横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

食道がん術後(胸骨後再建)の大動脈弁置換術(大動脈弁逆流)

2019-07-20 02:10:12 | 弁膜症
 食道がん術後(胸骨後再建)の大動脈弁置換術について、他病院から相談がありました。大動脈弁逆流の為、カテーテルアプローチによる治療(TAVI)は適応外です。上行大動脈遮断、大動脈切開し、心筋保護をしながらの弁置換術が必要です。



 食道がんに対する食道抜去術後の再建方法として、現在では胃管をつりあげて、もともと食道があった後縦隔経路で再建することが最も多いのですが、他の再建方法として、胸骨後再建、胸骨前再建があります。胸骨前や胸骨後再建は、胃管ではなく横行結腸を使用した再建のことが多いのかもしれません。胸骨前再建は文字通り、胸腔外で皮下の再建ルートとなり、また、胸骨後再建は胸骨の後ろ側で、前縦隔でのルートを通ることになります。胸骨正中切開が不可能であるため、どのようなアプローチで手術するべきなのか、検討が必要です。

 心臓をどうやってよけるかによりますが、右房の前を通って再建されているのか、もしくは心臓のやや左側を通るのかによって全く異なりますが、右房、上行大動脈の右側を通る場合は右胸腔からのアプローチでは、食道の後ろに手術操作対象があるため困難であり、この場合は左側からのアプローチが必要になります。左開胸だけでは、かなり大動脈弁はかなり遠くなるので、左開胸して胸骨の後ろ側をある程度剥離し、胸骨部分切開に延長するいわゆるALPSアプローチであれば大動脈弁置換可能です。胸骨を横断するCramshell(クラムシェル)アプローチは、縦走する食道再建腸管を損傷するリスクがあるため避けるべきと思われます。

 また再建腸管が左側を通る場合は、通常の右開胸アプローチでの大動脈弁置換術が可能と思います。

 いずれにしろ、再建腸管との位置関係をCTで十分検討して、アプローチを決定する必要があります。

https://www.youtube.com/watch?v=9pb0r74ROfA

 上記のユーチューブ画像のような感じでは、どちらのアプローチでも可能と思われますが、やはり再建腸管が視野にどう影響するのか、ということが最も重要です。大動脈弁置換術は心膜の折り返り位置よりも心臓よりのみの操作で完遂可能なことを念頭において決定することも重要です。

ミクスのエキスパートが集まる昨日のカンファレンスで提示して相談したところ、右胸腔内は癒着している場合が多いので、正中切開が無難という意見もありました。ALPSがいいという意見は経験者が他にいなくてありませんでした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする