障害者の法定雇用率を達成した企業の割合が、昨年まで3年連続で全国トップとなるなど、先進的な県内の障害者雇用。だが、国の「雇用強化策」に中小企業が苦しんでいる。決められた人数の障害者を雇わないと納付金を課せられる対象企業が増えるなか、受け入れ環境が整っていない現状がある。行政支援の充実と企業側の障害への理解が求められる。
◆新たに190社
「障害者に委ねる仕事は限られ、これ以上雇うのは難しい」。県内のある金融機関の採用担当者は頭を抱える。
障害者の法定雇用率が未達成だった場合、現在は従業員200人を超える企業に不足1人あたり月5万円の納付金が課せられる。こうした「罰則」の対象は、2015年4月から従業員100人を超える企業に拡大される。県内では新たに約190社が対象となる見通しだ。
金融機関の従業員は約150人。障害者の雇用義務3人に対して2人しか雇用しておらず、ハローワークを通して金融機関の勤務経験などがある障害者を求めているが、見つかっていない。
このまま、条件に合う求職者がなければ、来春から月5万円の納付金を支払う方針だ。担当者は「中小企業には、義務を達成するために障害者を雇う余力はない」とため息を漏らす。
◆貴重な戦力
佐賀労働局によると、昨年6月1日現在で、県内の対象企業527社のうち、335社が法定雇用率を達成。達成率63・6%は全国平均の42・7%を大きく上回った。達成企業の多くで障害への理解が進んでいるという。
佐賀市などで酒屋やスーパーを展開する「あんくるふじや」(従業員約400人)は、雇用義務は6人だが、10人を雇っている。
障害者を雇用し始めたのは、事業を拡大した約10年前。客の問い合わせなどがあれば、すぐに別の従業員に知らせて対応するなどフォロー体制を整えてきた。
今や清掃、商品の陳列作業のほか、段ボールの整理や駐車場に散らばったカートの収集などの仕事を黙々とこなす貴重な戦力だ。同社は「誰かがやらないといけない仕事をきちんとこなしている。健常者も含め、さまざまな能力が店を支えている」とする。
社員54人の3分の1を、知的障害者の雇用に充てている佐賀市の食肉会社「佐賀ブロイラー」の大塚寛彰社長(44)も「勤勉でまじめなどの個性を生かせば、働く場所はいくらでも作れるし、障害者自身の自立につながる」と話す。
◆環境整備を
障害者雇用促進法では、従業員200人超(来年度から100人超)の企業が法定雇用率を超えて雇用した場合、1人あたり月2万7000円の調整金が支給される。
あんくるふじやの担当者は「(調整金は)環境整備などの面で助かっている」とするが、多くの中小企業が法定雇用率さえ達成できないのが実情だ。
そうした企業について、佐賀労働局の古沢直文・地方障害者雇用担当官は「障害への理解が不足し、戦力にするノウハウがないため、積極雇用に踏み出せない」と分析。「不安を取り除く支援をしたい」と語る。
大塚社長は「国は事業所の相談に乗ったり、障害者の退職後の居場所を整備したりする事業を充実させてほしい」と求める。
それぞれの異なる障害を見極めて雇用機会を増やすことが、障害者が活躍できる社会につながる。そのためには、まず企業が受け入れに前向きになる環境整備が急務だ。
【法定雇用率】障害者雇用促進法で、公的機関や民間企業に義務づけられた全従業員(短時間労働者は0・5人換算)に占める障害者の雇用割合。企業は2013年度に1・8%から2・0%に引き上げられ、対象は従業員56人以上から同50人以上に拡大された。雇用率は原則5年ごとに見直され、身体、知的に加え18年度から精神障害者も算定に含めるため、今後も上がる見通し。