ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

カラスの親指

2012-11-17 21:20:07 | か行

これはかなり意外に
面白かったす。


「カラスの親指」73点★★★★


**********************

タケ(阿部寛)とテツ(村上ショージ)は
プロの詐欺師。

二人はアパートで一緒に暮らしながら
コンビとして仕事をしている。

だが、そんな二人のアパートが
不審火に合う。

タケはある過去を背負い、
それに追われているのだ――。

そんなある日、
二人はスリがバレて追われた少女を助けてやる。

少女はまひろ(能年玲奈)と名乗り
なぜか姉(石原さとみ)とその彼氏(小柳友)とともに
二人の家に居候することに――?!

**********************


まず何が意外だったかというと
予告編をみて、もっとおかしなノリのドタバタかと思ってたから。

違った。

想像以上に村上ショージ氏がいいし

「長い」「長い」という評判ばかり聞いていたけど
意外に2時間40分あっという間。

全てに単刀直入で
まわりくどさや引き延ばしもなく、
この時間配分は納得できました。


詐欺師の話だけど
犯罪モノというにはゆるやかで、ほの笑いがあり
騙しのスリルや面白みもあり、

血は出ないけど、しかし怖さもあり
なかなか巧妙です。

まあ
一番よかったのは
男同士の凸凹バディ話だからかもしれない。

兄弟でも親戚でも恋人でもない(!)
阿部寛と村上ショージが
一緒に暮らし、“家族”となる。

そこに
これまた他人の娘たちやその彼氏が加わる。

ワシ、こういう
利益も血も関係ない
疑似家族の“つながり”みたいなのに弱いんだよねー。

一人っ子だからでしょうかねー。

村上ショージ氏の
借りてきたネコみたいな棒読みセリフが
ちゃんと活きる設定にしてあったり、

音楽を全然使わない手法も面白い。

捨て猫の悲劇フラグは少々辛いけど
まあ、これはガマンして見れば、最終的にセーフ。

ただ
このラストが気に入らない人もいるだろうなと思う。

確かに、少々「え?」な仕掛けだったりするけれど
これもフィクションのおもしろさ、と
考えればクリアじゃないかな。

ワシは好きでした。


★11/23(金・祝)から全国で公開。

「カラスの親指」公式サイト
コメント (4)
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ボディ・ハント

2012-11-15 22:58:31 | は行

最初怖くて、中身がおもしろい
割にいいパターン。

「ボディ・ハント」69点★★★☆


**********************

アメリカの郊外のある一軒家で
10代の娘が両親を殺すという陰惨な事件が起こる。


4年後。

事件のあった家の隣に
都会から17歳のエリッサ(ジェニファー・ローレンス)と
母(エリザベス・シュー)が越してくる。

隣家を無人だと思っていた二人だが、
その夜、隣家に明かりが灯る。

実はその家には
一人生き残った息子ライアン(マックス・シエリオット)
住んでいたのだ――。

生来、面倒見のいいエリッサは
近所ではぶんちょにされてるライアンを
何かと気にかけるようになるが・・・。

**********************


最初は憑依?霊?的な
ありありな脅かしで始まるものの、

蓋を開けてみると想像以上に中身が濃く
練られていました。

「SAW」「メメント」のプロデューサーたちが関わっており
ホラーっぽい風体から、
青春ムービーふうの体になり(それもまた定番ホラーを連想させるんだけど)

そこからまた転じていき、
「そうだったのか!」
意外に楽しめるんですねえ。

なんといっても
10代から“おかんキャラ”な女優、
ジェニファー・ローレンスの役当てがうまい。

母にも
「博愛精神に溢れ、いつも一番弱い子の味方をする」
と言われてしまうような

姉御な彼女だからこそ
この映画の状況に陥るわけで

その説得力が実に大きいですね。

まあざっくり言うと
彼女じゃなければ
B級ホラーになったかもしれない・・・という(笑)

「ハンガー・ゲーム」も彼女じゃなかったら
あそこまで入り込んでなかっただろうなーと

1990年生まれで、
意外にもう22歳ですが
まあ30歳になったらどないなるんか?と
すっごく興味惹かれる女性であります。


★11/17(土)からヒューマントラストシネマ渋谷ほかで公開。

「ボディ・ハント」公式サイト
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その夜の侍

2012-11-13 12:04:16 | さ行

力作と思う。
好きだ。

「その夜の侍」77点★★★★


************************

東京のはずれ。

誰も見ていない田舎道で、
ひき逃げ事件が起こる。

運転していた木島(山田孝之)は
倒れた女性(坂井真紀)を助け起こすでもなく
その場をさっさと離れる。

女性は、
小さな鉄工所を営む中村(堺雅人)の妻だった・・・。

5年後。

最愛の妻を失った中村は、
犯人に復讐を誓う・・・。

************************


冒頭、ギラギラと照りつける白昼に、
ただならぬ形相をして現れる堺雅人からしてすごいんですわ。

いやな汗に、レジ袋からは包丁。
「夜の」なのに、炎天下から始まっているのもトリッキー。

そして説明なしで時間軸を遡り、
事件の発端を見せる。


妻をひき逃げされた夫(堺雅人)
みじんの反省もないひき逃げ犯(山田孝之)

