障害者の選挙権という基本的権利を守り、人間の尊厳を重んじた、ごく常識的で当たり前の判断を司法が下したことを高く評価したい。
成年後見人が付くと選挙権を失うという公職選挙法の規定は違憲で無効である―。知的障害のある女性が国を相手に選挙権の存在確認を求めた訴訟で、東京地裁は女性の主張を全面的に認めた。
成年後見制度による選挙権喪失に関する初の憲法判断。札幌、さいたま、京都の各地裁で行われている同種訴訟にも大きく影響しよう。
判決は「被後見人全てが投票の能力を欠くわけでない」と、選挙権を一律に奪うのは制度の趣旨に反すると指摘した。民主主義の根幹である選挙権のはく奪は、極めて例外的な場合以外には許されないとの枠組みを示した判断だ。
判決はまた、選挙権の制限は「国際的な潮流に反する」とまで言及した。時代になじまない硬直化した制度であり抜本的な見直しを求めたい。公選法の規定削除の必要性は言うまでもあるまい。
成年後見制度は、知的障害者や認知症のお年寄りなど判断能力が不十分な人の財産管理や福祉サービスの利用契約などを、成年後見人が代行する制度。被後見人の自己決定を尊重し、普通に生活できる社会をつくるという理念で2000年、施行された。
ただ、選挙権喪失をはじめ会社役員や公務員、医師など一定の資格職へ就けないなど欠格事由が厳しい。このため12年の認知症高齢者が推計約300万人なのに対し、被成年後見人は約13万人にすぎない(最高裁集計)。
訴訟で国は、選挙権否定の理由として「第三者の働きかけで不公正、不適正な投票が行われる可能性がある」と主張。しかし判決は「選挙の公正が害される恐れは見いだしがたい」と明快に退けた。
選挙の公平性を担保する手段として選挙権を排除するという国の発想自体、障害者の権利をないがしろにする大きな要因なのだ。財産の管理能力と選挙権行使とは、もとより別物である。それを、国は認識しなければならない。
国連の「障害者権利条約」が採択された06年以降、選挙権の保障は国際的な流れ。欧州では後見制度利用で選挙権がはく奪されないよう、法や憲法を改正する動きが急だ。
日本も条約に署名はしているが、国内法の整備は進んでいないのが現状だ。国際社会の中でこれ以上立ち遅れないためにも、制度を良質に進化させる必要がある。
障害者を守るはずの制度が逆に権利を奪う理不尽さを訴えた女性。裁判長は「選挙権を行使し、堂々と胸を張っていい人生を送ってください」と語りかけた。その言葉を、重く受け止めたい。
もっと知りたい ニュースの「言葉」
成年後見人(2003年11月7日)痴ほうなどで判断力が不十分な人々を法律面や生活で支援する制度。2000年の介護保険開始と同時に、従来の禁治産や準禁治産を廃止して導入された。家庭裁判所が申し立てに基づいて成年後見人を選ぶ。後見人には親族のほか、弁護士や司法書士、法人などがなるが、よく知られておらず、利用者は約2万5000人。後見人が医療行為の代諾をできないのも課題だ。
成年後見制度(2010年10月27日)認知症や知的障害などで判断能力が十分でない成人の財産管理や契約を、代理・支援する制度。2000年に禁治産、準禁治産制度に代わって導入された。申し立てを受けて家庭裁判所が後見人を選任する「法定後見」と、判断能力があるうちに自分で選ぶ「任意後見」がある。法定後見は判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3段階があり、後見を受ける人は選挙権を失う。
愛媛新聞- 社説2013年03月18日(月)
成年後見人が付くと選挙権を失うという公職選挙法の規定は違憲で無効である―。知的障害のある女性が国を相手に選挙権の存在確認を求めた訴訟で、東京地裁は女性の主張を全面的に認めた。
成年後見制度による選挙権喪失に関する初の憲法判断。札幌、さいたま、京都の各地裁で行われている同種訴訟にも大きく影響しよう。
判決は「被後見人全てが投票の能力を欠くわけでない」と、選挙権を一律に奪うのは制度の趣旨に反すると指摘した。民主主義の根幹である選挙権のはく奪は、極めて例外的な場合以外には許されないとの枠組みを示した判断だ。
判決はまた、選挙権の制限は「国際的な潮流に反する」とまで言及した。時代になじまない硬直化した制度であり抜本的な見直しを求めたい。公選法の規定削除の必要性は言うまでもあるまい。
成年後見制度は、知的障害者や認知症のお年寄りなど判断能力が不十分な人の財産管理や福祉サービスの利用契約などを、成年後見人が代行する制度。被後見人の自己決定を尊重し、普通に生活できる社会をつくるという理念で2000年、施行された。
ただ、選挙権喪失をはじめ会社役員や公務員、医師など一定の資格職へ就けないなど欠格事由が厳しい。このため12年の認知症高齢者が推計約300万人なのに対し、被成年後見人は約13万人にすぎない(最高裁集計)。
訴訟で国は、選挙権否定の理由として「第三者の働きかけで不公正、不適正な投票が行われる可能性がある」と主張。しかし判決は「選挙の公正が害される恐れは見いだしがたい」と明快に退けた。
選挙の公平性を担保する手段として選挙権を排除するという国の発想自体、障害者の権利をないがしろにする大きな要因なのだ。財産の管理能力と選挙権行使とは、もとより別物である。それを、国は認識しなければならない。
国連の「障害者権利条約」が採択された06年以降、選挙権の保障は国際的な流れ。欧州では後見制度利用で選挙権がはく奪されないよう、法や憲法を改正する動きが急だ。
日本も条約に署名はしているが、国内法の整備は進んでいないのが現状だ。国際社会の中でこれ以上立ち遅れないためにも、制度を良質に進化させる必要がある。
障害者を守るはずの制度が逆に権利を奪う理不尽さを訴えた女性。裁判長は「選挙権を行使し、堂々と胸を張っていい人生を送ってください」と語りかけた。その言葉を、重く受け止めたい。
もっと知りたい ニュースの「言葉」
成年後見人(2003年11月7日)痴ほうなどで判断力が不十分な人々を法律面や生活で支援する制度。2000年の介護保険開始と同時に、従来の禁治産や準禁治産を廃止して導入された。家庭裁判所が申し立てに基づいて成年後見人を選ぶ。後見人には親族のほか、弁護士や司法書士、法人などがなるが、よく知られておらず、利用者は約2万5000人。後見人が医療行為の代諾をできないのも課題だ。
成年後見制度(2010年10月27日)認知症や知的障害などで判断能力が十分でない成人の財産管理や契約を、代理・支援する制度。2000年に禁治産、準禁治産制度に代わって導入された。申し立てを受けて家庭裁判所が後見人を選任する「法定後見」と、判断能力があるうちに自分で選ぶ「任意後見」がある。法定後見は判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3段階があり、後見を受ける人は選挙権を失う。
愛媛新聞- 社説2013年03月18日(月)