◇「個性」と共に生きる--川瀬裕夫さん(60)
ギターの音色に乗せて、力強く響く声。「話したくても言葉が出ない しゃべりたいけどつっかえる 言いたいことはわかっているのに 声に出して言おうとしても 相手には届かない 響かない これが『どもり』だ」
今月19日、心身障害者のパフォーマンス集団「こわれ者の祭典」のイベントに初出演した。大勢の観客を前に、舞台の上で、一度も言葉に詰まらず自作の詩を朗読した。
自分の発声の仕方がおかしいと気づいたのは、小学3~4年のころ。中学、高校では教科書を朗読する国語の授業が苦痛だった。自分の番が来ても声が出ない。皆の前で教師に「なぜ読めないのか」と言われ、それを説明したくても言葉にならず、反論すらできないことが悔しかった。
当時、吃音(きつおん)について社会ではほとんど知られていなかった。自分の気持ちを周りに知ってもらいたい。でも言葉にしようとするとつっかえる。人がいれば緊張し、焦り、汗が出てくる。これが吃音と知ったのは24歳。新潟市で開かれた吃音に関する講座に参加したときだ。苦しみを分かち合える仲間に出会い「自分だけじゃなかった」と心が軽くなった。
02年に「にいがた言友会」に入会。月1回、仲間と語り合い、自分の体験を発表する経験を重ねた。それまでは人とまともに会話ができず、自宅で電話が鳴ると心臓が縮まる思いがした。自分から相手に話しかけようと思えるようになったのは50歳を過ぎてから。今も吃音はあるが、電話も人との会話も苦にならない。「人に言われて直るものではない。人に笑われようが、けちをつけられようが開き直る。そういう『ずうずうしさ』が大事」と言う。
「半歩でも4分の1歩でもいいから踏み出すこと。そういう気持ちを持たないと吃音はよくならない」。そう実感する。言友会の活動を広く知ってもらい、自分1人だけだと思い込んでいる人に仲間がいるよ、と伝えたい。病気でも、障害でもない。「吃音は個性そのもの。隠しても仕方ない。その個性をどう生かしていけるかだ」【川畑さおり】
==============
■人物略歴
◇かわせ・ひろお
1951年旧白根市(現新潟市南区)生まれ。立正大卒業後、印刷会社や鉄工所などに勤務。趣味はクラシック音楽鑑賞。「にいがた言友会」の会員は20~60代の約40人。ホームページは、http://www006.upp.so-net.ne.jp/ni-genyukai/
毎日新聞 2011年6月26日 地方版
ギターの音色に乗せて、力強く響く声。「話したくても言葉が出ない しゃべりたいけどつっかえる 言いたいことはわかっているのに 声に出して言おうとしても 相手には届かない 響かない これが『どもり』だ」
今月19日、心身障害者のパフォーマンス集団「こわれ者の祭典」のイベントに初出演した。大勢の観客を前に、舞台の上で、一度も言葉に詰まらず自作の詩を朗読した。
自分の発声の仕方がおかしいと気づいたのは、小学3~4年のころ。中学、高校では教科書を朗読する国語の授業が苦痛だった。自分の番が来ても声が出ない。皆の前で教師に「なぜ読めないのか」と言われ、それを説明したくても言葉にならず、反論すらできないことが悔しかった。
当時、吃音(きつおん)について社会ではほとんど知られていなかった。自分の気持ちを周りに知ってもらいたい。でも言葉にしようとするとつっかえる。人がいれば緊張し、焦り、汗が出てくる。これが吃音と知ったのは24歳。新潟市で開かれた吃音に関する講座に参加したときだ。苦しみを分かち合える仲間に出会い「自分だけじゃなかった」と心が軽くなった。
02年に「にいがた言友会」に入会。月1回、仲間と語り合い、自分の体験を発表する経験を重ねた。それまでは人とまともに会話ができず、自宅で電話が鳴ると心臓が縮まる思いがした。自分から相手に話しかけようと思えるようになったのは50歳を過ぎてから。今も吃音はあるが、電話も人との会話も苦にならない。「人に言われて直るものではない。人に笑われようが、けちをつけられようが開き直る。そういう『ずうずうしさ』が大事」と言う。
「半歩でも4分の1歩でもいいから踏み出すこと。そういう気持ちを持たないと吃音はよくならない」。そう実感する。言友会の活動を広く知ってもらい、自分1人だけだと思い込んでいる人に仲間がいるよ、と伝えたい。病気でも、障害でもない。「吃音は個性そのもの。隠しても仕方ない。その個性をどう生かしていけるかだ」【川畑さおり】
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■人物略歴
◇かわせ・ひろお
1951年旧白根市(現新潟市南区)生まれ。立正大卒業後、印刷会社や鉄工所などに勤務。趣味はクラシック音楽鑑賞。「にいがた言友会」の会員は20~60代の約40人。ホームページは、http://www006.upp.so-net.ne.jp/ni-genyukai/
毎日新聞 2011年6月26日 地方版