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ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ウォールフラワー

2013-11-19 23:50:31 | あ行

すべての“踏み出せない”人たちへ。


「ウォールフラワー」79点★★★★


**********************

高1のチャーリー(ローガン・ラーマン)は
誰にも見つけられないような
控えめで、目立たない“壁の花”な少年。

彼はあるとき
授業で見かけた上級生のパトリック(エズラ・ミラー)に興味を抱く。

そして、超・最大の勇気を振り絞って
彼に声をかけてみる。

すると、そこに
キュートな上級生サム(エマ・ワトソン)が現れて――?!

**********************


孤独な主人公が
心優しき“はみ出し者”たちと出会い
自分の居場所を見つけていく話。

ハイスクールものというと
ギャルの権力抗争だったり
えげつないイジメが横行する昨今、

まあなんと、心洗われるつうか
温かく優しく、気持ちのよい青春映画です。


でも決して「イイ話」に仕立ててるわけじゃなく、
リアルな青春で、そこがいい。

この、どこからかこみ上げてくる、あったかい感情は
漫画『3月のライオン』のそれに似てる気もします。


監督は原作小説の作者である
スティーブン・チョボスキー自身。

資料のはにかんだようなその写真からも
「まあ、主人公そのもの・・・」って感じで(笑)
だから描写が実にリアルなんですな。

でもなにより
この映画は、仲間たちがいい!


「少年は残酷な弓を射る」
「アナザー・ハッピー・デイ ふぞろいな家族たち」
エズラ・ミラーが珍しく(?)いい役で(笑)

エマ・ワトソンも
“ハーマイオニー”を活かした快活っぷりがハマる。


彼らの懐の温かさに包まれつつ
「誰かが自分を見つけてくれるのを待っていた」
自分自身を、主人公に重ねてみたくなるはずです(断言)

しかも監督が同い年!(笑)つうことで、
音楽も完璧でした。


★11/22(金)からTOHOシネマズ シャンテ、ヒューマン・トラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

「ウォールフラワー」公式サイト
コメント (2)
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もらとりあむタマ子

2013-11-18 23:39:07 | ま行

あっちゃんは女優業に突き進みそうですね。


「もらとりあむタマ子」69点★★★☆


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東京の大学を出た
23歳のタマ子(前田敦子)は
就職もせず、甲府の実家に帰ってくる。

しかし
実家の店を手伝うわけでもなく、
家事をするわけでもなく
ただひたすら食っちゃ寝のぐーたら生活。

父親に「就職活動くらいしろ」と言われても
返すセリフがまたふるっているのだ・・・・・・。

そんなタマ子の明日はどっちだ?!

************************


前田敦子主演×山下敦弘監督。

な~んにも起こらない加減が好きだし、
こういう映画が劇場公開されるおもしろさってのはいいなと思う。
「やったれ~」と応援したくなる。

でも78分なのが、どうしても食い足りない。
なのでこの点数。


前田敦子氏のぐうたらっぷり、食いっぷり、
ふてぶてしさが、もう輝かんばかりで(なんじゃそら。笑)、

漫画三昧のそのセレクトがくらもちふさことか
(しかも『東京のカサノバ』!笑)
『にこたま』とさすがで

地元の中学男子を手下にしたりと
フッというおかしみも味わった。

前田敦子氏は
相手とのセリフのタイミングが前のめりだったり
まだまだこれからな感じもあり
当て書きのようなハマり役だけに、気になってしまったけど


それでも
仕事をやめて実家に帰った
「モラトリアム~」で「モヤモヤ~」で「だる~」な、
自分自身の“あの時期”を思い出しましたわ。

てか、
いまもこういう状態になってないわけでなし(苦笑)
さすがにやばいか?まあいっか。的な。

社会にとって無益だけど、有害ではない
(家族にとっては有害かもね・・・笑)
こういう人間のモラトリアム期間は、果たして有限なのか――?と考えさせれました。


★11/23(土)から新宿武蔵野館ほか全国で公開。

「もらとりあむタマ子」公式サイト
コメント (5)
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かぐや姫の物語

