沖縄県の有識者会議「万国津梁会議」が辺野古移転不要の報告書を玉城知事に提出した。
万国津梁会議とは、沖縄県が「目指すべき将来像を実現して新時代沖縄を構築するために、知事が示す5つのテーマに対して当該分野の有識者が議論を行なって知事に報告する」ために設立したとされており、知事の諮問機関ではあるが一般的な諮問機関以上に知事の施政方針を補強・補完するためだけの御用機関とされ、さらには公費の目的外使用や諮問契約以前に知事と飲食を共にするという不透明さもささやかれている。今回の辺野古移転不要を結論付けたのは、海兵隊の「遠征前進基地作戦構想(EABO)」が『有事の初期段階では小規模部隊が分散展開し、制空・制海権の確保を待つ』と規定していることを前提として、「海兵隊も固定的で大規模な基地よりも分散化された柔軟な配備を重視し、中国の軍事的脅威に対しては沖縄への基地(兵力)集中を避けた兵力の分散が必要だと分析している」とし、更に米軍の戦略変化や、県外・国外で自衛隊との共同訓練が頻繁に実施されている現状から在沖米海兵隊の本土・アジア地域への分散が可能だとしている。会議の議長である柳沢協二氏(元内閣官房副長官補)は防衛官僚として輝かしい経歴を重ねられているので、諸般の実状に通じておられると思うが、あまりに遠征前進基地作戦構想(EABO)を過大に評価しているように感じられる。公表されているEABOは、あくまで予算措置上のペーパーであり有事の対処要領は金庫の中で眠っていると思う。ちなみに陸軍のキャンプ座間は、キャンプという一時的駐屯を示す名称を使用し現時点では司令部のみの基地であるが、極東有事の際には大規模部隊を受け入れるための施設が整備されておりキャンプ内には580mの滑走路すら維持している。強襲揚陸艦が配備されている佐世保には、有事に兵站基地に活用するためにニミッツパークという名の広大な後背地を確保している。EABOは奇襲攻撃による被害を局限して反撃の拠点を残すための兵力配備であり、尖閣・台湾有事における海兵隊の急速配備(拡充強化)に対しては単なる紙切れの意味しか持たず、EABOを金科玉条として基地整備を考えることは、有事に殺到する海兵隊主力から県民を守ることに機能しないことは明白であろうと考える。硫黄島戦終結後わずか1週間で滑走路を使用可能にした米軍の能力からすれば、オスプレイ離発着場の急速拡張など朝飯前であろうことを思えば有事における私有地接収等の事態も考えられる。また、津梁会議が「この考えの延長線上で、在沖米軍基地の県外・国外移設が期待できる」としていることも疑問である。県知事の主張を補完するために、敢て空疎な期待感を加味する津梁会議構成員である有識者の現状分析・考察・検討には大きな疑問符がつくのではないだろうか。
政権や首長が施策を講じるにあたって、政治の独断ではなく有識者や専門家の意見であるとするために大小取り混ぜて多くの諮問機関等が存在するが、諮問者の意向に沿った答申がなされることが一般的であるように思う。新型コロナ対処のための専門家会議や国語審議会のように素人には判らない専門的知識を必要とするものはともかく、津梁会議のメンバーも軍事的知識よりも他の分野の専門家の方が大勢を占めていたものであろうが、非現実的・希望的な答申が県政や県民にとって価値を持つものだろうか。