ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ザ・トライブ

2015-04-13 23:47:59 | さ行

これも相当にパンチ効いてます。


「ザ・トライブ」73点★★★★


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舞台はウクライナ。

聾唖の少年(グレゴリー・フェセンコ)は
全寮制の聾唖学校に入学する。

だが一見、平和に見える学校は
悪のグループ=トライブ(=族)による
恐喝や暴力が日常茶飯事な場所だった。

さっそく暴力の洗礼を受ける少年は
そのなかで少女(ヤナ・ノヴィコヴァ)と出会うのだが――?!


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全編、手話のみ。字幕もなし!という
予備知識だけはあったんですが

最初は 思ったより辛かった(笑)

特に学校の授業のシーンとか
当たり前だけど、先生が何を言ってるか全然わからない(苦笑)

でも大丈夫。
ちゃんと、だんだんわかってきます。


状況を理解させる助けなのでしょう
引きの構図で、ワンシーンの中の出来事を、できる限り時間をたっぷりかけて長回しして
人物の関係性などを見せてくれるし。
(エグいシーンも延々やるので、それはちょっときついんですけどね・・・)

とにかく目が離せなくて、退屈しない。

それに
無音の世界に住む人々の会話の、暴力の
なんとも騒々しいことよ!

“音”の怖さを知らない分、
暴力も加速するのかもしれない。


彼らは
ぶちまけた食器が割れる音にギョッとすることも
相手を殴って骨の砕ける音に、イヤな気分になることもない。

隣に眠る人が暴行されていても、
道で後ろからトラックが迫ってきたってわからない。

その“肉体”が体験することだけが
真実でありすべてなわけで。

オーバーアクションにみえる仕草も、平手打ちも
コミュニケーションの感触をつかむため、
ひいては生きるために必要なのだろうな、と感じました。

しかし、彼らが頻繁に服を脱ぎ着する意味はなんだろう?
すごく気になりました。


★4/18(土)から渋谷ユーロスペース、新宿シネマカリテほか全国順次公開。

「ザ・トライブ」公式サイト
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セッション

2015-04-12 23:02:38 | さ行

これは桁違いにオモシロイ!
見るべし!


「セッション」80点★★★★


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名門音楽院に入学した19歳のニーマン(マイルズ・テラー)は
夜な夜な一人、ドラムの練習をするマジメな青年。

そんな彼の練習を、ある夜
フレッチャー教授(J・K・シモンズ)がふと見に来る。

ニーマンにとって教授は憧れの存在。

なんとか教授の目に止まろうとする
ニーマンだったが――?!


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いや~この映画はですね

いま思い返しても、あらすじを詳細に説明できるほど
とにかく、お話がおもしろい!


主人公ニーマンは、一見弱っちいけど
「偉大なドラマーになる」という野心はいっちょ前にある
まあ“いまどきな”若者。

その彼に、あり得ないほどのスパルタ指導をする鬼教師が登場し
主人公を持ち上げ、また突き落とし、また上げ、という
ジェットコースターぶりがものすごいんですわ。

そして、
まさかこんなオチになろうとは……!
「え?」がさらに二転三転する痛快さ。

「ゴーン・ガール」に匹敵する
脚本の底意地悪さがたまらない(笑)


なんでもこの話、
監督の高校時代の実体験を基にしているそうで
なるほど、納得。

そして、底意地の悪さにもちょっと納得(笑)
一種の復讐なのかもね。


あまちゃんな、いち若者の自意識と高慢さを描いているようにも見えるけど
つまるところ
“芸術の真髄”を描いているのかなと思った。


音楽(ジャズ)に限らず
いまの時代に
命を賭けて芸術を、いや、仕事を究めることなんてできますか?って。

躍動と、狂気のしぶきをぜひ体感してみてくだされ。


★4/17(金)からTOHOシネマズ新宿ほか全国順次公開。

「セッション」公式サイト
コメント (2)
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和食ドリーム

2015-04-11 23:27:26 | わ行

“クール・ジャパン”って
ダイレクトに跳ね返ってくると、ちょっと微妙(笑)

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「和食ドリーム」31点★★


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すずきじゅんいち監督が
和食を描くドキュメンタリー。

なんですが
あくまでも「外国人に和食の精神を紹介する」というスタンスで
なんというんでしょうか
外国人観光客向けのPR映像を見ているみたい。

そんなに「へえ」がなくて
あまり興味をそそられなかった。

インタビューの最中にもピアノ曲が延々流れたり、
どこか演出が古い感じなのも気になりました。


原因は質問内容にあるのかも。

「料理人として、一番嬉しいときは?」と聞かれたら
「そりゃあ、お客様が喜ぶ顔を見るときが……」となるわな、
みたいな(苦笑)