2013-11-17 13:33:38 | か行

監督が55年間、考え続けていたものを
見る。

そのことの、重み。


「かぐや姫の物語」72点★★★★


*************************

いまは昔、竹取の翁(声・地井武男)は山のなかで
光る竹を見つける。

そこからなんと
愛らしい赤ん坊が生まれ出てきた。

翁は媼(おうな)(声・宮本信子)と
その子を育てることにする。

赤ん坊はみるみる大きくなり
美しい娘に成長するが――。

*************************


「今は昔、竹取の翁といふ者ありけり」で始まる、
日本最古の物語『竹取物語』を

高畑勲監督が描いたアニメーション。

55年前から構想し、製作期間8年!という
とてつもない時間をかけて、作られた作品です。

「そういえば、かぐや姫ってこういう話だったな」と、うなずくほど
筋はそのまま踏襲されていました。


なにより
スケッチのような線画の動きが見事!
(まあ“おせんべいの包装紙”のようでもあり、好みはわかれそうだけど。笑)

赤ん坊の愛らしい仕草や動きの表現、
野の花々で、季節の変化を知らせる様子など、

この映画の一番のテーマであろう
「日々の“生”を噛みしめること」
絵と動きというアニメーションの特性そのもので表現しているわけです。


ただ「姫の犯した罪と罰」という
強烈な宣伝コピーは、ちょっと罪(笑)。

これに引っ張られすぎると「?」となると思う。




ここからはネタバレあるので、ご注意。


かぐや姫が「月で罪を犯して、地球におろされた」ことは
元ネタの『竹取物語』にも書かれているけど
しかし何をやったかは書かれていない。

「いったい、何をやらかしたんだ?」と思うじゃないですか。

で、このコピーから映画には
その答えを期待するじゃないですか。

しかーし、
結局、明確にされずじまいなんですわな。

てか、ワシ何か見逃した?(笑)ってくらい。
これにはかなりびっくりしたし、ガックリした(苦笑)

「惑星のひとつくらい消滅させたか?」とか
あれこれ想像しましたからね!(笑)

でも、そのあと
「罪っていったい、なんだったんだろう?」と、めちゃくちゃ考えさせられた。

それこそが、この55年に及ぶ高畑監督の
思考の旅の意味と、答えなのだと思うんですね。


考えるに。

まず
(1)月の世界は真っ白で、苦しみや悲しみもないけれど
   喜びも欲望もない、無味乾燥な世界であること。

(2)かぐや姫は美しい緑の地球を見下ろして、そこに行きたいと願った。これもひとつの罪かな。   

(3)で、月での記憶をなくして地球でのびのびと育つ。

(4)成長し、自分が“女”として見られていると理解したときに暴走することから
   月での罪とは、やはり此の手の“禁忌”を示唆している気もする。

(5)で、その後に求婚相手を振りまくり、相手を不幸にしてしまう。また罪を重ねてますわな。

(6)月に帰らねばならなくなったとき、
   なぜ地球に来たかったのかを思い出して
   せっかくの色鮮やかで、生きる喜びに満ちた世界を享受しきれなかったことを悔やむ。

(7)その思いを遺して、月に帰らなければならなかったこと。これが罰か。


ってとこでしょうか。

そして(6)は、
いま地球に生きている我々自身に向けて、言っているのでしょう。

生き生きと弾けるような“生”を
とてつもなく手間をかけたアニメーションで表したからこそ、
(6)に到達できるわけで。

と、つらつら考えてみましたが、どうでしょう。
みなさんも考えてみてください。

★11/23(土)から全国で公開。

「かぐや姫の物語」公式サイト
コメント (2)
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ゆるせない、逢いたい

2013-11-16 14:22:07 | や行

深刻なテーマを、丁寧に、優しく寄り添って
撮っていると思う。


「ゆるせない、逢いたい」63点★★★☆


***************************

高校生のはつ実(吉倉あおい)は
母(朝加真友美)と引っ越してきた街で

古紙回収をしている
年上の隆太郎(柳楽優弥)に出会う。

お互いの孤独を感じ取り、
惹かれ合っていく二人は
ささやかなデートを繰り返すが、

あるとき、事件が起こり――?!

