障害者が出演し、笑いの中から本音で社会を語り合うバラエティー番組「バリバラ」(NHKEテレ金曜午後9時)が、レギュラー放送となり3年目。番組のホームページに年間100万件超のアクセスがあるなど、人気番組に成長した。街頭パフォーマンスを繰り広げる障害者らのグループも誕生し、日雇い労働者の街、大阪・釜ケ崎のラップ歌手、SHINGO★西成(42)と10日放送の番組で共演する。 (中村信也)
「サラリーマンにね、電動車いす、蹴られたこともあります。(蹴った人は)家を出る前に夫婦げんかでもしたんだろうって思うんです」。脳性まひで、不随意運動という勝手に体が動く状態の福角幸子(ふくずみさちこ)さんは笑みを絶やさない。SHINGOは「幸子さんはポジティブやね」と、何度も感心してうなずいた。
堺市の集合住宅の一室で行われたロケ。SHINGOは、番組で障害者らのパフォーマンスグループと一緒に披露するラップの歌詞を作るため、大阪を中心にさまざまな障害者を訪ねて対話を重ねながら、言葉を書き留めていた。
幸子さんの隣には、結婚二十八年になる夫の宣弘さん(57)が車いすに座っていた。「街に障害者用エレベーターが増えるとか便利になったけど、昔の触れ合いがなくなった。僕らと触れ合いたくない人には便利な世の中かな」
夫婦は、昨年に番組内の企画から生まれた「チームバリアフリー」というパフォーマンスグループのメンバー。障害の実態を知ってもらおうという企画で、音楽に合わせて突然踊りだす「フラッシュモブ」というパフォーマンスが出し物だ。宣弘さんには車いすから落ちるというスリリングな芸もあり、健常者も一緒になり大阪市内などの街頭で演じている。車いす、視覚障害、統合失調症…。障害が違えば見えるもの、聞こえる音、体の動きも違い、障害者の中のバリアーにも気づかされてきた。
一方のSHINGOは釜ケ崎で暮らして三代目。「魂のラップ」といわれ、CDアルバム四枚を出した。「愛のない言葉を投げられても愛で返す」が信条で、地元での無料ライブ、阪神や東日本大震災でのボランティアでも知られている。障害者側から持ち上がったコラボの企画を快諾し、チームのメンバーを釜ケ崎に案内した。
障害者と釜ケ崎労働者の共演。チームのキャプテンで、発達障害の息子(7つ)を育てている元村祐子さんは「両者とも社会のマイノリティーで差別や偏見にさらされているが、もっと広く知ってもらえればバリアーはなくなっていく」と、今回の取り組みへの思いを強くしている。
バリバラ バリアフリー・バラエティーの略。恋愛、仕事からスポーツ、アートまで日常生活のあらゆるジャンルで障害者が「本当に必要な情報」を楽しく伝える、日本初の障害者バラエティー番組。モットーは「ノー・リミット(限界なし)」で、タブーだった障害者の性などにも挑戦。出演者は脳性まひの玉木幸則、多発性硬化症で手足がうまく動かない大橋グレース、義足のスプリンター大西瞳ら。
2010年、前身の福祉番組「きらっといきる」の司会役でラジオDJの山本シュウが「真面目な話ほど楽しくないと届かない」とバラエティーを提案。12年からレギュラー化。ラジオ版もある。大橋は「笑いやユーモアに障害者も健常者も関係ない」と言っている。
2014年10月4日 朝刊 東京新聞