統一ヘビー級王座の座に輝いたリディック ボウ(米)。その潜在能力は、この30年間のヘビー級でもトップクラスのものでした。通算戦績は43勝(33KO)1敗と大変立派なもの。彼の心がけ次第では、ヘビー級史、いや、ボクシング史に名を輝かせることも可能だった選手でした。

ボウは身長196センチでリーチは206センチ。ウラジミール クリチコ(ウクライナ)は198センチの身長と206センチのリーチ。アンソニー ジョシュア(英)は身長198センチ、リーチは208センチ。タイソン フューリー(英)は少し大きく206センチの身長と216センチのリーチ。大型化が続いているヘビー級ですが、ボウが登場する以前まで、大柄な選手はただの「木偶の棒」、デカいだけで何も出来ないというのが当たり前でした。しかしボウと、ソウル五輪でボウを破り金メダルを獲得、その後、3度ヘビー級王座を獲得したレノックス ルイス(カナダ/英)によって、「デカいだけでなく、何でも出来る」選手がヘビー級のトップ戦線にも表れるようになりました。

アマチュアで104勝18敗のレコードを残すも、残念ながら一番になれなかったボウ。プロでは順調に、そして颯爽に成長していきます。デビューの年となった1989年には13(12KO)もの白星を積み重ねたボウ。快進撃は翌1990年にも続いていきます。

(ソウル五輪スーパーヘビー級の表彰式。中央がルイスで、右がボウ。)

デビュー2戦目からは対戦相手の質をグッと上げつつ勝ち星を挙げていったボウ。その対戦相手には、ピンクロン トーマス(米)やトニー タッブス(米)等、元世界王者たちも含まれています。そして、後のWBA王者ブルース セルドン(米)とのホープ対決を制し、タフな世界1位ピエール クォーツィー(南ア)をもその軍門に下したボウ。満を持して、世界王座に挑むことになりました。

ボウが挑戦したのは、都合3度の激闘を繰り広げる事となったイベンダー ホリフィールド(米)。タイソン無き時代のヘビー級を、必死に牽引していた名王者です。1992年11月13日にラスベガスで行われた両者による第一戦は、ボクシング史上に残る大激戦に。小柄なホリフィールドが果敢に攻めてきましたが、肉体面、精神面で充実していたボウがそれを上回る形に。結果は11回にダウンを奪った挑戦者が判定勝利を収め、新王者の座に就きました。

(ボクシング史に残る大激戦となったボウとホリフィールドによる第一戦。)

ホリフィールド戦後のボウの戦績は32戦全勝(27KO)。この時点でのボウの評価は凄まじいぐらい高く、ボウなら「ロッキー マルシアノ(米)が築いた49戦全勝記録や、ジョー ルイス(米)が打ち立てた25連続防衛記録も敗れるだろう」とまで言われました。

ボウが獲得した王座(獲得した順):
WBAヘビー級:1992年11月13日獲得(防衛回数2)
IBFヘビー級:1992年11月13日(1)
WBCヘビー級:1992年11月12日(0)
WBC米大陸ヘビー級:1994年12月3日(0)
WBOヘビー級:1995年3月11日(2)

*ボウの実力からすれば、防衛回数はもっともっと伸ばせたでしょう。

しかし、ここからボウのサクセスストーリーは急展開。意外というか下降線を辿っていってしまいます。ボウがホリフィールドを破り、IBF、WBA、WBCの3団体統一王座(当時のWBOはまだまだマイナー団体)を獲得する直前に、すでにレノックス ルイス(英)がドノバン ラドック(カナダ)を破り、WBC王座への挑戦権を獲得していました。ルイスと言えばソウル五輪の決勝で、ボウを破り金メダルを獲得した宿敵。統一王者となったばかりのボウに、ライバルに借りを返す機会が訪れました。「今はまだ、ルイスと対戦する時期ではない」と言い、対戦を拒否したボウ。そこで素直にWBC王座を返上していればいいのですが、あろうことかにボウは、記者会見の席でWBCの緑のベルトをゴミ箱に捨てるという暴挙を犯しました。

(WBCのベルトをゴミ箱に捨てるボウ)

その後、WBCは当然の如くボウをランキングから除外。数年後に、ボウの謝罪は受け入れられましたが、ボウが行った行為は常識のある人間がするべき事ではないでしょう。

「ベルトゴミ箱捨て事件」から始まったボウの失敗談。話はこれで終わりではなく、始まりとなってしまいました。1993年に、元WBA王者マイケル ドークス(米)と、元WBO王者レイ マーサー(米)を番狂わせで破っていたジェシー ファーガソン(米)をあっさりと下し、防衛記録を伸ばしたボウ。しかし、11月に行われたホリフィールドとの再戦では、雪辱に燃えるホリフィールドに気合負けし、王座から決別。同時にプロ35戦目にして初黒星を喫してしまいました。

