ゴエモンのつぶやき

日頃思ったこと、世の中の矛盾を語ろう(*^_^*)

労働者でありながら1割負担は不当と支払い拒否に立ち上がった障害者たち

2008年11月01日 00時03分18秒 | 障害者の自立
 障害者自立支援法に対して障害者が運動を行っている。NPO法人「札幌・障害者活動支援センターライフ」が運営している「もじや」(自立支援法での区分では就労継続支援A型)や「たねや」(同法、就労移行支援B型)で働いている障害者たちが、1割の自己負担の支払いを拒否している。NPO法人「札幌・障害者活動支援センターライフ」が発行している「アドボケイト」(神無月号、第87号、2007年10月10日)で、障害者たちがどう考えたか、また、北海道庁がどんな扱いをし、どういった対応をしたか、マスコミがどう報道したかなどについて、文章を書いている。NPOライフの施設側の石澤事務局長や執筆者である「もじや」の山野昌義さんの承諾をいただいたので、ここに紹介する。いつものように、必要かどうか分からない注釈をつけ、中見出しも入れた。また、私の感想をコメントというかたちでつけた。以下が、山野さんの文章全体である。

■ なぜ、利用料の1割の支払いを拒否しているか
 これから利用料一割負担不払い運動の経緯について説明します。昨年(2006年)10月障害者自立支援法が完全施行され、それに伴いライフも5事業所へと形態を変えました。

 ライフでは(2006年)08月、09月頃から、この自立支援法によってライフがどのように変わっていこうとするのか、また、障害をもつ仲間たちに、どのような影響がある法律なのかということを、勉強会を開いてきました。その中で私たちが、疑問を持ったのは、利用料の一割負担でした。

 自立支援法では、就労継続支援A型、ライフでいえば「もじや」、就労移行支援B型、ライフでいえば「たねや」を利用する人たちから利用料の一割を、事業所は徴収しなければならないという決まりになっていました。

■ 労働者として利用料を払う理由はあるのか
 ここで疑問になるのは、1.法律上A型は就労の場、B型は就労に向けた訓練の場であるとして、A型は最低賃金を保障し、労働契約を結ぶこと、B型は最低月3000円の工賃が支払えば良いとなっているにもかかわらず、どちらの利用者も一ヶ月毎月利用すると約1万円の利用者負担があること。2.A型を利用する人たちは労働者として契約を結んでいるにもかかわらず、職場に利用料を払わなければならないことの2点にでした。そこで、私たちは、利用料の一割負担不払い運動を始めたのです。

 昨年(2006年)10月のことでした。毎月、給料日に利用料の請求書をお給料と一緒に受け取る。受け取るが支払わない。毎月毎月その繰り返しでした。

■ マスコミの取材や北海道庁の立ち入り調査へと広がった
 そんな今年(2007年)08月のある日、ライフの機関誌を読んだ北海道新聞の記者が取材にきました。私たちのやっている運動について、取材をしたいということでした。そして、08月29日の夕刊に「障害者30人の不払い運動」と記事が出ました。そして、次の日の朝刊にも運動の経緯など、私が話した記事が出たのです。

 今度は、道新(北海道新聞)の記事を読んだNHK、そしてHBC(北海道放送)が取材に、北海道(管轄している行政として)が立ち入り調査に入りました。北海道の立ち入り調査の様子は、その日の夕方HBCの番組の中で取り上げられました。そして、09月04日に立ち入り調査の件を民主党の道議道下大樹さんが、保健福祉委員会という道(北海道)の会議の場で質問してくれました。

 その後、UHB(北海道文化放送)が取材に入り、私たちの運動について取り上げられました。そして、10月02日に北海道議会において、道下議員が再度一割負担についての質問をしてくれました。

■ 立ち入り調査のときに感じたこと
 私たちの運動が新聞記事になってから調査に入った道(北海道)は、自立支援法に関って動く団体の行動を把握していなかったと思う。そして、調査の時、差別的な発言をしたことは許せないことだと思う。また、事業所立ち上げ当時には「書類の不備がある」などと言われてはいなかったのに、立ち入り調査後に指摘をしてくるというのは、どういうことだろうか。

 私たちの事業所に立ち入り調査が入ったときに「障がい者が法律を理解して、そのような運動をすることができないのではないか」といった発言や、何度も「事業所側が運動を扇動しているのではないか」と何度も聞いた発言は、障害者保健福祉課の職員である立場の人が、障がい者を差別した発言をし、最初から事業所側の扇動と決めつけていた道(北海道)側の姿勢はなんとも、お役人らしいものである。

 しかも、道下議員の「このような差別的発言や執拗な問いかけがあったのか」という質問には、「そのような事実はなかった」と答えている。このような答弁を聞いていると、自分たちの都合の悪い発言については、なかったことに、責任を問われることは他方に押しつけて、自分たちの思うような結果が得られなかったから公表しない、そう聞こえる。「自分たちが困らなければいい」ということだろう。

