過疎地でも採算
ドライバーがいなくても乗客を目的地まで運んでくる自動運転技術を使ったタクシーやバスが実用化に向け動き出した。高齢者や障害者、過疎地の住民ら移動が制約される“交通弱者”の問題を解決し、インクルーシブ社会を支える新たな交通手段として期待されている。各地で実証実験が行われているほか、政府は東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年のサービス開始を目指し、今年からルール作りを本格化する。
「言われるまで、自動運転だと気付かなかった」
「主人の運転より安心」
神奈川県藤沢市の公道で昨年3月に行われた自動運転タクシーの実証実験に参加した住民約50人は、その快適さに目を見張った。大通りを2.4キロ走った後のアンケートでは、「自分で運転するときよりも車間距離が開きすぎでは」との指摘もあったが、大半の感想は好意的だった。
実験を主催したのは、ロボットタクシー(東京都江東区)。IT大手のディー・エヌ・エー(DeNA)とロボットベンチャーのZMP(東京都文京区)が2年前に設立した合弁会社だ。ロボットタクシーの中島宏社長は「技術開発だけならテストコースで十分だが、社会に自動運転のタクシーが受容されるためには、多くの人に体験してもらうことが重要だ」と述べ、今年も実証実験の機会を増やしていく考えだ。
自動運転のタクシーやバスは、コストの大半を占めるドライバーの人件費がかからないため、安い運賃を設定できるほか、利用客の少ない過疎地などでも採算がとれるようになる。
運転手不足も解決
ドライバーの高齢化で人材確保が課題となっているタクシー業界にとってもメリットは大きい。国土交通省によると、60歳以上のドライバーの割合は2014年時点で53%に上り、10年間で2.5倍も上昇した。あるタクシー事業者は「地方へ行くほど、なり手が集まらない。このままでは事業が成り立たなくなる」と危機感を募らせる。
山口県が過疎化の著しい周防大島町を「自動運転特区」に認定するよう国へ要望するなど、新たな公共交通機関を確保したい地方自治体の期待も高まる一方だ。自動運転タクシーの実用化に向け国交省は昨年末に戦略本部を立ち上げ、警察庁も有識者会議で課題の洗い出しを始めた。保険各社は自動運転に対応したサービスを検討している。
海外では、IT企業や自動車メーカーが自動運転技術の開発でしのぎを削っている米国のほか、社会実験に熱心なシンガポールで昨年から試験運行が始まっている。ロボットタクシーの中島社長は「五輪を見据えた政府の後押しと、産官学の枠を超えた協力態勢が日本の強みだ」と語り、オールジャパンでの早期実用化に意欲を燃やしている。
乗客を乗せて走る実証実験中の自動運転タクシー。運転席に座るドライバーは運転操作をしていない(左)
神奈川県藤沢市で行われたロボットタクシーの実証実験。参加者は快適な乗り心地に目を見張った(右)
2017.1.1 産経ニュース