エリザベス女王の国葬が粛々と行われたが、二つの点に興味を持った。
一は、棺を乗せた砲車を牽引・護持したのが海軍兵であったことである。
イギリスには近衛部隊として王室師団があり騎兵2個連隊と近衛歩兵5個連隊を擁しているとされるので、砲車の牽引・警護も近衛兵が行うものと思っていた。イギリスの儀典に暗いので勝手な思い込みかも知れないが、海軍兵とされた背景には、七つの海を支配した大英帝国の伝統・郷愁があるのではと思った。確かに近衛兵のきらびやかな軍装は慶事では劇的な効果を発揮するであろうが、哀悼の意味を込める儀式にはネービー・ブルーのセーラー服の方が相応しく見えた。また、葬送会場に棺を担ったのは近衛兵であり、黒色礼服の参列者の居並ぶ寺院内では、近衛兵の軍装が女王の華やかな生前を際立たせる効果を醸し出しているように思った。来るべき安倍氏の国葬でも葬送の暗い雰囲気の中にも、一種の華やかさを添えるもの(演出?)を取り入れて欲しいものである。
二は、チャールズ3世の即位によって、英連邦の少なからぬ国に連邦離脱・共和制移行の動きが活発になるだろうとの観測である。NHKの番組内で知ったことであるが、既にオーストラリアではコインの肖像は従前の通り国王チャールズ3世とするものの、紙幣については国王の肖像を廃することが現実味を帯びており、ニュージランドではユニオンジャックを取り込んだ国旗の変更が取りざたされているらしい。カリスマ女王の崩御によって、現在でも形式的なものであるとは云え英連邦が歴史となる日も近いのかも知れない。
カリスマ指導者が死去したことで、寄り合い国家が分裂した好例は、ユーゴスラビア社会主義連邦共和国であるように思う。
社会主義国家でありながら、コミンテルンから追放されたほどの独自路線で多民族を単一国家として纏めていたチトー大統領が亡くなると、激しい内戦を経てスロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、北マケドニアに分裂し、更にセルビアの自治州コソボも独立国となった。素人の単眼視点であるが、内戦に発展する程の民族間の軋轢・憎悪をチトーがまとめることができたのは、偏に彼のカリスマ性であったと思う。
英連邦に話を戻すと、時代の趨勢や連邦構成国民の価値観の多様化という側面があるとは言え、チャールズ3世の来し方を眺めると、不遜ながら、連邦を維持した女王陛下ほどのカリスマ性や信望は持ち合わせていないかのように思える。