宇都宮市で9日未明、国道119号を歩いていた全盲の男性が乗用車にはねられ死亡した事故で、男性が利用したタクシー運転手が、誤って自宅マンションでなく別のマンション前で男性を降ろしていたことが10日、遺族などへの取材で分かった。男性は約20分後に事故に遭った。タクシー会社は同日、遺族に謝罪。遺族は「自分のいる場所が分からなくなり、歩き回っているうちに事故に遭ったのではないか。運転手が目的地をしっかり確認してほしかった」と話している。
死亡した同市桜2丁目、鍼灸師大山和幸さん(44)の妻美希さんによると、このタクシー会社は3年前から頻繁に利用していたという。「すぐ来てくれるし、対応も丁寧だった」
8日夜、大山さんは友人の居酒屋で飲食していた。美希さんは「いつもは必ず2人で出掛けるが、居酒屋もタクシーも信用していたので1人でも大丈夫だと思った」と振り返る。
「間違ったところに降ろされて、ここがどこか分からない」
9日午前0時35分ごろ、美希さんの携帯電話に大山さんから連絡が入った。慌てて外に出て周囲を探したが見つからない。約20分後、何かで地面をたたく音と大山さんの声が聞こえた。美希さんは「(どこにいるか)分かったから電話を切るね」と呼び掛けた。その直後、大山さんは乗用車にはねられ、近くに路面をたたいたとみられる白杖があったという。
美希さんは「出発前に目的地をきちんと確認したり、到着後に目的地を再確認してもらえれば防げた事故。相手が視覚障害者ということを考えて対応してほしかった」と話す。
一方、下野新聞社の取材にタクシー会社は「私たちの間違いが事故につながってしまい、本当に辛く、申し訳ない」と説明。今後の対策について「目的地の入り口まで送り届けたり、お客さま自身に確認できない時は家族に連絡するなど確認を徹底したい」とした。
美希さんも弱視で、運転免許は取得できない。「タクシーは視覚障害者にとってなくてはならない交通手段。みんなが安心して乗れるように運転手1人1人が考えてほしい」と話した。
■意思疎通、確認徹底を 視覚障害者団体会長
「タクシー運転手に悪気はなくても事故は起こりうる。最も大切なことは視覚障害者と運転手のコミュニケーションだ」。今回の事故を受け、県視覚障害者福祉協会の須藤平八郎会長(69)は訴える。
視覚障害者にとって運転手の勘違いや目的地のわずかな差は「大きな恐怖」につながる。「自分の頭の中に描く地図と異なる場所に降ろされると感覚が狂って非常に怖いし、わずかな距離を進むにも手間も時間もかかる」という。
欠かせないのは両者の意思疎通。「運転手が視覚障害者に慣れていない場合も多い。道順はもちろん、目的地の目印や周囲の建物、入り口の方角、家であれば塀や門扉の特徴など、運転手の思い込みが生じないように、利用者側も細かく正確に場所を伝えることが大切」と語る。
その上で、タクシー運転手には「確認」を徹底してほしいという。「説明通りのものがあるか、家の特徴があっているか、視覚障害者は見えないからこそ、一緒に降車して代わりに見る手間を惜しまないでほしい」と要望する。
「わざと遠回りする悪質なタクシーを経験した視覚障害者も多い。そんなことは論外だが、不幸な事故が二度と起こらないよう、積極的な会話、丁寧な対応を求めたい」とした。
10月11日 朝刊 下野新聞