絵画や陶芸(とうげい)など、障害者(しょうがいしゃ)の創作(そうさく)活動に力を入れている福祉施設(ふくししせつ)がある。福岡(ふくおか)市内3カ所に拠点(きょてん)がある障害福祉サービス事業所「工房(こうぼう)まる」。利用者は毎日3~4時間、思い思いに作品づくりに励(はげ)む。なぜ創作活動を大切にしているのか-。こども記者が取材した。
●朝はハイタッチ
同市南(みなみ)区野間(のま)の住宅街(じゅうたくがい)。その一角に立つ古い木造(もくぞう)2階建てが工房まるの「野間のアトリエ」だ。午前10時前、利用者を乗せた送迎車(そうげいしゃ)が駐車場(ちゅうしゃじょう)に入ってきた。
工房まるは1997年4月にオープン。現在(げんざい)は18歳(さい)~60代の48人が在籍(ざいせき)していて、このうち野間には26人が通っている。身体や知的、精神(せいしん)障害など状況(じょうきょう)はさまざま。年齢(ねんれい)も障害も違(ちが)うけれど、みんな車を降(お)りると、笑顔(えがお)でハイタッチして、仲の良さが伝わってきた。
こども記者たちは、初めての福祉施設の訪問(ほうもん)で、少し緊張(きんちょう)していたので「とてもアットホームな雰囲気(ふんいき)」(井(い)記者)にほっとした。
●売上高1千万円
室内に入ると、「稼(かせ)ぐ人になる」と書かれた張(は)り紙(がみ)に目が留(と)まった。支援員(しえんいん)の池永健介(いけながけんすけ)さん(42)によると、利用者が描(えが)いた絵をTシャツやカレンダーにしたり、粘土(ねんど)で作ったオリジナルキャラクターを箸置(はしお)きにしたりして販売(はんばい)しているという。ピカソの絵のように色使いが独特(どくとく)な作品が多く、西田(にしだ)記者は「アイデアがすごいし、自分らしさが出ている作品ばかり」と驚(おどろ)いた。
いろんなメーカーやお店が商品化に協力して、福祉施設としては多額の年間1千万円以上を売り上げたこともあったという。「お金を稼ぐことは、自立した生活への第一歩」(池永さん)なので、売上金は主に利用者の賃金(ちんぎん)になる。
●できることから
工房まるでは絵画と陶芸、木工のグループに分かれて作業をしている。みんな自由に絵筆を走らせたり、粘土をこねたり、木を切ったり。作品のお手本やモデルはなく、作り方を指導(しどう)する人もいない。「教えたり、無理をさせたりすると、伸(の)び伸(の)びしたいい作品にならない」と池永さん。楽しそうに作品づくりをする様子を見て、佐伯(さえき)記者は「できないことを(無理して)できるようにするのではなく、できることを考える」から個性的(こせいてき)な作品が生まれると感じた。そして「思いを言葉でうまく表現(ひょうげん)できなくても、作品で表現している」と分かった。
施設長(しせつちょう)の吉田修一(よしだしゅういち)さん(45)は、創作活動を通じて「それぞれの個性や表現の違いを知り、理解(りかい)し合うことが(障害がある人とない人の)壁(かべ)を小さくすることにつながる」と話した。
三角形も四角形も、どんな形も丸の中に収(おさ)まる‐。工房まるの名前には、いろんな個性を受け入れる社会にしていきたいという願いが込(こ)められているという。
●「作品を通して僕たちの生きざまを見てほしい」 アトリエで3人に聞いた
こども記者たちは、福岡(ふくおか)市南(みなみ)区三宅(みやけ)の「三宅のアトリエ」も訪(おとず)れ、利用者と語らったり、一緒(いっしょ)にキーホルダーを作ったりした。
民家を改装(かいそう)したアトリエで6人の利用者が絵を描(えが)いていた。私たちは、利用者が描いたイラストのコピーに色を塗(ぬ)り、それを専用(せんよう)の機械でキーホルダーに仕上げる作業を体験させてもらった。西田(にしだ)記者がカラフルな色鉛筆(えんぴつ)を選ぶと、利用者の山田恵子(やまだけいこ)さん(29)と松永大樹(まつながひろき)さん(33)が「とてもすてきね」「いい感じですね」と褒(ほ)めてくれた。そう声を掛(か)けられて「絵が得意ではなかったけど、うれしくてこれからは挑戦(ちょうせん)したいと思った」という。
利用者の柳田烈伸(やなぎたたけのぶ)さん(35)も会話に加わった。柳田さんは脳性(のうせい)まひで思うように体を動かせないけれど、絵は個展(こてん)を開くほどの腕前(うでまえ)だ。私たちが絵を上手に描くこつなどを聞くと丁寧(ていねい)に答えてくれ、最後にこう話してくれた。「(今日のように)たくさん話をして自分たちのことを知ってもらえると、自分も刺激(しげき)を受ける。絵を通して、僕(ぼく)たちの生きざまを見てもらえるとうれしい」
取材後、新聞社に寄(よ)せた記事に、佐伯(さえき)記者は「障害(しょうがい)がある人にどう接(せっ)したらいいか分からなかったけれど、この日の数時間でイメージが変わった」と書き、「しゃべってみたら楽しくて面白(おもしろ)い人たちだった」と話した。井(い)記者は「(障害のある人もない人も)お互(たが)いのことをわかり合える世の中になってほしい」と願いをつづった。
●わキャッタ!メモ
▼工房(こうぼう)まる NPO法人「まる」が運営(うんえい)し、創作(そうさく)活動を中心にした就労支援(しゅうろうしえん)や生活介護(かいご)などを行う。福岡(ふくおか)市南(みなみ)区野間(のま)と三宅(みやけ)、同市西(にし)区野方(のかた)にアトリエがある。火曜日から土曜日の午前9時~午後6時に開所。野間のアトリエ=092(562)8684。
利用者が描いた原画を見せてもらった
2016年07月09日 西日本新聞