福岡県鞍手町の知的障害者入所更生施設「サンガーデン鞍手」を舞台にした記録映画「あした天気になる?」(宮崎信恵監督)の完成記念上映会が22日と24日、同町などで開かれる。映画は重い知的障害に加え、不安や緊張がパニックとなって現れる行動障害を抱えた30人の入所者の日常を1年にわたり追い続けた「青春群像」の記録。映画の狙いなどを宮崎監督に聞いた。 (聞き手・江藤俊哉)
●「懸命に生きる姿見て」宮崎監督
‐映画制作の経緯は?
明治期に知的障害者支援に尽力した先駆者、石井筆子の記録映画(2006年)を制作した際、関係者から「歴史も良いが、『今』を見つめる映画を作ってほしい」と要望を受けました。
ちょうど福祉施設で虐待事件が相次いで明らかになっていたころ。福祉関係者向けの教材ビデオが制作できないかと全国の施設を調べる中で、行動障害のある障害者を専門に受け入れる「サンガーデン鞍手」の取り組みを知りました。
行動障害は「処遇困難」として施設から受け入れを断られることも多く、入所できても施設側の不適切な対応で障害を重くしたり、虐待につながる例もあるのです。
サンガーデン鞍手は入所者の行動障害を分析し、対応を探る取り組みでパニックを軽減する成果を上げており、人権思想に裏打ちされた先駆的な取り組みだと感じました。撮影を申し入れたところ、快く引き受けて頂きました。
‐撮影はどのように進んだのですか。
2007年11月に撮影に入り、施設に9回計約40日通ってカメラを回し続けました。
入所者には言葉で意思表示できない人も多く、すでに軽減されていたとはいえ時折パニックに直面することもあり、私たちも「どう関係を作れば良いのか」とためらいがありました。
でも取材を重ねる中で、初めは拒絶するような態度だった人が急にネクタイをしてカメラの前に立ったり、自室にカメラを入れるのを許してくれたりして、「カメラのおばちゃん、おじちゃん」と職員か家族のような親密さで受け入れてくれるようになりました。
保護者にも鍋料理をつついたりしながらお話をうかがいました。わが子の障害と長く向き合ってきた保護者から「きれいごとの映像で済ませないで」と要望を受けました。多くのかっとうを乗り越えた強さや、障害者が安心して暮らせる社会の実現へ向けた熱い思いが伝わってきました。
‐最も伝えたいことは?
私たちは能力や効率が優先される競争社会の中で、多くの建前で心を防御しながら生きています。でも、ここではそんな必要はない。こちらが壁を取り払えば、相手が胸に飛び込んできてくれる安心感があるのです。私たちは彼らの存在感にすっかり魅せられ、いつしか撮影日を心待ちにするようになりました。
映画にストーリーはありません。主人公もいません。彼らの淡々とした日常を描いています。
題名はある入所者が口癖のように職員たちに問い掛ける言葉です。彼らは社会から排除され、生きる場所は非常に限られています。ですが、私たちと同じ喜怒哀楽をもち、明日に向けて懸命に生きています。彼らが晴天の下で気持ち良く生きていける「あした」を私たちが築くことができるか。社会が突きつけられている問い掛けです。
▼みやざき・のぶえ 1942年生まれ。「風の舞─闇を拓く光の詩」「無名の人─石井筆子の生涯」などハンセン病や障害者、高齢者介護をテーマにしたドキュメント作品を多数発表している。東京都在住。
× ×
●22、24日に上映会 福岡県内
22日午後2時、福岡県鞍手町の町総合福祉センター▽24日午前10時半、午後1時半、午後6時半、同県春日市の県総合福祉センター(3回上映)。一般1200円、小中高校生800円。サンガーデン鞍手=0949(43)1200か、九州共同映画社=0120(195)933。
× ×
●行動障害分析し予防 サンガーデン鞍手
行動障害は、意思が伝わらないなど障害者が激しい不安や緊張、混乱を感じ、それが多動や奇声、自他への攻撃、不眠、拒食などの問題行動となって現れる。
サンガーデン鞍手(長谷川正人施設長)は行動障害や睡眠障害などを併せ持つ自閉症などの重い知的障害者施設として2003年に開設された。全国でも珍しい一戸建て住宅風の居住棟4棟に30人が暮らす。全室個室で1棟は女性棟だ。
職員の心構えとして「しかるのではなく話し合う」「命令ではなくお願いする」「強制せず促す」など5原則を掲げ、入所者のすべての行動障害を記録し、1人1人のパニック誘発要因などを分析。対処法をマニュアル化している。
長谷川施設長は「行動障害は環境が作り出す。理由を分析すれば予防できる。映画を通して彼らの喜びや悲しみ、親子のきずなの深さを知ってほしい」と話した。
●「懸命に生きる姿見て」宮崎監督
‐映画制作の経緯は?
