横須賀総合医療センター心臓血管外科

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僧帽弁再形成術

2018-06-21 05:59:22 | 弁膜症
僧帽弁再形成術の経験

【背景】僧帽弁逆流症に対する外科的治療の第一選択は僧帽弁形成術となっており、10年間再手術回避率は90%程度と言われている。しかし僧帽弁形成術後の再形成の報告は少なく、形成術後の再手術は僧帽弁置換術が大半を占めているのが現状である。
【目的】僧帽弁形成術後の逆流再発症例に対する再僧帽弁形成術成功症例について、その再形成を可能とした術中所見、および手技について検討する。
【方法】2005年から2018年の同一術者による僧帽弁形成術217例のうち、僧帽弁形成術後の再手術症例を抽出し、再手術時期、手術所見、再形成の手技を調査した。
【結果】形成術後の僧帽弁逆流再発の為、再手術を要した症例は7例あり(他病院もしくは他の術者が執刀した症例は3例)、再手術症例は全僧帽弁形成術の3%を占めていた。
初回手術から再手術までの期間は平均8か月(1~24ヶ月)で、術後3か月以内での再手術が7例中4例と半数を占めており、長い症例でも24ヶ月とすべて早期の再発症例であった。2008年の第一例目は、僧帽弁形成術後1ヶ月の再発で、突然のP2縫合部断裂により発生し緊急で、僧帽弁置換術とした。原因は補強に使用した人工弁輪が本来の形態と相違したため縫合部に過剰な負荷がかかったと考えられた。再縫合による再発の危険性を考慮して再形成を試みることなく人工弁置換とした。その後の6症例はすべて再形成が成功している。病変部位はすべて初回の手術部位に関連した病変で、前尖1例、後尖5例であった。逆流再発の原因は、人工腱索の牽引する方向が非生理的であったため変性が進行、感染組織の遺残による穿孔、弁尖縫合部の変性・延長、人工弁輪が外れたことによる弁輪の変形、人工腱索長が変化したことによる逸脱の再発、Foldingした組織が裂開と逆流の原因はすべて異なっており、それぞれの原因、病理に合わせた再形成が必要であった。再形成の方法は、人工腱索3例、切除+縫合1例、裂開部の直接縫合1例、自己心膜によるパッチ形成1例と、その病変に合わせた手技を要した。人工弁輪の再縫着は6例中5例で行った。再形成症例の平均の大動脈遮断時間は97分で、手術時間は319分で、遮断時間は初回手術とほぼ変わらないが、手術時間は癒着剥離など必要なため長い傾向にあった。2例が無輸血であった。在院死亡はなく、全例合併症なく退院し、その後の再発は現時点で認めていない。
【考察】僧帽弁後尖の再形成は人工腱索や切除+縫合、弁輪の縫縮など多様な手技を加えることが可能であるため再形成は成功率が高いと考えられる。また、人工腱索による弁形成後は、初回手術前の解剖の状態に戻してから形成することが可能なため、再形成が成功する要因は大きいと考えられる。【結語】僧帽弁形成の再手術で再度形成を成功させるには、逆流再発の原因の正確な分析と、その病変に合わせた手技の適応が重要である。

(10月に行われる日本胸部外科学会総会で採用され発表する講演抄録)
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