ゴエモンのつぶやき

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福祉とビジネス、両立できるか 歯磨き剤に託す希望

2017年01月21日 14時22分35秒 | 障害者の自立

 ある歯磨き剤をめぐって、福祉とビジネスの両立をめざし、悪戦苦闘している人たちがいます。障害者の自立の助けとなり、事業の採算もとれるようなビジネスモデルはありえるのでしょうか。

■親亡き後、自ら稼ぐには

 横浜市都筑区の田所淳(35)は1年ほど前、初めて「営業マン」になった。扱うのは「オーラルピース」という名の歯磨き剤。同市のベンチャー企業、トライフが4年前に発売した。田所が税込みで1本1080円するこの商品を売ると、仕入れ値との差額、350円ほどが彼に入る。

 生まれつき脳性まひがある田所は、人とスムーズに話せない。移動は電動車いす。決まった働き口はなく、ほぼ24時間ヘルパーの世話がいる。他人に物を売るなど、それまで考えたこともなかった。

 きっかけは一人暮らしだ。女手ひとつで育ててくれた母親が住む実家近くのマンションで生活してきた。だが、つい甘えてしまう。「親も60代。いつ病気になってもおかしくない」。親の助けを借りず自立しよう。不動産業者に断られ続け、ようやく今の部屋を借りた。

 経済的には楽でない。収入は月約8万円の障害者年金と3カ月ごとに重度障害者に支給される手当で、月10万円強。親から多少の仕送りはあるが、6万4千円の家賃など生活費を引くと手元にそうは残らない。

 「応援するから売ってみないか」。田所に勧めたのは、NPO法人「よこはま成年後見つばさ」の理事長、須田幸隆(72)だ。はじめは恐るおそる、フェイスブックでPRした。今は知人らを中心に月に10本ほど売れる。まだ月3500円足らずの収入だが、「どうすれば買ってもらえるか考えるのは楽しい」。

 トライフが九州大学などと開発したオーラルピースは、田所のような障害者たちの収入を増やすために生まれた。口に含んだら吐き出すのが歯磨き剤の常識。だが天然由来の成分のみでできているオーラルピースは「のみ込んでも安心」が売りだ。それでいて殺菌力もある。うがいや歯磨きが難しい高齢者や重い障害のある人に特に向いている。

 ユニークなこの商品を、障害者たちが働く就労支援施設や障害者本人が「代理店」となり、病院や介護施設に売る。1本あたり200~350円が障害者の収入になる。発売から3年余りで全国約300の就労施設が代理店になった。商品の製造や発送も東京や新潟の就労施設に委託。トライフの直近の売り上げは年6500万円、発売初年度の約3倍になった。

 働いても月に1万円程度の賃金(工賃)しかもらえない障害者は大勢いる。トライフの社長、手島大輔(46)は16年前に障害のある長男を授かり、こうした現実を知った。

 商社などで働いた後、ベンチャー企業で化粧品ブランド立ち上げに尽力し、会社の上場にも貢献した。2006年に独立してトライフ設立後、障害者の仕事づくりにもかかわった。

 だが結果が出ない。自分がいる間はいい。親が亡くなったら、息子のような障害者たちは暮らしていけるのか。手島は5年前、衝撃的な新聞記事を目にした。

 ログイン前の続き手島の自宅からほど近い民家で、70代の母親と重度の障害のある40代の息子が孤立死していた。親子は2人暮らしで、母親がまず病死。1週間ほどして息子も相次いで病死したとみられた。息子は自分で歩いたり食事したりが難しく、炊飯器のご飯や冷蔵庫の食料は手つかずだったという。

 国内の障害者は約790万人。「親亡き後問題」は多くの家族が抱える悩みだ。ビジネスの世界で培った経験を生かし、障害者の雇用を生み、収入を上げるモデルを作れないか。「革新的な商品」を障害者に売ってもらう案が浮かんだ。しかし、そんな商品はあるのか。手島は、以前にメールをよこした無名の研究者を思い出した。

■高齢者向け歯磨き剤、父の病から着想

 「優しい研究所」は、福岡県筑紫野市にあるベンチャー企業だ。「研究所」といっても研究者は代表の永利(ながとし)浩平(45)だけ。5年前、永利がひとりで立ち上げた。風変わりな社名に、「人に優しい製品を作る」という決意をこめた。