ラスベガスのシーザースパレスの屋外特設リングで行われたホリフィールドとの第2戦では珍事が起きました。7回途中、パラシュートを付けたパラグライダーに乗った男性が会場に不時着してしまい、会場は混乱状態に。試合は約30分の休止となってしまいました。この事件というか事故に関して言えば、ボウはあくまで被害者。しかし、何となくこの時期のボウを表している事件と言えるでしょう。

(試合中に空から降ってきたジェームス ミラー(パラシュート男)。主審のミルズ レイン氏も驚いたでしょうな。でもホリフィールドの背中、凄いですよね。)

 ホリフィールドに敗れた翌1994年夏、意気消沈のボウはリングに復帰します。この年はホリフィールドがマイケル モーラー(米)に敗れ、世界王座から陥落。ジョージ フォアマン(米)がモーラーを逆転KOで下し、世界王座に復帰しました。ボウはというと再起戦でも事件を起こしてしまいます。世界ランカーだったバスター マシス(米)と対戦したボウ。試合を優位に進め、4回にはダウンも奪っています。しかし、勢い余ったボウは、片膝をついていたマシスに見事な右アッパーを炸裂させ、見事にKO。もちろんこれは反則行為になります。しかし、試合が行われたニュージャージー州の恩恵か何だか分かりませんが、失格負けを免れ、結果は無効試合となっています。

(マシスをダブルKOしてしまったボウ)

その年の師走には、上昇気流に乗っていた無敗のラリー ドナルド(米)と対戦し、大差判定勝利を収めたボウ。しかし、ここでは試合前の記者会見では大乱闘を起こしています。

1995年には復調の兆しを見せたボウ。3月に強打者ハービー ハイド(英)をバッタバッタと倒しWBO王座を獲得。6月に行われた初防衛戦では、実力者ホルヘ ゴンザレス(キューバ)をも圧倒。11月には、ホリフィールドとの3戦目を行い、ダウン応酬の大激戦の末、宿敵をKO。ライバル対決に終止符を打ちました。

マイク タイソン(米)が世界王座に復帰するも、ホリフィールドにTKO負けを喫した激動の1996年。ボウはこちらも問題児として知られたアンドリュー ゴロタ(ポーランド)と2度対戦。ゴロタの低打(ローブロー)の餌食となったボウは、2試合続けて反則勝ちをその戦績に加えています。

(ゴロタのローブローの餌食となったボウ。)

ゴロタ戦後に突如として現役からの引退を表明したボウ。その後アメリカ海軍に入隊するも、数日で除隊。一日に高級車を何台も購入するも、数日後に返却。別居中だった妻子を誘拐し(復縁を強く迫った)逮捕されるなど、精神的不安定さ、弱さをリング外でも随時見せマスコミを騒がせました。その後2004年にリングに復帰し、2004年、2005年、2008年にそれぞれ一試合(いずれの試合も勝利)行いますが、再起3戦後の後に現役からの再引退しています。

(アメリカ海兵に志願/入隊したボウでしたが、長続きせず。)

また、キックボクシングやレスリングへの転向の噂もありました。昨年は、ボクシングのエキシビションマッチ出場の機会もあったようですが、いずれも実現しませんでした

43勝(33KO)1敗という好戦績を残しリングを去ったボウですが、彼の実力なら白星が20や30加わってもおかしくなかったでしょう。「ゴミ箱捨て事件」以降、主要団体からは敬遠されていたボウでしたが、その実力と名声は折り紙つき。本人の気持ち次第では、世界王座への返り咲きもそれほど難しくなかったでしょう。今現在(2022年秋)でも、ボウを歴代ヘビー級トップ20に推する声も聞かれます。それほどの実力がありながら、自己管理能力(特に精神面)が低かったため、惜しいことに、中途半端な形でそのボクシングキャリアを無駄にしてしまいました。

(プロでも見たかったボウとルイスの対決。)

現在、オレクサンデル ウシク(ウクライナ)やタイソン フューリー(英)、アンソニー ジョシュア(英)やディオンティー ワイルダー(米)など、優秀な選手が揃っているヘビー級戦線。全盛期のボウはこれらの選手と相対しても、まったく引けを取らない試合を演じることが出来たでしょう。それだけ彼は優れた選手でした。またボウは、ヘビー級選手として初めて、WBA、WBC、IBF、そしてWBOの4つのベルトを獲得した選手で(同時ではないが)、また、KO/TKO負けが無いという名誉ある記録を残しています。

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