被害者の復讐心と、
加害者の無軌道な残虐性が、

それぞれ逆ベクトルの負と狂気へと突き進んでいく様子が、
日常の延長線上に描かれる。

登場人物の行動も、起こる出来事も
日常のなかでは劇的なのに、全てがあり得ることだと思わせる
手の込んだ造型がいい。

特に山田孝之演じる加害者男の振る舞いと性質は、
完全に“いじめ首謀者”そのもので
そら恐ろしいす。

そこはかとないシュールとユーモアを交え、
単なる復讐劇にもしない。

登場する全員が、市井の一員であり、
成長しきれない子どもであり、
他者との関係につまずいている現代人なんだ、と
ワシには感じられました。

ラストへの「え。」という展開もよかった。
なんだけど、真のラストはちょっと惜しかったな。


★11/17(土)から全国で公開。

「その夜の侍」公式サイト
コメント (2)
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ミラクルツインズ

2012-11-09 23:50:40 | ま行

臓器移植について
考えさせるドキュメンタリーです。

「ミラクルツインズ」61点★★★


肺が正常に機能しないCFという難病を持って生まれた
双子の姉妹アナベルとイザベル。

臓器移植によって命を救われた二人が
その体験をすべて話すドキュメンタリー。

二人は苦しい治療を続けながら
スタンフォード大に通ったりする才女でもあり

いまはその経験を語ることで
臓器移植について考えて欲しいと活動している。

この映画にも
理解と協力を促す広報的な意味合いもあると思います。


姉妹は日系ハーフのアメリカ人なので、
おのずと映画のテーマは移植後進国・日本の状況と問題になり
興味深い。

シャボン玉を吹く映像が出てきますが
そこには

我々が無意識にできる
呼吸のできるありがたさを感じさせる意図があるとわかり
ハッとさせられます。

臓器移植を待つ人々の言葉も
すごく考えさせられるものだった。

「結局、自分が助かるために、人の死ぬのを待っているんじゃないか?」
と葛藤する患者の言葉は
普段は聞くことがないもので、やはりハッとします。


いっぽう、臓器提供をした家族の言葉にも刮目させられるというか
事故死した娘の臓器を提供した父親が
移植をしたことで
「娘はいまも生きている」という言葉にはぐっときました。


姉妹の移植に関するエピソードの構成がよくなく
少々、時系列がわかりずらいのが残念ですが

臓器移植をどう捉えるのか、
あなたは提供者になるのか、家族は、自分の子どもならどうか?

そうした問いかけと、重みは
見終わっても続いていく。
それって必要なことと思います。


★11/10(土)から渋谷アップリンクほか全国順次公開。

「ミラクルツインズ」公式サイト
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カミハテ商店

2012-11-08 23:58:45 | か行

久々に珍しいタイプの映画。

なんていうんでしょうか
ガロっぽいというのか、つげ義春のような、というか。


「カミハテ商店」63点★★★


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山陰の小さな港町。

まるで地の果てのような
寂しいその場所は
その名も“上終(カミハテ)”という。

そこにただ一軒ある「カミハテ商店」では
初老の店主(高橋恵子)がひっそりと暮らしている。

そこを訪れる人々は
みな彼女の焼くコッペパンと牛乳を買い
崖のほうへと歩いて行くのだった――。

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かなり独特のリズムで、余白も多く
久々に出会うタイプの映画。

林海象プロデュース、で
ちょっと納得しました。

山陰の山奥、「上終(カミハテ)」を
訪れる自殺志願者らしき人々。

みなカミハテ商店のコッペパンと牛乳を最後に買い
どこかへと消えていく。

そして
翌朝、彼女は崖上に空き瓶と靴を回収にいく……て、
なんつうシュール!(苦笑)

限りなく億劫そうな高橋恵子氏も
なかなかド級のどんずまり感を醸し出している。

そして暗~いムードながら、
どこかにヘンなおかしみがあるんですねえ。

妙にフッと力が抜けるのは
アコーディオンとパーカッションによる
独特な音楽の効果もあるでしょうね。


正義も何も言わない。
ただそこで起こる物事を、静かに朗々と描いたことが、
いろいろ考えを巡らせ、深めさせます。

しかし
カミハテ商店もだけど
人々を“果て”まで運んでくるバスの運転手さんも
相当に「背負ってる」よなあと、ふと。


★11/10(土)からユーロスペースほか全国順次公開。

「カミハテ商店」公式サイト
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