この本は副題にもあるとおり介護の現場に関わっている人たちからの現時点での検証である。高齢者介護の介護保険制度は2000年度に保険方式で始まった。障害者については2006年度から障害者自立支援法が始まった。新自由主義政策のもとで、反対論も強く介護現場としても困難な現状にある。著者の紹介として、現在は研究者であるが、地域包括支援センターでケアマネジャーとして勤務していた。しかも、大学に勤務する傍ら非常勤のケアマネジャーとして仕事をされている。
■ 介護現場の崩壊について強い危機感を抱いている
最後の終章「現場へ歩み寄るための道筋」の最後の部分において、結城さんは「介護現場の崩壊を食い止めるには、一人ひとりの介護に対する意識が問われているのである」と危機感を募らせている。それはすぐ前の「介護や医療現場が崩壊寸前とマスコミで報道されているが、それを最終的に解決するのは『政治家』『役人』『介護従事者』といった専門家ではなく、住民自身である」と書いていることに照応する。ここで「住民」「一人ひとり」と強調されているのは、住民参画によって政治を変革しようと言う意図があると受け止めた。
結城さんも「仮に、この機会に抜本的な制度見直しが実現せず、従来のように『給付費抑制』『財政優先』といった考え方を踏まえた制度再改正に終われば、介護現場の崩壊は決定的となるかもしれない」と書いている。その意味では、結城さんも介護現場の崩壊という危機感は共有されていると見る。とくに、2005年介護保険法改訂(2005年度部分実施、2006年度実施)による影響が強いと判断されているようだ。
■ 介護保険法による「介護予防」強調への違和感
2005年度の介護保険法改訂で国から強調された介護予防について取りあげている章で、厚生労働省の目論見を批判的に書いていらっしゃる。要支援以前の状態で「特定高齢者」を選び出して予防訓練を行なうことに対しても、具体的に仙台市を例にとって基準はゆるやかになったがいまだに「該当者を見つけることに苦慮している」と指摘している。私も該当者ゼロの自治体があるときいたことがある。
地域包括支援センターが行なう介護予防ケアマネジメントについても、その「仕事量が膨大となれば、このような業務はどうしても疎かになる」と記されている。地域包括支援センター業務には「介護予防ケアマネジメント」だけではなく「高齢者の総合相談窓口」「高齢者虐待の相談・調整」「地域のネットワークづくり」なども、重要な役割と期待されている。それをもっぱら、現実に介護予防ケアマネジメントだけに絞ったとしても、人手不足の状態であれば、介護予防ケアマネジメントも十分にできない。とくに「高齢者虐待」に関しては、高齢者虐待防止法が制定され、施設でも在宅でも重要な役割となっているのであるが、地域包括支援センターが有効に機能したとは思えない。
新制度によってたしかに利用者が減少した結果はある。しかし、結城さんも「利用制限につながったことが大きい」と考えている。そもそも「社会保険は被保険者のリスクに対して機能していくもので、『介護予防』といったサービスが本格的に社会保険制度内で展開されると、『保険原理』に馴染まなくなる。基本的には『予防』を中心としたサービスは公費で賄われ、公的機関が主体となって実施されるのでなければ、その効果は期待できないと筆者は考える」と、私も同意する意見を述べている。これまで予防がそれなりに行なわれていたが、介護保険法の改訂による新制度で、介護予防がずたずたにされたという嘆きの声が、いくつかの自治体担当者からは話されることが多い。
■ 消費税の引き上げによる財源確保への意見
介護保険料の引き上げや公費財源の投入はできないので、財源が制約されている。そこで、介護保険の利用者を制限せざるをえないという声もある。それに対する増税意見は、消費税の引き上げによるという見方が主流である。
結城さんは社会保障の全てを消費税の引き上げで賄うという意見とは、違う。基礎年金の国庫負担率を1/3から1/2に引き上げるためにも消費税の引き上げが、取りざたされている。
基礎年金については、消費税以外の歳出削減と税制改革で財源を見出すべきだと、結城さんは主張する。消費税の引き上げを求めるとすれば、医療・介護という現物給付に特化すべきだと、結城さんは主張する。ただ、企業など雇用主が現役世代の保険料の1/2以上を分担するから、保険料を消費税にすると企業の負担を軽くする結果になる。はたしてそれでよいのだろうか?
