サッカー場や大型商業施設、映画館など大勢の人が行き交う街の拠点を舞台に、川崎市が独自の障害者就労体験を進めている。イベントの運営ボランティアなどで健常者と一緒に汗を流し、障害者雇用の可能性を広げる試みだ。「あこがれの職場」を前に、参加者は一様に目を輝かせている。
開門と同時に押し寄せる人波に向かい、懸命にチラシを渡し続ける。手から手へ、その数約1万1千枚。22日夕方、川崎市中原区の等々力陸上競技場。サッカーJ1川崎フロンターレの運営ボランティア体験での一コマだ。
市内3カ所の障害者施設から7人が参加。試合開始4時間前に始まり、チラシ配布に加え、座席清掃などを体験。雨中の立ち作業にも笑顔を絶やさなかった。フロンターレの大ファンという宮前区の男性(40)は「お客さんと触れ合えて楽しかった。いつかスポーツに携わる仕事がしたい」とうれしそうだ。
「例えばサッカーならば、障害者はもっぱら試合に招待される立場だった。今回はファンをもてなす側に回ったのが大きな違い」。そう話すのはNPO法人ピープルデザイン研究所(東京都渋谷区)の須藤シンジ代表理事。多様な人々が交ざり合う社会の実現へ今夏、同市と初の包括協定を結び、市の就労促進プロジェクトを支援する。
障害者向けの職場を提供するのではなく、健常者と協働する可能性を模索する。須藤さんは、劇場や再開発の進む駅前商業施設などを例に、「川崎にはにぎわいのある“装置”がたくさんある。障害者がわくわくし、誇りを持って汗をかける土俵を一緒に考えていきたい」と話す。
同市は本年度、市立図書館の貸し出し業務や「デパ地下」の実演販売、映画館の運営など多彩なメニューの就労体験を展開。市障害者雇用・就労推進課は「フロンターレの協力を得ながら、来年度はホームゲーム全試合で運営ボランティア体験を実施できれば」と話している。
【神奈川新聞】 2014.10.25 09:49