◇「ホキ美術館名品展」
新装なった大阪・阪急うめだ本店で「ホキ美術館名品展」(12/12~12/30)(阪急のページ)を見てきました。
「現代写実絵画の粋!日本初の巡回展」と、チケット(写真)のキャッチフレーズに。
ホキ美術館は、千葉県にある写実絵画専門の美術館です。以前から見に行きたかったのですが、千葉は遠いし大変だなあと思っていたら、初めての巡回展が大阪・阪急百貨店で開かれるというので、喜んで行ったわけです。
ほとんどが細密な油絵作品で、「これが絵! 写真じゃないの?」というような作品がずらりと並んでいます。
人物像からは体温が感じられ、静物画は手をのばせばその物に触れそうなほど。現実のディテールに極限までこだわる、画家の技量たるやまさに超絶的というほかはありません。
「ここまで描きこまれたら、写真も顔負けだなァ」と思ってしまいました。
その上、実在感は写真以上。さらに完成された構図、奥深い雰囲気があります。
医療用製品のホギメディカル会長、保木将夫氏が惚れ込んでぼう大なコレクションを築き上げ、ホキ美術館を作ったのも良くわかります。
一言で「写真のような絵」と言ってしまいがちですが、では写真と比べてどう違うのか、一方で、自分が撮っている写真というものはどうあるべきなのか… などと考えながら観賞しました。
会場で買ったホキ美術館の画集と出展作品のハガキ(写真のように見えますが絵画です!)。画集の表紙は、裸婦像で知られる森本草介氏の「横になるポーズ」。ハガキは左から島村信之氏の「響き」、五味文彦氏の「芍薬」、生島浩氏の「card」。
◇「5:55」への思い
ホキ美術館という名前は、前から良く聞いていたのですが、すごく注目するようになったのは、同館を訪れた人ならきっと感動すると思われる、生島浩氏の「5:55」という魅力的な作品を雑誌で目にしてからです。
残念ながら今回の巡回展では展示されていませんでしたので(額絵ポスターは販売されていました)、生島氏の所属する「白日会関西支部」のホームページをご覧になってください(ページの縮小画像をクリックすると拡大画像が見られます)。
きりっとした現代的な女性がふと投げかけたまなざし。とても魅惑的です。
テレビでも紹介されたことがあるようですが、このまなざしの裏に秘められたものを解くカギは「5:55」という作品の表題にあるのです。
この女性モデルさんの肖像画を描くのに与えられた約束の時間は午後6時まで。あと5分で終わるというとき(5:55)、もうすぐ“拘束”が解かれると思ったのでしょう、ふと時計の方にまなざしを投げかけた表情を、画家が見逃さず絵に描きとめたという訳です。
衣服の細密な描写とともに、瞬間の表情をとらえた、という意味では、より写真に近いと言えますね。
しかし、その背景にはモデルが画家と対峙した濃密な長い時間があって、それがこの何とも言えない複雑な、動きのある表情を生みだしているのではないかと思います。
1秒ごとにシャッターを押しまくるような、せわしないポートレート撮影では、とうてい得られない表情と雰囲気ではないかと…
この絵をじかに見るためにも、やはりホキ美術館へ行ってみたいのです。