明治期に知的障害者支援に尽力した先駆者、石井筆子の記録映画(2006年)を制作した際、関係者から「歴史も良いが、『今』を見つめる映画を作ってほしい」と要望を受けました。
ちょうど福祉施設で虐待事件が相次いで明らかになっていたころ。福祉関係者向けの教材ビデオが制作できないかと全国の施設を調べる中で、行動障害のある障害者を専門に受け入れる「サンガーデン鞍手」の取り組みを知りました。
行動障害は「処遇困難」として施設から受け入れを断られることも多く、入所できても施設側の不適切な対応で障害を重くしたり、虐待につながる例もあるのです。
サンガーデン鞍手は入所者の行動障害を分析し、対応を探る取り組みでパニックを軽減する成果を上げており、人権思想に裏打ちされた先駆的な取り組みだと感じました。撮影を申し入れたところ、快く引き受けて頂きました。
‐撮影はどのように進んだのですか。
2007年11月に撮影に入り、施設に9回計約40日通ってカメラを回し続けました。
入所者には言葉で意思表示できない人も多く、すでに軽減されていたとはいえ時折パニックに直面することもあり、私たちも「どう関係を作れば良いのか」とためらいがありました。
でも取材を重ねる中で、初めは拒絶するような態度だった人が急にネクタイをしてカメラの前に立ったり、自室にカメラを入れるのを許してくれたりして、「カメラのおばちゃん、おじちゃん」と職員か家族のような親密さで受け入れてくれるようになりました。
保護者にも鍋料理をつついたりしながらお話をうかがいました。わが子の障害と長く向き合ってきた保護者から「きれいごとの映像で済ませないで」と要望を受けました。多くのかっとうを乗り越えた強さや、障害者が安心して暮らせる社会の実現へ向けた熱い思いが伝わってきました。
‐最も伝えたいことは?
私たちは能力や効率が優先される競争社会の中で、多くの建前で心を防御しながら生きています。でも、ここではそんな必要はない。こちらが壁を取り払えば、相手が胸に飛び込んできてくれる安心感があるのです。私たちは彼らの存在感にすっかり魅せられ、いつしか撮影日を心待ちにするようになりました。
映画にストーリーはありません。主人公もいません。彼らの淡々とした日常を描いています。
題名はある入所者が口癖のように職員たちに問い掛ける言葉です。彼らは社会から排除され、生きる場所は非常に限られています。ですが、私たちと同じ喜怒哀楽をもち、明日に向けて懸命に生きています。彼らが晴天の下で気持ち良く生きていける「あした」を私たちが築くことができるか。社会が突きつけられている問い掛けです。
▼みやざき・のぶえ 1942年生まれ。「風の舞─闇を拓く光の詩」「無名の人─石井筆子の生涯」などハンセン病や障害者、高齢者介護をテーマにしたドキュメント作品を多数発表している。東京都在住。
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●22、24日に上映会 福岡県内
22日午後2時、福岡県鞍手町の町総合福祉センター▽24日午前10時半、午後1時半、午後6時半、同県春日市の県総合福祉センター(3回上映)。一般1200円、小中高校生800円。サンガーデン鞍手=0949(43)1200か、九州共同映画社=0120(195)933。
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●行動障害分析し予防 サンガーデン鞍手
行動障害は、意思が伝わらないなど障害者が激しい不安や緊張、混乱を感じ、それが多動や奇声、自他への攻撃、不眠、拒食などの問題行動となって現れる。
サンガーデン鞍手(長谷川正人施設長)は行動障害や睡眠障害などを併せ持つ自閉症などの重い知的障害者施設として2003年に開設された。全国でも珍しい一戸建て住宅風の居住棟4棟に30人が暮らす。全室個室で1棟は女性棟だ。
職員の心構えとして「しかるのではなく話し合う」「命令ではなくお願いする」「強制せず促す」など5原則を掲げ、入所者のすべての行動障害を記録し、1人1人のパニック誘発要因などを分析。対処法をマニュアル化している。
長谷川施設長は「行動障害は環境が作り出す。理由を分析すれば予防できる。映画を通して彼らの喜びや悲しみ、親子のきずなの深さを知ってほしい」と話した。