このほか、障害者への介護についても1章を設けている。結城さんは、現場での仕事から高齢者介護と障害者介護とは異なるものであるとされる。その立場から二つを統合することは制度論・財政論からは考えられるとしても、現場に即して考えればより慎重であるべきだとの主張をされている。
■ 介護現場の崩壊について強い危機感を抱いている
最後の終章「現場へ歩み寄るための道筋」の最後の部分において、結城さんは「介護現場の崩壊を食い止めるには、一人ひとりの介護に対する意識が問われているのである」と危機感を募らせている。それはすぐ前の「介護や医療現場が崩壊寸前とマスコミで報道されているが、それを最終的に解決するのは『政治家』『役人』『介護従事者』といった専門家ではなく、住民自身である」と書いていることに照応する。ここで「住民」「一人ひとり」と強調されているのは、住民参画によって政治を変革しようと言う意図があると受け止めた。
結城さんも「仮に、この機会に抜本的な制度見直しが実現せず、従来のように『給付費抑制』『財政優先』といった考え方を踏まえた制度再改正に終われば、介護現場の崩壊は決定的となるかもしれない」と書いている。その意味では、結城さんも介護現場の崩壊という危機感は共有されていると見る。とくに、2005年介護保険法改訂(2005年度部分実施、2006年度実施)による影響が強いと判断されているようだ。
■ 介護保険法による「介護予防」強調への違和感
2005年度の介護保険法改訂で国から強調された介護予防について取りあげている章で、厚生労働省の目論見を批判的に書いていらっしゃる。要支援以前の状態で「特定高齢者」を選び出して予防訓練を行なうことに対しても、具体的に仙台市を例にとって基準はゆるやかになったがいまだに「該当者を見つけることに苦慮している」と指摘している。私も該当者ゼロの自治体があるときいたことがある。
地域包括支援センターが行なう介護予防ケアマネジメントについても、その「仕事量が膨大となれば、このような業務はどうしても疎かになる」と記されている。地域包括支援センター業務には「介護予防ケアマネジメント」だけではなく「高齢者の総合相談窓口」「高齢者虐待の相談・調整」「地域のネットワークづくり」なども、重要な役割と期待されている。それをもっぱら、現実に介護予防ケアマネジメントだけに絞ったとしても、人手不足の状態であれば、介護予防ケアマネジメントも十分にできない。とくに「高齢者虐待」に関しては、高齢者虐待防止法が制定され、施設でも在宅でも重要な役割となっているのであるが、地域包括支援センターが有効に機能したとは思えない。
新制度によってたしかに利用者が減少した結果はある。しかし、結城さんも「利用制限につながったことが大きい」と考えている。そもそも「社会保険は被保険者のリスクに対して機能していくもので、『介護予防』といったサービスが本格的に社会保険制度内で展開されると、『保険原理』に馴染まなくなる。基本的には『予防』を中心としたサービスは公費で賄われ、公的機関が主体となって実施されるのでなければ、その効果は期待できないと筆者は考える」と、私も同意する意見を述べている。これまで予防がそれなりに行なわれていたが、介護保険法の改訂による新制度で、介護予防がずたずたにされたという嘆きの声が、いくつかの自治体担当者からは話されることが多い。
■ 消費税の引き上げによる財源確保への意見
介護保険料の引き上げや公費財源の投入はできないので、財源が制約されている。そこで、介護保険の利用者を制限せざるをえないという声もある。それに対する増税意見は、消費税の引き上げによるという見方が主流である。
結城さんは社会保障の全てを消費税の引き上げで賄うという意見とは、違う。基礎年金の国庫負担率を1/3から1/2に引き上げるためにも消費税の引き上げが、取りざたされている。
基礎年金については、消費税以外の歳出削減と税制改革で財源を見出すべきだと、結城さんは主張する。消費税の引き上げを求めるとすれば、医療・介護という現物給付に特化すべきだと、結城さんは主張する。ただ、企業など雇用主が現役世代の保険料の1/2以上を分担するから、保険料を消費税にすると企業の負担を軽くする結果になる。はたしてそれでよいのだろうか?
このほか、障害者への介護についても1章を設けている。結城さんは、現場での仕事から高齢者介護と障害者介護とは異なるものであるとされる。その立場から二つを統合することは制度論・財政論からは考えられるとしても、現場に即して考えればより慎重であるべきだとの主張をされている。