公開支援の署名に参加してよかった。
こんないい映画が公開されなかったら、悲しすぎるよ。
「海洋天堂」78点★★★★
中国・チンタオ。
ワン(ジェット・リー)は若くして妻に先立たれ、
21歳になる自閉症の息子ターフー(ウェン・ジャン)を
男手ひとりで育ててきた。
自閉症とは、生まれながらの脳機能の障害で
人とコミュニケーションが取りにくかったり、
ひとつのことにこだわって
それが乱されるとパニックになったりするもの。
反面、得意なことや、
一度憶えたことをキッチリやる側面もあって、
周囲の理解と支えがあれば
社会に適応できるケースもたくさんある。
ターフーも泳ぎが得意で、
父の働く水族館で
プールに入らせてもらったりしている。
が、しかし。
ワンはがんにかかり、
自分の余命がわずかだと知る。
彼は残された日々で
息子に一人で生きていく術を教えようとするのだが――。
題材は一見、いかにも“泣かせ”ふうですが
本作には驚くほど
そういうあざとさがない。
最初から最後まで素直に優しさがこぼれ、それに包まれる
いい映画でした。
監督のシュエ・シャオルーは
「北京バイオリン」の女性脚本家で
本作が初監督作。
彼女は自閉症の子どもたちへのボランティアを14年も続け、
その体験から本作が生まれたそうです。
それだけに
自閉症の描写がリアルなことはもちろん、
その病を持つ本人、またそれを支える周囲の描写にも
「なにかが過剰」ということがないんですねえ。
とにかくすべてが、自然。
卵の割り方や、アイスの買い方を
息子に教える父親の真剣さ。
その父と子を取り巻く人々の温かさ。
人間って悲しい場面よりも
そうした人の“善”に触れたとき
涙がでちゃうんですよ。
まあ、実際
キレイ事では片付けられない問題も予感させてはいます。
ターフーの性の問題とかね。
でも映画はそこだけに踏み込まず、
各人で受け取り、考えるようにと託している。
それに
ここに描かれていることは
「障害のある、なし」には関係なく
子より先に死ぬことがほぼ運命づけられている親の宿命。
だから、誰かの親であり、誰かの子である
誰にでも共感ポイントがあります。
その親から子への普遍の愛情を
決して盲目ではなく、ごく当たり前のものとして表現した
ジェット・リーの演技がいいんですねえ。
彼は昨今、チャリティー活動にも
相当に真剣に取り組んでおり、
本作もアクション封印、しかも
ノーギャラで主演を快諾したそうです。
彼自身の思いが、役柄からにじみ出ていました。
撮影はクリストファー・ドイル、
音楽は久石譲、と
超一流人が関わっていることも
本作の伝える真意に
共感したからにほかならないと思います。
見終わって、残るのが「障害」とか「同情」ではなく
「やさしい気持ち」なのが
本当にいいですよー。
「こういうの」と思いがちな人にこそ、オススメ。
★7/9からシネスイッチ銀座で公開。ほか全国順次公開。
「海洋天堂」公式サイト