低侵襲の手術なので回復が速く、合併症が少ないことで今後ますます普及することが期待されるMICS=Minimally Invasive Cardiac Surgery=低侵襲心臓手術ですが、側方開胸は胸骨正中切開よりも痛みが強いと一般に言われています。横須賀市立うわまち病院で実施した患者さんのデータ比較では、術後三日間は側方開胸のほうが正中アプローチに比較して鎮痛剤の使用量、疼痛のスケールにおいて痛みが強く、その後は7日目、退院時、初回外来時においてはほぼ正中アプローチと同等という結果でした。
今回、MICS-CABG=側方小開胸アプローチによる冠動脈バイパス術において、両側内胸動脈、右胃大網動脈、大伏在静脈を使用して4か所のバイパス術を実施した患者さんに対して術後の疼痛について質問したところ、胸部の手術創は痛くないが、右胃大網動脈を採取するために開けた上腹部の手術創のほうがはるかに痛いとおっしゃっていました。上腹部の手術創は胃切除術よりも小さい6~7cmの皮膚切開で胸部よりも若干小さくなっていましたが、腹部のほうが胸部よりも痛いとすると、今後は患者さんに対して、胃切除や腸切除の手術よりも痛くないですよ!と自信をもって伝えられるということになります。今後も症例を重ねて、腹部と胸部の手術ではどちらが痛いのかと比較していきたいと思います。
患者さんの中ではMICSではありませんが、胸部大動脈瘤の手術と腹部大動脈瘤の手術を両方経験している患者さんも少なからずいますが、それらの患者さんにおいても侵襲のより大きな胸部の手術よりも、リスクが少なく短時間で終わる腹部大動脈瘤の手術のほうが痛いと口を揃えておっしゃいますので、MICSにおいてもこれは事実なのだと思います。