専門チーム担当、作業所へ出張検診も
京都市山科区の病院に勤務する医師、朴真紗美さん(49)(滋賀県草津市)が、知的障害や発達障害を持つ人を対象にした眼科診療に取り組んでいる。
8月に障害者の積極受け入れを掲げた診療所を同区に開設、作業所に出向く出張検診も始めた。こうした障害を持つ人の診察には特殊な技法が必要で、検診を受けられず病気が見過ごされているケースも多いという。朴さんは「専門的な検診体制の整備が必要」と訴える。
朴さんによると、知的障害や発達障害がある人の視力を的確に測るには、おもちゃを目の前にぶらさげて視線を確認する方法や、カード式の視力検査表を使うなど、専門的な技法を持つ視能訓練士が行う必要があるという。
学校や事業者には法律で健康診断が義務づけられているが、卒業後、仕事に就いていない障害者は、視力検診の機会がほとんどないのが現状。待合室で静かにできないなどの理由で、診察をためらう保護者も多い。
朴さんは2011年、障害児を支援するNPO法人の依頼で、友人の視能訓練士と共に鹿児島県・奄美大島で障害児の眼科診療を始めた。計10回、島を訪問し、約130人を診察。3割に近視、遠視、乱視の症状が見つかり、眼鏡をしてもらうと歩行時のふらつきが減った児童もいた。
朴さんは活動の中で、障害者専門の診療の重要性を認識。8月、障害者の積極受け入れをうたう診療所「まさみ眼科クリニック」(山科区)を開設し、作業所への出張検診も始めた。週の半分は洛和会音羽病院(同)で非常勤医として、残りは診療所で診察。合間を見て出張検診に向かう。
診療や検診は、視能訓練士2人と眼鏡店員1人を加えた計4人のチームで行う。8月と9月、知的障害者らの作業所「城陽作業所」(城陽市)で行った検診では32人が受診し、水晶体の位置がずれて視力がほとんどない患者や、白内障で手術が必要な事例が見つかった。作業所の北村喜久子・事務部長(58)は「これまで検診は内科のみで視力検査はなかった。ありがたい」。娘(35)の受診に立ち会った中岡かおりさん(63)は「遠視と言われたが、見えていると思っていた。専門家による出張検診が広まってほしい」と期待する。
朴さんは「専門的な手法を使えば、障害者の視力を適切に測り、必要な治療ができる。自分たちの活動を広く知ってもらい、同様の活動を始める医師や視能訓練士が増えればうれしい」と話す。問い合わせはクリニックのファクス(075・606・2108)へ。
視能訓練士 視能訓練士法に基づく国家資格。眼科医の指示のもと、視力検査や眼圧検査、視力を回復させるための訓練などを行う。
(2014年10月6日 読売新聞)