ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

いのちの子ども

2011-07-16 22:40:46 | あ行

何度聞いても、よくわかんなくなっちゃう
パレスチナ問題。

この映画はいままでで一番
「そこで何が起こってるのか」が
わかりやすかったです。


「いのちの子ども」75点★★★★


1948年の建国以来、
もう63年(!)も続いている
イスラエル人(ユダヤ人)VSパレスチナ人(アラブ人)の対立。

そんななか、ある病気のために
余命を宣告された
パレスチナ人(アラブ人)夫婦の赤ん坊が
設備の整ったイスラエルの病院に運ばれる。


紛争を20年取材してきた
イスラエル人のジャーナリストと、イスラエル人医師が
その命を救おうと奔走する。

その経緯を追ったドキュメンタリーです。


パレスチナ人の夫婦が
「敵に助けてもらうのか」と
同胞からいやがらせを受けたり、

はたまた
やっと見つかった移植ドナーが
いきなり始まった砲撃によって来られなくなったり。

リアルにハラハラさせられます。


また「我が子の命を救いたい」と
涙を流す母親が、
同時に
「エルサレム奪回のために、殉職するのは普通」と語ったり
(ここのシーンは見せ場です)


子の命、という明快な題材のなかで
いままでにないほど身近に
「パレスチナ問題って何なのか」
「彼らの心情って何なのか?」を知ることができます。


映画は特に詳しく
事情を説明するわけじゃないんですが、
さすがベテランジャーナリストだけあって
ツボを心得ていて、とてもわかりやすい。


ただ、ベテランにしては
取材対象に入り込みすぎ、
やや感傷的になりすぎな部分もある。

でもワタクシには
これは現地で20年間、生と死を“見つめ続けてきた”
彼のひとつの「贖罪」なのかもしれないと思えました。


赤ん坊を助けようとするイスラエル人医師が
「いつかうちの息子と遊ばせたいね。
いま叶わなくても、次の世代でも」というシーンが
猛烈に心に響きました。

おすすめです。


★7/16からヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開。

「いのちの子ども」公式サイト


来週発売の『週刊朝日』(7/29号)「ツウの一見」で
パレスチナ取材経験も豊富な
APF通信社の山路徹さんに
本作についてお話を伺っています。

すごくわかりやすく、的確なお話なので
ぜひご一読ください

え?山路さん、どういう方だったかって?

いや、けっこう
好きになってしまいましたよ……(ギャー!)


なにより共感できたのは
「僕、専門分野ってないんですよ」という話。
(これは誌面に載ってないので、いいよね)

ニュース配信会社は
そのときに求められる“売れる”ネタを撮らなきゃ
テレビ局に買ってもらえないのが実状であり、

ゆえにこの作品には
映画にしかできない意味がある、という話なんですが


それって雑誌でもまったく同じ。

我々フリーランスは常に
「そのとき求められるネタ」を
キャッチして取材することをやってきたわけで、

まあその過程で
ひとつの分野に精通するケースもあるし、
それが理想なんですが

いまひとつうまく
専門を絞りきれないっていうジレンマがある。


これは私自身、ずっと感じてるモヤでもあるんですが、
山路さんがそう話すと
「あ、やっぱりそうなんだ!」って
なんか励まされた。

ここで働かせてもらおうかしら(笑)
コメント
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