筆がすべって私もつい「何も動かない国会」などと書いてしまいがちだが、決して国会が何もしていないわけではない。そんな例をまた一つ。
先週の参院本会議で改正障害者基本法が全会一致で可決、成立した。障害者も加わる「政策委員会」を設置して障害者基本計画の実施状況を監視し、首相に勧告できる仕組みが導入されるなど中身は多岐に及ぶ。
障害者の権利を前面に打ち出した当初案に関係省庁が抵抗して結果的に相当後退した内容になったが、障害者自身が制度作りにも参画するという発想に転換していく第一歩だ。難点は多いが成立したのはよかった。
与野党や省庁との調整に当たった一人は、郵便不正事件で無罪が確定した元厚生労働省局長の村木厚子・内閣府政策統括官だったそうだ。とかく「官僚と敵対するばかりで、使いこなしていない」と言われる民主党政権だが、いい前例になるかもしれない。
障害者虐待防止法、改正NPO法、そして今度の改正法……。今の国会で成立した法律を本欄で意識的に取り上げてきたのは「ねじれ国会でも与野党が歩み寄れば法案は通るではないか」と言いたいからだ。報道する側も政治にケチばかりつけるのではなく、評価すべきところはきちんと評価することが必要だと思う。
でも、そこで考えてしまうのだ。成立するのは「政局」(何だか今や嫌な言葉だ)と無縁のものがほとんど。逆に政局が絡むとまるで進まない。具体的に言えば菅直人首相が「退陣条件」に掲げた法案だ。残る2条件、特例公債法案と再生可能エネルギーを促進する法案は、首相と民主党、野党の「思惑」(これも嫌な言葉だ)が絡み合ってなかなか成立のめどが立たない。
自嘲気味に言うと政治記者が一生懸命取材する法案ほど通らないということでもある。与野党とも注目されていると思うから安易に引き下がれない。仮に菅首相が改正障害者基本法を退陣条件の一つに掲げていたら、すんなり全会一致で成立したかどうかはわからない。もしかすると、私たちが報じなくなる方が与野党はまとまる気さえする。
「またまた菅首相が居座り発言」といった報道がなお続く。もちろん、この停滞状況の一番の責任は首相にあるが、そんな記事を読めば読むほど「もう、たくさん」と感じる人は多いだろう。政治不信拡大の共犯者に私たちはなってはいけない。(論説副委員長)
毎日新聞 2011年8月3日 東京夕刊