きょうから県庁展望ロビーで
交通事故で高次脳機能障害や脳損傷などの重度の後遺症を抱えた障害者ら7人による絵画や写真の作品展が、4日から県庁15階の展望ロビーで初めて開かれる。展示されるのは、障害と向き合いながらこつこつと制作した作品。主催する独立行政法人「自動車事故対策機構」栃木支所の近藤基了支所長(52)は「障害があっても生き生きと活動している姿を紹介したい」と話している。
同機構は、自賠責保険の運用益を使って介護料の支給や、交通遺児や家族が交流する「友の会」を運営する団体。栃木支所の職員が介護料受給者の家に行って相談を受けている際、絵を描いている人を多く見かけたことが作品展開催のきっかけとなった。
同支所が、県内の介護料受給者84人に開催を呼びかけたところ、風景画や習字、写真など様々な作品計約50点が集まった。
肢体不自由の障害を持つ渡辺成一さん(53)は水彩画を出品。「絵を通していろいろな人と出会うことができた」と喜ぶ。
また、頸椎(けいつい)損傷のため胸から下が不自由な有馬和江さんは書道作品を展示する。「書いている時はつらい痛みやしびれを紛らわせることができる。自分の力でできることも魅力」と作品に対する思いを語る。
作品展は13日まで。時間は平日は午前8時~午後9時、土日は午前10時~午後9時。入場無料。問い合わせは同支所(028・622・9001)。
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パステル画12点を出品する宇都宮市中今泉、大山智子さんは、体の鎖骨から下が思うように動かせない四肢まひを患う。
23歳だった1996年、運転中に車に追突され、頸椎(けいつい)を損傷した。病院や訓練施設などに入所、腕の上げ下げや食事などの日常動作、車いす操作などのリハビリは約8年間に及んだ。現在はかすかに動く右手を頼りに、レバーを押したり引いたりして、電動車いすで動けるようになった。
体育大学に進み、サークルではエアロビクスを選択。「エアロビを通じて人を笑顔にしたい」と講師も目指していた。介助がないと動けない自分に対し「こんな自分ではなかったのに」と繰り返し感じた。自分も両親も自由に動けた頃が忘れられず、「もっと頑張れば動けるはず」と期待する両親と衝突することもあった。
パステル画を始めたのは2009年。絵画教室のチラシに目が留まった。「どなたでもできます」という言葉に「やれるかもしれない」と早速応募し、宇都宮市内で開かれる教室に月3回、約3か月通った。
始めてみると、握力がないため、思うように色をのせられない。ペン型の自助具を手と手袋の間に挟み、先につけた綿にパステルの粉をつけて紙にこするが、かすかに色がつくだけ。周囲が作業を終えても仕上がらず、家に持ち帰り、4時間以上かけて制作することもあった。しかし、薄い色を塗り重ねると、誰よりも優しい色合いの作品ができあがった。
受講後も制作を続け、家族や友人の誕生日に絵をプレゼントした。母から「きれいに描けてたから人にあげたわよ」と言われると、照れくさかったがうれしかった。
絵を描くことは、本当の自分を表現することだという。いつもは人の助けを受けながら生活をしているが、絵ならば自分の力で思うように描くことができる。作品展を前に「絵を描くことができてよかった。障害があってもできることがあると同じ障害を持つ人にも示していきたい」と話す。
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自助具を使いながら作品の制作に取り組む大山智子さん(大山さんの自宅で)
(2011年6月4日 読売新聞)