「ポルトガル、ここに誕生す」で
最も難解だったペドロ・コスタ監督の、
またしても謎かけのような作品。
「ホース・マネー」68点★★★☆
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その男ヴェントゥーラが、暗い階段を下っている。
白衣の男がやってきて、彼を連れ戻す。
ここは病院のようだ。
病室で医者に質問されたヴェントゥーラは
いまは1975年で、自分は19歳だと答える。
カーネーション革命の翌年、
1975年、スピノラ将軍がクーデターを起こした日に
革命軍によって、
ここに連れてこられたという。
そして彼は自分の過去を遡る。
移民としてやってきてリスボンのスラムに暮らし、
工事現場で働いたあのころ。
あれから何十年が経ったのだろうか――。
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1959年、ポルトガル・リスボン生まれの
ペドロ・コスタ監督作品。
「ポルトガル、ここに誕生す」(12年)の短編「スウィート・エクソシスト」と同じ
ヴェントゥーラが主人公。
あのエレベーターのシーンも組み込まれています。
まず
カラヴァッジョや、ゴヤの絵画を思わせる
強烈な陰影をつけた、インパクトある映像がすごい。
ほとんどが闇!で
そのなかでうごめくヴェントゥーラの姿が
亡霊のように
網膜にがっちり焼き付けられます。
映画は詩のようで、謎かけのようですが
辛抱しているうちに、
いまはおそらく現代の病院にいるベントゥーラが
「どこに」とらわれてしまったのかがわかってくる。
彼は移民としてやってきて
工事現場に努めていたけど
カーネーション革命後、
排除され、裏切られ、仕事を失った。
(おそらく赤シャツ男が“敵”の象徴なのだろう)
そして
一緒に働いていた甥や兄弟も不幸に会い、
妻も子供たちも失った。
息を潜め続けていた彼は
10代のまま、その過去に閉じ込められ
いまその生涯を
ここに焼き付けようとしているのかなと。
難解ではありますが
評論も多いので、読み解く楽しさはあると思います。
「懸命に働いても、搾取され、僅かな年金で生きている」
――劇中で歌われる歌が、
よその国の話ではないと感じられて
「うっ・・・」と痛かったです。
★6/18(土)から渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。
「ホース・マネー」公式サイト