横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

腹部大動脈瘤に対する治療:ステントか、人工血管置換術か

2019-07-02 18:50:11 | 大動脈疾患
 腹部大動脈瘤に関する外科治療は現在、ステントグラフトか、もしくは従来の人工血管置換術か、どちらがいいのでしょうか?患者さんも悩むようで、どちらにすべきか、質問されることがあります。

 もちろん、患者さんによってそれは違うので、その診察をしている専門医の意見や適応について個別に相談することと思います。
 ステントグラフトは低侵襲なので、小さい傷ですむことから、侵襲に耐えられない患者さんにとっては、まさに福音といえます。呼吸機能が悪い、心機能が悪いなどの理由で全身麻酔に耐えられない、または開腹手術の既往があり、特に人工肛門が増設されているなど通常の開腹による人工血管置換術が困難、こうした患者さんはステントグラフト治療を最初に考える症例です。こうしたステントグラフト手術の出現により、今まで手術できない、もしくは非常にリスクが高い、と考えられてきた患者さんが手術可能となってきた、その分、手術対象となる患者さんの数が増えて、また手術に対するステントグラフト手術の頻度が増加しているのが現状だと思います。

 さて、一方、従来の開腹による人工血管置換術は、ステントグラフト手術が増加する分は減少しているともいえます。人工血管置換術のほうは、特徴といえば、確実であり、再発が少ないということでしょうか。一方で、ステントグラフト手術の場合は、手術そのものは低侵襲である一方、経年の大動脈壁の変化によってずれてマイグレーションしたり屈曲したりという変化が起こる可能性や、エンドリークによって瘤の縮小がみられない、といった不確実性が残ります。また血管損傷などの特有のリスクもあります。

 では、どちらを選択するのが正しいのか、これは患者さんがネットで検索しても答えが書いていないのが現実です。というのも、ネットの情報は偏っているため、というのが正直なところだからです。多くの民間の施設から出されているネットの情報は、コマーシャルであり、患者を呼び集めるための道具ですので、初めから正しい情報であるとは限りません。また、検索する患者さんの方でも、自分が欲しいというか、信じたい情報のほうばかりを検索する傾向にあり、信じたくない情報は無視してしまうように検索されるし、選択もされないため、情報が偏ってしまうからです。
 中立的な立場の学会や公共の情報ソースを比較することが比較的正しい情報が得られることになりますが、実際はその患者さんによってどちらが正しいのかは異なるため、患者さんの正しい情報をもっている専門医に中立の立場で判断してもらうことが最も正しいと言えると思います。

 横須賀市立うわまち病院では、ステントグラフト手術はハイリスクの症例を主に対象に、一方、80歳未満で特にリスクが少ない患者さんは、より確実な人工血管置換術を、というのが妥当かと思っています。あとは解剖学的な瘤の形態がステントグラフトが確実に成功するものかどうかも重要と考えています。
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あれ、やってませんよー: 医龍や白い巨搭の手術のイメトレ

2019-07-02 07:05:47 | 心臓病の治療
医龍で坂口憲二が、上半身裸で太極拳の型のような、手術のイメトレしてるシーンがあります。白い巨搭で昔、同じシーンもありました。また、その影響か、最近ではラジエーションハウスで関節鏡手術で同じようなイメトレしてました。

患者さんにときどき「先生もあれ、やってるんですかー」って時々聞かれますが、

あれ、やってませんよー。他にやってる人、みたことない。



そもそも、ああいう武術の型のようなものは、外科医はやりません。もしかしたら初めて手技を行う初期研修医や学生ならやるかもしれませんが、ふだん術者をしているような外科医とは無縁です。あの、ドラマの主人公たち、素人という設定ではいと思うんですが、ああいうのテレビで放送されると患者さんが真に受けるからやめてほしいです。

武術の型は、基本動作の流れをからだに覚え込ませ、実践で頭で考えずに反射で防御、攻撃を流れのように技を出すための訓練ということと思います。外科手術の場合はコンセプトがちょっと違います。患者さんの組織や解剖は一人一人違う場合もあるので、そのバリエーションに対応するのには一つ一つを確かめながら手順を踏む必要があるので、通常は習熟した外科医には無用です。
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