 「一度、話を聞いてください」。トライフの社長、手島に永利が初めてメールしたのは2011年の冬だ。当時は故郷・福岡の乳業メーカーに在籍。九州大学などと、植物性乳酸菌が生成するペプチド(たんぱく質)の「ナイシンA」に関する研究を続けていた。食品保存料などに広く使われているこの物質を、高純度で大量生産し、別の用途に生かす試みだ。

 そのころ永利は行き詰まっていた。10年近く続けた研究が、なかなか事業化できない。社内での期待もしぼんでいた。すがる思いで目をつけたのが、オーガニック化粧品のブランドを立ち上げ、業界で名の知られた手島だった。面識はなかったが研究成果を売り込み、新しい自然化粧品を一緒に作れないかと考えた。

 約2カ月後、2人は東京で会う。だが手島は半信半疑だった。「研究の意義が理解できなかったし、利用されるんじゃないかと」。その後しばらくはメールのやり取りばかりが続いた。

 転機は1年後、手島の父親が末期がんと告げられたことだ。その後ひどい口内炎に悩まされ、口内にカビが生えた。うがいをしたり物を吐きだしたりする力が弱っているため、処方された抗菌剤を誤飲し、おなかを下してしまう。

 高齢者にとっていかに口腔(こうくう)ケアが大事かを気づかされ、手島の頭に構想が芽生えた。永利の研究素材を、化粧品でなく歯磨き剤に生かせないか。のみ込んでも安心な歯磨き剤があれば、誤飲して体調を悪くする心配もない。

 また、大きな課題となっている障害者が安定してかかわれる仕事の確保でも、新しい歯磨き剤の需要が見込める高齢者は全国にいる。この歯磨き剤を障害者の働く施設が売れば、障害者の「親亡き後問題」の改善にもつながる。

 ただ、ナイシンAは虫歯菌には効果があるが、歯周病菌には効かなかった。永利は弱点の克服に着手。試行錯誤を経て、梅のエキスを配合させることで歯周病菌にも効く「ネオナイシン」の開発に成功する。

 永利が送ってきた試作段階の原液を、手島は病床の父に試した。のみ込んでもおなかをこわさず、手ごたえを感じた。商品化を急ぐために永利は独立して「優しい研究所」を設立。ネオナイシンに関する特許も取った。

 産学ベンチャーの世界に「死の谷」という言葉がある。産学間の連携の悪さから、研究の成果が製品化に結びつかない状況を指す。永利と研究してきた九州大大学院農学研究院教授の園元謙二(63)は、「『死の谷』を越えられたのは手島さんの存在が大きかった」。

 販路を持たないベンチャーはネット販売に頼りがち。だが、手島にはボランティア経験などから、すでに障害者施設に人脈があった。SNSを駆使してサポーターを募るなど、研究者も学ぶ点があったという。

 検察官だった手島の父は12年暮れに亡くなった。それから7カ月。「口内(オーラル)に平安(ピース)を」という願いを込めたオーラルピースが発売された。

■工賃アップの道半ば 海外にも活路

 認知症の夫を自宅で介護する都内の70代女性は、歯科医師の角田(すみだ)愛美(えみ)(45)に薦められ、3年前からのみ込んでも安心な歯磨き剤「オーラルピース」を夫に使っている。夫は寝たきりで胃ろうをつけており、口から食べることはまずない。だが口内を清潔に保たないと菌が繁殖し、肺炎を起こしかねない。朝と昼の2回、スポンジブラシに適量をとり、口の中をブラッシングする。スプレータイプもあり、こちらも何回か噴きかける。

 通常の歯磨き剤は吐き出す必要があり、介助する側の負担も大きい。以前は時折、近くの歯医者で虫歯を診てもらう以外、満足な口腔ケアができなかった。「歯磨きが楽になりました」と女性は話す。

 この歯磨き剤は、東京都東村山市の「コロニー東村山」から全国へ送られている。発売元のトライフ(横浜市)は、発送作業を約70人の障害者が働くコロニーに委託する。

 午後1時。各地の施設や小売店からの注文を整理し、パソコンで伝票を作成。それをもとに箱詰めしていく。昨年度、オーラルピース関連の売り上げは前年の倍以上となる1千万円超。年間売り上げが約6億円のコロニーにとって比重が増す。副所長の坂本崇(45)は「商品力のある商材を安定して扱える利点は大きい」。