自分もインタビューする側ですから
やっぱりそういう「王道質問」は一応、踏むんですよね。

原稿ではそれを単純な答えにしないように
工作(図工的な意味ね。笑)することができるけど
映像のインタビューって難しいんだなあと
いろいろ考えることができました。

あと京大の先生だったかな、
「アクを取る」についての実験は
ほう、と思った。

こういう「へえ」がもっとほしかったかな。


★4/11(土)からテアトル新宿ほか全国で公開。

「和食ドリーム」公式サイト
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ギリシャに消えた嘘

2015-04-09 23:16:50 | か行

期待通り、
名探偵ポアロみたいな、昔ふうのミステリー劇。


「ギリシャに消えた嘘」71点★★★★


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1962年。

ギリシャでツアーガイドをしている
アメリカ人青年ライダル(オスカー・アイザック)は

観光にきたリッチなアメリカ人夫婦と知り合いになる。

夫(ヴィゴ・モーテンセン)と
年下の美しい妻(キルスティン・ダンスト)と食事をし
楽しいときを過ごしたライダルだったが、

その夜、事件が起こった――。

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原作はパトリシア・ハイスミスの『殺意の迷宮』(読んだな、これ)。

監督は
「鳩の翼」(97年)(うわ、これめっさ好き!)や
「ドライヴ」(11年)の脚本を書いた
イラン出身のホセイン・アミニ氏。

これが監督デビュー作です。


時代は1962年。
舞台は美しいギリシャとクレタ島。

色合いも音楽も、衣装も、
陰影の付け方も、悲劇へ転がる展開も
アガサ・クリスティかポアロか、という感じの
クラシカルな雰囲気が満点。


美しき妻をめぐる夫と若造の水面下のバトルが
やがて
父と息子の争い、そして絆のようなものに変わっていくのも
いいな思いました。

なんといっても
苦渋(にがしぶ)が魅力のヴィゴ・モーテンセンに
「太陽がいっぱい」系濃い顔のオスカー・アイザックをあてたのは
見事なキャスティングですね。

ポスターのイメージで見に行って
裏切られないと思います。

そういうの、大事ですよね。


★4/11(土)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。

「ギリシャに消えた嘘」公式サイト
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マジック・イン・ムーンライト

2015-04-07 22:59:56 | ま行

いつにもまして
可愛らしいウディ・アレン作品。


「マジック・イン・ムーンライト」69点★★★★


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1928年。

天才マジシャン、スタンリー(コリン・ファース)は
奇妙な依頼を受ける。

それは
「ある資産家一家をたぶらかしている
女占い師の真相を暴いてほしい」というもの。

「お安いご用。トリックをみやぶってやる!」と
意気揚々と乗り込んだスタンリー。

だが彼の前に現れたのは
チャーミングな占い師ソフィ(エマ・ストーン)で――?



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性格のひね曲がったマジシャンが
美しい占い師(というか霊媒師?)に出会い
その嘘を暴こうとするが……?というお話。

なんとも可愛らしく
おかしみたっぷり。


口を開けば毒と皮肉をばらまく主人公コリン・ファースは
まさにウディ・アレンの分身で

いつもながら
笑わせていただきました。


美女とおっさん、というコンビといい
ちょっと日本の「トリック」を思い出したりもしましたが(笑)


本当に、アレン御大は
こんなに楽しいお話を
よく次々と思いつくものだなあ、と改めて感嘆。

前に見たウディ・アレンのドキュメンタリーのように
ホテルのベッドに寝そべったりして
次から次へとアイデアを書き上げている様が
目に浮かんで、クスっとしてしまいました。


毎回、安定のクオリティなのはたしかですが

アレン節にしては
ちょい可愛らしすぎたかなあ
もうちょっとパンチほしいなあという気はしました。

でも
またすぐに次、観られますもんね!


しかしエマ・ストーン、
今週は「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」公開もあり
売れっ子だなあ。


★4/11(土)から新宿ピカデリー、丸の内ピカデリー、Bunkamura ル・シネマほか全国で公開。

「マジック・イン・ムーンライト」公式サイト
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