6月23日 左心耳マネジメント研究会に参加しました。左心耳マネジメントとは、心房細動を放置した場合約5%に発生すると言われる左房内血栓を予防するために、積極的に治療していくことを指します。その血栓の9割は左心耳内に発生するといわれています。
心房細動に抗凝固療法を行う事で、約5%に発生する脳梗塞は1-2%に減少するといわれています。しかしながら年1-3%の重大な出血性合併症が発生し、途中で服薬をやめてしまう、もしくは止めざるを得ない人も24%もいるといわれていますので、抗凝固療法だけでなく、心房細動全体を考慮した治療ストラテジーが重要です。
心房細動の治療として、
①リズム制御 心房細動を洞調律に戻して維持すること;カテーテルアブレーション、メイズ手術、抗不整脈薬、カウンターショックなど
②心拍数制御 適正な心拍数に調整して心不全や意識消失発作などを予防する; β遮断薬、カルシウム拮抗薬による心拍数低下、ペースメーカーによる徐脈・心停止対応
③抗凝固療法 左房内血栓を予防する為、ワーファリンやXa阻害剤(DOAC:Direct Oral Anticoagulant)
④左心耳マネジメント 左心耳の閉鎖により血栓形成を予防すること; 経カテーテル的閉鎖、外科的閉鎖
この中で、左心耳マネジメントには、大きく経カテーテル的閉鎖と外科的閉鎖があります。
経カテーテル的閉鎖では、現在 5機種ほど(Watchman、Lariat,Amuplatzer/Amulet,Warecrest, LAmbreなど)開発されていますが、前向き大規模試験が行われている商品はWatchmanといわれる、パラシュート型をした商品だけです。これは、左心耳の携帯によって、その形状を選択し、ステントグラフトのような網状の金属部分を左心耳の内部に固定し、その天井をシートで貼ったような、一見小さな東京ドームのような形態のデバイスです。これは大腿静脈経由から右房に到達し、心房中隔を穿刺して左房ないに入り、左心耳に経カテーテル的に留置するものです。Watchman留置後は45日間のワーファリン+アスピリン、その後の6か月間の二種類の抗血小板薬、その後は最終的にアスピリンのみの内服とするプロトコールになっています。この臨床研究では、Watchmanを留置した症例と、ワーファリンによる抗凝固療法を継続した77症例では、脳梗塞を発生する頻度が変わらなかったという結果でした。その一方で、Watchman留置群の方が、心血管死亡や出血性死亡が少なかったと報告されました。Watchman自体に血栓が付着する頻度は0.2%でした。現在、このWatchmanは国内で臨床治験が行われており、近々保険適応となるといわれています。ワーファリンやDOACの継続ができない患者様に関しては福音となります。また抗凝固療法のリスクや服薬のわずらわしさ、内服継続の長期的な費用を考慮して、内服が不要になるならばWatchmanを希望するという人も今後出てくる可能性もあります。
外科的治療としては左心耳の切除もしくは閉鎖があります。左心耳の切除は文字通り、外科的に切除して、左心耳入口付近で縫合する方法です。他に自動吻合器を使用して切除する方法もあります。実際に左心耳が無くなるので有効な方法です。術後の心嚢液貯留の頻度がカテーテル治療に比較して高くなりますが、有効な方法です。これと同等なのが、Deviceを使用した閉鎖で、Atriclipという専用のクリップで挟んで閉鎖する方法です。自動吻合器で閉鎖する方法もあります。他に、内側から、もしくは外側から糸をかけて入口を縫縮・閉鎖する方法があります。
左心耳の縫縮を行う事で、脳梗塞の発生頻度が17%から3.4%に減少するという報告もありますが、不完全な縫縮になっている症例が10.3~24%あるといわれており、不完全な縫縮部位には血栓形成を起こす頻度が7%といわれ、治療方法として確立しているとは言えません。これに対してAtriclipでは9不完全症例は有意に少なく、5-100%で完全に左心耳が閉鎖されています。
今後はこうした左心耳マネジメントを考慮した治療方針が実際に普及していくものと思われますが、左心耳を閉鎖するのに、今後は9割はカテーテル治療、1割は外科的閉鎖が選択されると予想されています。横須賀市立うわまち病院心臓血管外科でも慢性心房細動の症例の開心術には同時に左心耳切除を行うことが多いのですが、オフポンプCABGなど心停止を伴わない手術ではAtriclipを使用した症例もあり、今後も積極的に左心耳マネジメントを推進していくことになると思います。