***************************

好きどおしだったり、友人どおしや近しい間柄で
起こってしまう
“デートレイプ”。

「キミタチ、付き合ってたんじゃないの?」と
警察に言われるのが目に見えているような
この微妙な問題を題材にした作品です。

ただ「事件!」という扱いではなく
あくまでも「被害者の心を」描こうと
寄り添い、配慮してあると感じます。

思春期のユラユラした心と身体の不安定さも
よく表現されている。

が、被害者に寄り添うがゆえに
いま一歩踏み込みが足りない気もする。

彼女が感じたのがどれほどの恐怖だったのか
哀しみなのか

彼をどう思っているのか――などを
観客が共有できる手がかりが少ない。

母親と娘の関係に視点がシフトしていくし。

ただ
デート・レイプという問題は本当に難しいと思う。

ついこの間まで、ストーカーだってDVだって
警察には「痴話ゲンカ」にしか思われてなかったわけだし

この問題を知らしめるための提起としても
意味あるかと思います。


例えば
漫画『ホット・ロード』で
ハルヤマが和希を無理矢理押し倒してたら、
あの伝説の物語は生まれなかったわけで。

男性は、よく考えていただきたいですね。

・・・って、そういうオチ?(笑)

★11/16(土)からヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほかで公開。

「ゆるせない、逢いたい」公式サイト
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ブエノスアイレス恋愛事情

2013-11-15 22:52:12 | は行

何も大事は起こらない。
男女はなかなか出会わない。

そんな日常がおもしろい。


「ブエノスアイレス恋愛事情」69点★★★★


*************************

ブエノスアイレス在住の
独身30女子マリアナ(ピラール・ロペス・デ・アヤラ)は
恋人と別れたばかり。

建築家だが仕事はなく、
ショーウィンドウのディスプレイをしながら暮らしている。

いっぽうの独身30男子マルティン(ハビエル・ドロラス)は
フリーのウェブ・デザイナー。

ややオタク系で、愛犬と部屋にこもりっきり。
たまにはプールに行って泳がなきゃと思っても
外に出るのもめんどい。

そんな二人は、どこかで出会うことができるのか――?!

*************************


強烈におもしろい!ってわけじゃないんだけど
不思議とハズレがないアルゼンチン映画。

本作では
ブエノスアイレスに暮らす
ちょっと世間からハズレた30代男女の

それぞれの秋、冬、春が
ゆるゆると描かれます。


無計画な都市開発により
ちぐはぐで不恰好になってしまったという
ブエノスアイレスの街並みと
そこに暮らす若者たちの心情を重ねている点がおもしろく

“建築”や“デザイン”という着目点、
アパートの壁に勝手に窓を開けてしまう描写など
「ル・コルビジュエの家」と共通点があり
これもアルゼンチン映画の傾向なのだろうか(笑)。


ウサギ小屋ならぬ「靴箱」と言われる小さなアパートで
やや鬱々と暮らす若者たちはどこかすねたようで、

コミュニケ不全気味ではあれど、
しかし自意識は高く、センスやカルチャー度は高い。

鉄腕アトムやティム・バートン作品のフィギュアが
棚に飾られていたり、

文化的にも精神的にも、
日本との共通点が多いように感じました。


主演は「シルビアのいる街で」の美人女優
ピラール・ロペス・デ・アヤラ。
うーん、目の保養や~(笑)


★11/16(土)から新宿K'sシネマほか全国順次公開。

「ブエノスアイレス恋愛事情」公式サイト
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