横須賀うわまち病院心臓血管外科

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心房細動からの脳梗塞を予防する②=左心耳の閉鎖・切除

2018-06-10 08:46:20 | 不整脈
心房細動によって心房内に血栓を形成し、その血栓が脳血管に流れ着くことによって脳梗塞を発症させること、心原性脳塞栓症ともいいます。
心房内に血栓ができる場合、9割は左心耳にできています。左心房は袋状の空間に、左心耳といういわゆる心臓の耳のような形の部分が加わって構成されています。手術中に観察できる左心耳は左心室の頭側、主肺動脈の左側に外側からは見えますが、一方、左房内からは僧帽弁口の頭側で、左側の肺静脈口との間に入口が見えます。

左心耳に血栓ができなくすることが、心内血栓の予防に大きく貢献します。

②心房内に血栓ができないようにする治療が、心房細動を治す①に加えて、重要な治療となります。

一つは、抗凝固療法によって血液が固まらないようにすることで、心房内の血栓形成を予防します。注射剤としてはヘパリンがありますが、内服薬としては、代表的なのはワーファリンや、Xa阻害剤などによる抗凝固療法です。抗血小板薬を併用することで効果が追加されます。抗凝固療法には、一方で出血のリスクがあります。ワーファリンには種々の薬物相互作用があるので、食事の制限があったり、他の薬剤との飲み合わせの問題もありますし、Xa阻害剤(最近はNOAC、DOACといわれています)はワーファリンと効果が同じで、より早期に効くし、毎回の採血でのPT(プロトロンビン時間)検査が不要の為、近年普及してきているのではありますが、まだ後発品がないため、お値段がワーファリンの約100倍と高価です。患者様によっては、こうした薬剤が使えない人も少なからずいます。

抗凝固療法ができない患者様には、左心耳を閉鎖または切除することが予防に有効と言われ、その効果は抗凝固療法と変わらないという報告もあります。左心耳を閉鎖することで、薬物を内服が必要なくなる、とまで言えるかどうかはまだ情報が不十分かもしれませんが、今後エビデンスが蓄積されれば一生内服する薬物治療から解放される可能性があります。
 左心耳を閉鎖する方法として、、経カテーテルに左心耳内に傘状のデバイスを挿入留置して塞いでしまう方法(ウォッチマン = Boston Scientific社)があります。左心耳の形に合わせて、サイズ・形態を選択します。他には外科的に閉鎖、もしくは切除する方法。多くはメイズ手術や僧房弁手術と同時に、外側から左心耳を切除する、もしくは左房内から左心耳の入り口を糸で縫合して閉鎖する方法です。
 今後注目される方法として、左心耳を外側から専用のクリップのような装置で挟んで、そのクリップを留置して閉鎖する方法で、この方法ですと、心停止下で行う必要がない為、人工心肺非使用のバイパス手術時に併用したり、左小開胸、内視鏡補助下で人工心肺非使用下に行うことも出来ます。残念ながらまだ保険償還がとれないので、自費診療にするか、もしくは病院の持ち出しとして使用されていますが、今後保険償還が取れる、もしくは新たな術式として保険で認められる方向にあるといわれ、そうなると爆発的に手術を受ける患者様が増加する可能性があります。特にインテリジェンスの高い患者様には、その予防効果が注目され、希望者が多いと聞いています。まだ関東地方でも左心耳閉鎖のみを行っている施設は少ないですが、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科でも、適応のある患者様では今後積極的に左心耳の閉鎖術を行っていく方針とする予定です。
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