もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

恩賜の煙草の思い出

2024年12月23日 | 自白

 恩賜の煙草に関して、懐かしい思い出があるが、30年以上も経過しているので時効であろうと思い披露する。

 現在はどうなっているのか知る由もないが、かっては海上自衛隊の高級幹部が年に1度、東京に集合して会議を持つことが恒例であった。海軍大佐であられた高松宮殿下は、参集した高級幹部を招いて懇談されるのを例とし、楽しみにもされていたそうで、散会の際には吸い口に菊の御紋章があしらわれた紙巻きたばこ(恩賜の煙草)を手交されたと聞いている。
 自分が幕僚であった司令部の副官室で、高松宮殿下が下賜されたその貴重な恩賜の煙草を発見した。副官室付きの女性職員に質すと、既に喫煙者が激減していたために1年以上も棚に仕舞われたままとのことであった。ダメもとで「1本頂戴ョ」とねだったら、案に相違して「いいわョ」との即答。有難く頂戴して副官室の裏に隠れて至福の一服。
 以後、指揮官への報告の度に副官室に立ち寄っては「1本頂戴」・「どうぞ」の繰り返し、最後の頃には厚かましくも「1本貰うネ」になっていた。そんな不謹慎な幕僚は自分の他にはいなかったらしいが、2・3箱あった恩賜の煙草は2か月ほどで煙となってしまった。
 半年ほど経って、指揮官に報告を済ませて退出しようとした際、指揮官がニヤリと笑って「オイ。恩賜の煙草は美味かったか」の一言。脇の下にドット冷や汗、覚悟を決めて直立不動、「大変美味しかったです」。「そうか」。
 副官室に飛び込んで尋ねたら「お客さんに渡すと云われたので、貴方が全部吸いましたと申し上げました」とのこと。
 人に自慢できることは何もないが、自分と同レベルのランク・ポジションの人間で、恩賜の煙草を復数箱も頂いた人間は、そう多くはないのではと思っている。

 後日、指揮官から聞いたところでは、既に体調を崩されていた殿下は、散会に際して「自分が死んだら、皇室と海上自衛隊の縁も切れるなァ」と寂しげに漏らされたとのことであった。自分が煙にしてしまった恩賜の煙草は、時期的に考えると高松宮殿下が最後に下賜されたものだったのかも知れない。
 殿下は下賜した恩賜の煙草が、初老の下級幹部によって煙とされたとは想像すらされないであろうが。


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6 コメント

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恩賜タバコ私も吸いました (あほうどり)
2024-12-23 15:41:37
正方形の白い紙箱に菊の紋
タバコ1本づつにも菊の紋が入ったタバコ

しんせい か いこい みたいな臭かった覚えがあります。ゴールデンバットよりは少しマシかな?というレベルで段ボール箱で戴いたので皆に頒けてあげましたが評判は良くありませんでしたね

ひとつ質問させていただければ、横須賀基地の幕僚長というのはどの程度の位置の方なのでしょうか? ОBの方で付き合い方が分かりませんので
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遅くなりました (管理人)
2024-12-23 17:59:51
あほうどり様
コメントを有難うございます。
聞き覚えの都市伝説では、恩賜の煙草は「光」がベースとされているようです。
それにも増して、殿下直々の御下賜と由緒正しきそれは、庶民の喉にはもったいないものでした。
横横須賀地区で幕僚長の配置があるのは4部隊で、4人の幕僚長(海将補)がおられますが、幕僚長で退職されるケースは殆どないため、その後には更に栄進された御方かと思います。
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恩賜の煙草は「光」がベース (あほうどり)
2024-12-23 22:54:53
>管理人 さんへ
>遅くなりました... への返信
納得できる都市伝説ですね、そんな味がした気がします
 私は宮内庁から戴いたものでしたから有難さはありませんでした

幕僚長(海将補)さんであれば将軍閣下ですね。今後は失礼のないような接し方を心掛けます。
米国などのように
「民に代わって命をかけてくれる軍人の悪口を決して言ってはならない」
「軍人が殉職したら家族は国が護る」
「退役軍人には最大の敬意を持つ」
ことが常識になっている国になることを私は期待しています
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Unknown (bickri)
2024-12-23 23:45:18
こんばんは。
私は30代のころ、昭和天皇関連のお仕事をさせていただいたとき、恩師の煙草をいただきました。
すでに非喫煙者となっていたので、父に進呈したところ、普段は厳格な父の頬が緩んだことを思い出します。
仕事内容は書籍の製作でしたが、表紙は白紋チラシの鹿皮で、とても豪華な逸品だったことを覚えています。
なお煙草はフィルターつきで、巻紙の感じから『チェリー』のようでした。
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遅くなりました (管理人)
2024-12-24 00:13:39
>あほうどり 様
以前にも書いたことですが、准将以上を将軍と呼ぶのは陸・空軍で、海軍(海兵隊)では提督と敬称します。
また、挙げられた3件は現職隊員の切望するところでありましょうし、OBもせめて在郷軍人記章を付けて退職時の制服を着ることを許して欲しいものです。自分も夏制服を1着保管しておりますが、再び袖を通せる機会は無いと思っています。
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遅くなりました (管理人)
2024-12-24 00:23:27
>bickri様
>コメントを有難うございます。
貴重な体験をお聞かせ頂きました。
父上は、恩賜の煙草以上に「息子が陛下のお手伝いをした」ことに対して、万感の思いを持たれたのではと拝察します。
我々世代以上の心底には、陛下・皇族は雲上人であって欲しいとの思いがあるものと思っております。
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