■ 思い込みをもって報道するマスコミへの批判や知事の答弁への不信感
 経緯にも書いたように、いろいろな取材が入ったが、どれも私たちが行っている運動を、誤解なく伝えてくれたところはなかったのではないだろうか。「私たちは働きに来ているのに、お金を払うのはおかしい」と言っているのに、利用料の金額が高いとか、払うだけの収入がないということに、すり替えられている気がする。

 道下議員と高橋知事とのやりとりの中で思ったことは、答弁する人が変わったにもかかわらず、答弁内容は丸うつしでもしたかのように、保健福祉委員会の時と変わらないのには驚いた。結局、高橋知事は道(北海道)職員が書いた原稿をただ読んでいるだけで、知事本人の意見や考えはどこにもない(なお、同「アドボケイト」誌上には、北海道議会での道下議員と高橋知事との質疑応答も掲載されている)。

 私たちがやっている運動は、制度上A型、B型という違いはあったとしても、「たねや」と「もじや」を「働く場」として認識しているからこそ、自主的に不払い運動を始めました。これから先、どのようにこの運動の影響がでるかはわかりませんが、「働く場」への一割負担撤廃へ向けて運動していきたいと思います。

 以上が、山野正義さんの文章全体である。

■ 自立支援法において障害者の労働を認めない矛盾――大谷のコメント・その1
 障害者が働く場に通っている。障害をもっていない人は、あるいは、障害者でも一般に働く場に通っても(たとえ、それが自治体行政であっても)利用料を払うわけではない。道下議員が指摘している通り、障害者自立支援法は矛盾している。一般の民間企業や行政であっても、障害者とともに働く事業所であっても、事業規模が異なるだけで、障害者が労働者として働きに来ている点では共通することを認める制度を実現したい。

 障害者が働く上で支援が必要だから、利用料を課しているという考え方もある。しかし、一般の企業では、ジョブコーチは厚生労働省が制度化している。障害者が働く上で必要なさまざまな支援をするスタッフも配置している。

 つまり、一般に「福祉」といわれる場では、障害者は労働者としては扱われないという、伝統的な見方を踏襲したにすぎない。その反面で、自立支援法は、障害者にたいして就労による自立を促進する趣旨になっている。普通に労働に従事しているということは、まさに自立して生活していることの1つの証明であろう。

■ 障害者は法律を活用できないという行政職員の予断と偏見――大谷のコメント・その2
 本文にあるように、たとえ、北海道庁の職員が「障害者には分からないはず事業所側が扇動したのではないか」と言ったとすれば、まさに差別言動だろう。障害者には分かるはずはないという思い込みか、差別から発した言葉である。

 なお、ここの事業所を経営している人は別に障害者を扇動してはいない。障害者が他人に扇動(この用語もすごい)される立場にあるという認識からでたことばだろう。障害者自身が、この法律・制度のことを独自に勉強して発見した矛盾を、行動で明らかにしただけにすぎない。

 障害者に対する差別発言や蔑視だけではない。この発言の延長上に、行政職員以外の市民(北海道では道民というのだろうか)は法・制度を独自に分析する力がないということになってしまう。関心を持っている人々の力量をちゃんと把握していない。また、行政職員であっても、自分が現在担当している法・制度の事務について以外では、こまかい所までは読み込むことはほとんどできないという。住民である人々を見下げ、解釈をそのつど変える行政職員が存在するから、住民の自治体への不信感が強まるのであろう。

■ 利用料金の高さや収入の低さよりも「働く」という仕組みの問題――大谷のコメント・その3
 障害者たちは、自立支援法に基づく社会サービス一般については、利用料負担を拒否しているとは、聞いていない。また、事業所側の人も、自立支援法そのものを認めている。障害者が働く人であるかどうか、この事業所は働く場であるかどうかが、議論の焦点であるはずだ。

 それを、マスコミは、1割という利用料の金額が高すぎると受けとめた。政府もそうだ。だから、昨年の補正予算であわてて、減免措置を採用した。そこにズレがある。

 また、障害者は収入が低いという思い込みが、マスコミや行政職員、地域の人々にもある。しかし、働いている障害者に報酬として、最低賃金水準を実現している事業所もある。また、月収10万円を目標として知恵を絞っている事業所もある。障害年金は国民年金だけでも、1級障害であれば、年間100万円弱になる。

 札幌のライフでの障害者たちは、働いている自分たちがなぜ利用料を払う必要があるのか、という提起をしている。障害者の働く場を認めてこなかった行政や各種の福祉施設担当者の問題であろう。あるいは障害を持っていても働く労働者として扱ってこなかったこれまでの「福祉政策」の限界でもあろう。