もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

ソフトランディングは今どこに

2018年08月28日 | 歴史

 産経新聞に掲載された、神谷万丈防大教授の論を読んだ。

 氏は、現在の世界情勢を『数十年に亘って世界の平和と繁栄の基盤とされた「リベラル国際秩序」が動揺する事態』と分析している。氏の云うリベラル国際秩序を自分流に意訳すれば、後進地域に先進地域の物質的恩恵を分与して後進地域住民の価値観を変化させ、以て先進地域(西側)と同様な政体に穏やかに導こうとする考えを表現したものと思う。それを一言で表したのが北朝鮮対策として一時もてはやされた「ソフトランディング」というキャッチフレーズではなかろうかと考えるものである。しかしながら、ソフトランディングが成功した事例は、東西ドイツの統一くらいしか思いつかない。ドイツ統一にしても東ドイツが曲がりなりにもキリスト教的価値観を残していたことと、複雑な民族対立が無かったことから実現できたものであると思う。アフガン、リビア、シリア、イラク、ミャンマー等々の紛争地機には、物質的な豊かさ以上に譲れない価値観があるためにソフトランディングなど思いもよらない状態にあり、同じキリスト教価値観の基に富の共有で共生に成功した感のあるEUでさえも、英国の離脱やスペインの内部分裂の動きが顕在化している。ソフトランディングの最大の失敗例は中国であろう。中国の巨大な市場に惹かれた先進諸国は、挙って中国をホームパーティーに招き、プレゼントを渡した結果が、現在の暴挙を阻止できない状況を作り出していることに、ようやく世界が気付いたものである。しかしながら時すでに遅く、飼い犬と思っていた中国は狂犬と化し、飼い主を噛むどころか病原菌を世界に蔓延させようとしている。近年まで中国にODAで支援したものの南京虐殺という返礼しか貰えなかったこと、尖閣領有権の主張を大人の知恵と棚上げした挙句に苦境に陥っている現実、近隣国への配慮のみ重視した日本の「リベラル国際秩序」論者の責任は計り知れないものと思うが、既に彼等の大部分は紛争地域に対する経済制裁(ハードランディング)を良とする側に宗旨替えをし、残りの一部は人道支援の美名を隠れ蓑にして未だに蠢動しているのではなかろうかと推測するものである。

 氏の主張は、「それでも世界はリベラル国際秩序の理念を保持し続けなかればならない」と続き、技術・経済・環境・人権で中國を凌駕できればソフトランディングは可能と結論している。一方でトランプ大統領は、中国のソフトランディングの試みを放棄して力勝負に持ち込もうとしており、後世の勝者は米中のいずれであり、歴史家はどちらに軍配を上げるのだろうか。