透析患者さんに生体弁を移植すると、人工弁の弁葉が早期に石灰化して、そこを起点に亀裂が生じて、早期に弁機能不全(PVF=Prosthetic Valve Failure, SVD=Structural Valve Deteriorationともいう)が生じて、長持ちしない為、機械弁の選択が推奨されてきました。
しかしながら、最近の考え方として、透析患者さんは長期生存する症例が少ないので、生体弁を移植してたとえ長持ちしなくても寿命自体がもともと短いので、あまり問題にならず、それよりも機械弁を移植したためにワーファリンの管理を厳密に行う必要があり、それによる出血のトラブルの方が多い、との観点から、生体弁が適する、と考える人も少なくない現状です。
しかしながら、透析患者に生体弁移植した際の長期成績について、まとまった報告は少なく、日本人のデータベースから解析した結果によると、透析患者の平均の術後生存期間は3年ほどで、5年以内に生体弁が壊れる可能性は2-10%程度のようです。しかし、たとえ2%でも早期に壊れてしまう症例があるのも事実で、5年以内に死亡するとは限らない透析患者に積極的に生体弁を選択するというのはいかがなものか、と思います。
透析患者と言っても全身状態には差が大きく、元気で栄養もいい患者さんは、10年以上生存も期待できるため、元気な患者さんほど機械弁を選択するべきと思います。しかしながら、全体とすると・・・
Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2019 Jul 6. doi: 10.1007/s11748-019-01172-w. [Epub ahead of print]
Prosthesis selection for aortic valve replacement in patients on hemodialysis.
Hori D1, Kusadokoro S2, Kitada Y2, Kimura N2, Matsumoto H2, Yuri K2, Yamaguchi A2.
これは、当医局のデータを論文化したものが今月出版されました。透析患者に対する大動脈弁置換における弁の選択に関しては最新のものです。これによると、透析患者の大動脈弁置換術では生体弁と機械弁とでは大きな有意差はなく、機械弁において出血の合併症が高いということ以外の差は認めなかった、ということになり、あとは患者の選択で決定して良い、ということになります。
要旨を要約すると
自治医科大学附属さいたま医療センター(年間500件の心臓大血管手術を行い、大動脈弁置換は年間100件以上実施している国内のハイボリュームセンターの一つ。筆者の前任地でもあり、横須賀着任前はその1/3の症例を筆者が執刀していました)。
この施設において、2008年から2016年の間に76例の透析患者の大動脈弁置換術が実施され、このうち機械弁が移植されたのが30例、生体弁が移植されたのが46例。機械弁が移植された患者が有意に年齢が若いが、手術実施時の在院死亡に機械弁と生体弁では有意差はない。遠隔期には出血の合併症が機械弁患者で高頻度であるが、遠隔死亡や主要合併症には有意差は認めない。3年後の生存は機械弁で56.7%で生体弁で61.2%、5年後の生存率は機械弁で48.6%、生体弁で39.5%。これらの症例の中で生体弁機能不全による再手術症例は1例も無かった。遠隔期に機械弁と生体弁とで遠隔死亡、主要合併症の成績において有意差は無かった。