 それでもトライフの社長、手島が掲げる「障害者の工賃アップ」の実現は簡単でない。

 約40人の障害者が水道メーターの分解や公園の清掃などにたずさわる「社会就労センターしらね」(横浜市旭区)でも4年前からオーラルピースを販売する。

 だが現在、利益は年間で12万円に過ぎない。施設長の根橋達治(46)は「特養ホームなどでまとまって継続受注してもらえればありがたいが、すでに使っているものから変えてもらうのは容易でない」と営業の難しさを口にする。

 しらねを含め、オーラルピースの代理店は、多くが障害者総合支援法で定められた「就労継続支援B型」と呼ばれる事業所だ。厚生労働省によると、B型は全国に約9千あり、20万人超の障害者が働く。平均工賃は月1万4838円(14年度)で、時給換算だと187円。最低賃金(全国平均)の4分の1以下だ。

 使用者側と雇用契約を結ぶ「A型」と違い、就業がより難しい人が働くB型は雇用契約を結ばない。事業所は最低、月に3千円以上の工賃を払えばよい。

 工賃はなぜ低いままなのか。鳥取県でB型事業所の工賃3倍計画に取り組む日本財団ソーシャルイノベーション本部の竹村利道(52)は、「働く場さえ与えればいいという事業者の安易な姿勢や、十分な経営努力がなくても国から事業者に報酬が払われる制度にも問題がある」と指摘する。

 福祉の世界に一石を投じようとしたトライフの手島は「地道に支持を広げていくしかない」と語る。

 その手島の目はいま、海外に向いている。今春にも中国・大連でオーラルピースの販売が始まる。年内の欧州進出もにらむ。ゆくゆくは、障害者たちがユニークな歯磨き剤を売るビジネスモデルそのものを輸出したい。国外での評判が「逆輸入」されることで、日本での普及に弾みがつく。そんな未来図を描く。

 もうけを確保しつつ、障害者の生活の質も高める。福祉とビジネスの両立を目指し、模索が続く。

=敬称略

◆オーラルピースは東急ハンズなど一部小売店でも販売。詳しくは、ホームページ(http://oralpeace.com別ウインドウで開きます)から。(佐藤秀男)


安全対策、周知徹底を 視覚障害者転落死で国交相

2017年01月21日 13時50分39秒 | 障害者の自立

 石井啓一国土交通相は20日の記者会見で、埼玉県蕨市のJR蕨駅で盲導犬を連れた男性がホームから転落死した事故に関し、JR東日本が、国と鉄道各社が昨年末にまとめた視覚障害者の安全対策を駅員に知らせていなかったとして「きちんと現場に周知徹底していただきたかった」と苦言を呈した。

 対策では、駅員が視覚障害者を駅構内で見掛けた際は声掛けしたり、可能な限り乗車まで見守ったりすることになっているが、14日の蕨駅の事故で駅員は男性に声を掛けていなかった。

 JR東は既存の自社マニュアルにも声掛けの必要性を記していたが、石井氏は「(対策の内容に従い)正確に対応すれば、今回の駅員の対応も変わっていたのではないか」と指摘した。

 国交省は18日、鉄道各社に駅員の声掛けを徹底するよう文書で要請した

2017.1.20 12:08更新


乳幼児・就学時健診で発見を=発達障害者支援で勧告-総務省

2017年01月21日 13時28分05秒 | 障害者の自立

 総務省は20日、発達障害を早期発見する機会となる乳幼児健診や就学時健診で障害が見逃されている可能性があるとして、関係する厚生労働、文部科学両省に改善を勧告した。
 厚労省の研究では、発達障害の疑いがある乳幼児は全体の1.6%。ところが総務省が全国の自治体をサンプル調査したところ、1歳6カ月児健診で障害の疑いがあると判明した割合が0.2%にとどまる自治体があるなど、障害を見逃していると思われるケースがあった。原因として、担当保健師の経験不足などが考えられるという。
 就学時健診でも、調べた31市町村教育委員会のうち11教委で障害が疑われる児童を見つける取り組みを実施していないことが判明した。 
 このため総務省は厚労、文科両省に対して発達障害の早期発見に有効な対策を講じるよう要請。学校に通う児童生徒を対象とした支援計画作成の徹底や、専門医療機関の確保も求めた。(2017/01/20-09:52)