◎「介助員派遣困難」「ベッドなし」/対象者把握も進まず
県内で災害時に高齢者や障害者らの要援護者を受け入れる「福祉避難所」の指定が進んでいない。東日本大震災で改めて必要性が認識されたが、県内30市町村のうち半数近くの14市町村は1カ所も設けていない。福祉関係者は「体育館などを利用した一般の避難所では体調を崩しかねない要援護者もいる」と訴える。
有田市は16日、市内で高齢者福祉施設を運営する社会福祉法人の守皓会(しゅこうかい)(成川守彦理事長)と福祉避難所協定を結んだ。市で初めて避難所に指定されたのは、特別養護老人ホームの「愛宕苑(えん)」(5階建て延べ5166平方メートル)と「田鶴苑(たづえん)」(5階建て延べ4223平方メートル)。災害時は施設内の和室や洋室を利用して計20人を受け入れる。かゆなどの食料や水の備蓄は3日分を確保しているという。
だが、市内に寝たきりを含む要援護者は387人いる。2カ所ですべてを収容することはできない。市福祉課の担当者は「市の施設を利用できたらいいが、簡易ベッドや介護用品などが整っていない。民間の施設を利用する場合でも、災害時だけに介助員を派遣するのが特に難しい」と話す。
県内では2008年から指定が増え、和歌山市を含む16市町が福祉避難所を設けている。指定が進まない理由について、福祉避難所がない新宮市の担当者は「老人ホームやグループホームと協議を進めているが、ベッドに空きがない」。那智勝浦町の担当者も「町の福祉健康センターはすでに広域避難所に指定されているので福祉専用にするのは難しい」と事情を明かす。
一方、北山村は福祉避難所を指定していたが、災害時に水没する可能性があることから今年に入っていったん指定をやめ、新たな避難所を探している。
県内では福祉避難所を設置する際の基礎資料になる要援護者数の把握も進んでいない。国のガイドラインは、避難所の整備数を検討する前提として、県や市町村に「対象者の概数の把握」を求めている。だが、県福祉保健総務課は「個人情報を知られたくない住民がいる事情などもあって、現段階では要援護者の全体数を把握するまでには至っていない」と話す。
市民団体「医療的ケアを必要とする子どもたちの教育と生活を考える会」の角下委津子(かくしたいつこ)さん(55)=海南市=は「人工呼吸器や酸素濃縮装置をつけた重度障害者を安心して避難させるには、スロープや酸素ボンベが備わり、介助員がいる福祉避難所が必要」と指摘する。
会員の子どもの多くは、チューブで栄養を胃に送る経管栄養や人工呼吸器の装着などの医療的ケアが必要で、角下さんの次男(22)も寝たきりの重度障害者という。角下さんは「東日本大震災では停電で人工呼吸器や冷暖房設備が動かなくなったと聞く。息子は体温調節もままならない。東海・東南海・南海地震などの大災害を考えると、とても心配だ」と話す。(平畑玄洋)
□福祉避難所
介助が必要な高齢者や障害者、妊産婦らに配慮した避難所。民間施設を指定する場合は市町村が協定を結ぶ。建物はバリアフリー化され、障害者用トイレや介護用品などを備える。阪神大震災が起きた1995年以降、避難生活で体調を崩すなどして亡くなる「震災関連死」が相次いだことを受け、国が96年に打ち出した。08年には設置のガイドラインを策定し、おおむね10人の要援護者に1人の介助員を配置することを求めた。昨年3月末で、全国の市町村の約4割にあたる729市町村が指定している。

福祉避難所に指定された特別養護老人ホーム「愛宕苑」=有田市港町
朝日新聞 - 2012年04月18日
県内で災害時に高齢者や障害者らの要援護者を受け入れる「福祉避難所」の指定が進んでいない。東日本大震災で改めて必要性が認識されたが、県内30市町村のうち半数近くの14市町村は1カ所も設けていない。福祉関係者は「体育館などを利用した一般の避難所では体調を崩しかねない要援護者もいる」と訴える。
有田市は16日、市内で高齢者福祉施設を運営する社会福祉法人の守皓会(しゅこうかい)(成川守彦理事長)と福祉避難所協定を結んだ。市で初めて避難所に指定されたのは、特別養護老人ホームの「愛宕苑(えん)」(5階建て延べ5166平方メートル)と「田鶴苑(たづえん)」(5階建て延べ4223平方メートル)。災害時は施設内の和室や洋室を利用して計20人を受け入れる。かゆなどの食料や水の備蓄は3日分を確保しているという。
だが、市内に寝たきりを含む要援護者は387人いる。2カ所ですべてを収容することはできない。市福祉課の担当者は「市の施設を利用できたらいいが、簡易ベッドや介護用品などが整っていない。民間の施設を利用する場合でも、災害時だけに介助員を派遣するのが特に難しい」と話す。
県内では2008年から指定が増え、和歌山市を含む16市町が福祉避難所を設けている。指定が進まない理由について、福祉避難所がない新宮市の担当者は「老人ホームやグループホームと協議を進めているが、ベッドに空きがない」。那智勝浦町の担当者も「町の福祉健康センターはすでに広域避難所に指定されているので福祉専用にするのは難しい」と事情を明かす。
一方、北山村は福祉避難所を指定していたが、災害時に水没する可能性があることから今年に入っていったん指定をやめ、新たな避難所を探している。
県内では福祉避難所を設置する際の基礎資料になる要援護者数の把握も進んでいない。国のガイドラインは、避難所の整備数を検討する前提として、県や市町村に「対象者の概数の把握」を求めている。だが、県福祉保健総務課は「個人情報を知られたくない住民がいる事情などもあって、現段階では要援護者の全体数を把握するまでには至っていない」と話す。
市民団体「医療的ケアを必要とする子どもたちの教育と生活を考える会」の角下委津子(かくしたいつこ)さん(55)=海南市=は「人工呼吸器や酸素濃縮装置をつけた重度障害者を安心して避難させるには、スロープや酸素ボンベが備わり、介助員がいる福祉避難所が必要」と指摘する。
会員の子どもの多くは、チューブで栄養を胃に送る経管栄養や人工呼吸器の装着などの医療的ケアが必要で、角下さんの次男(22)も寝たきりの重度障害者という。角下さんは「東日本大震災では停電で人工呼吸器や冷暖房設備が動かなくなったと聞く。息子は体温調節もままならない。東海・東南海・南海地震などの大災害を考えると、とても心配だ」と話す。(平畑玄洋)
□福祉避難所
介助が必要な高齢者や障害者、妊産婦らに配慮した避難所。民間施設を指定する場合は市町村が協定を結ぶ。建物はバリアフリー化され、障害者用トイレや介護用品などを備える。阪神大震災が起きた1995年以降、避難生活で体調を崩すなどして亡くなる「震災関連死」が相次いだことを受け、国が96年に打ち出した。08年には設置のガイドラインを策定し、おおむね10人の要援護者に1人の介助員を配置することを求めた。昨年3月末で、全国の市町村の約4割にあたる729市町村が指定している。

福祉避難所に指定された特別養護老人ホーム「愛宕苑」=有田市港町
朝日新聞 - 2012年04月18日