2023年6月11日(日)14時〜 途中休憩を挟む2部構成、横浜みなとみらいホールにて。
横浜みなとみらいホールの舞台正面には”ルーシー”と言う名の器量良しなパイプオルガンが鎮座していて、ホールの「象徴」「顔」として、その名の如く大小のパイプが神々しい”光”を放っている。
今回のリサイタルは、日本有数のオルガニストである石丸由佳さんが、そのルーシーの持つポテンシャルをいかんなく発揮させて、プラネタリウム投影の(一般社団法人)星つむぎの村協力のもと、音楽と映像で大ホールに壮大な宇宙空間を現出しようとの試み。
いかんせん、ホールはあくまでも音楽ホールであって、プラネタリウム仕様のドーム天井ではないから、天井に投影された映像はぼやけて、星々も間延びしたように見えた。もしかしたら、聴衆は目を瞑ってパイプオルガンの響きに全意識を集中させた方が、却って壮大な宇宙空間を脳内で思い描くことができたのかもしれない。
とは言え写真の通り、舞台中央にはスクリーンが設置され、そこに“より鮮明な”宇宙空間や天体のCG映像、星座図像の他に、石丸さんの演奏の様子が近接して映し出されていたので、その画像・映像とパイプオルガン演奏のコラボは確かに楽しい趣向であった。
今回も生協で割安チケットを購入。あいにく座席は2階の左翼席。
演奏の合間に石丸さんは一般には馴染みの薄いパイプオルガンの特徴やルーシーの機能を丁寧に説明してくださり、音楽には門外漢の私達夫婦には大いに勉強になった。
私達は門外漢とは言え、長年に渡って数十枚のクラシックCDを買い集め、気の向いた時に自宅で聴いて楽しんでいるので、ある程度有名な曲なら知っている。
今回もリサイタルでは定番のヨハン・セバスティアン・バッハの「トッカータとフーガ ニ短調 BWV 870」がオープニングで演奏されたので、パイプオルガンの荘厳な響きに冒頭から一気に引き込まれた。
バッハのオルガン曲はいずれもが、自身がオルガンの名演奏者でもあったバッハが、教会のオルガンで弾くことを前提に作曲したもので、超絶技巧が必要とされる難曲だと言う(今回いただいたリーフレットによれば、本作はバッハの代表曲ながら自筆譜が残っていない為、他の誰かによる作曲との説もあると言う。また、他のオルガン曲と比較すると”より世俗的”で、教会で演奏される為に作曲されたとは言い難いとの説も)。
自宅にはカール・リヒター演奏盤があって、もう30年以上に渡って何百回と聴いて来て、それが自分の耳にはスタンダードになっているので、今回の石丸さんヴァージョンにしても、過去に聴いたヘルムート・ドイチュ氏やアレシュ・バールタ氏ヴァージョンにしても、カール・リヒターの時代とは時間感覚の違いなのか、或いはカール・リヒター独自の曲解釈によるテンポの遅さなのか、現代奏者である三者の演奏は比較的テンポが速く、些か違和感がある(軽妙過ぎて重厚感に欠けると言うか…😅)。もちろん、その演奏技術の高さに疑問の余地はない。
今回は”冒険”とも言える試みで、石丸さんは「無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV 1007よりプレリュード」(←あの韓国映画「不思議の国の数学者」で繰り返し流れた挿入曲)を一切”手”は使わず、足鍵盤のみを使って軽やかに、時には左右の脚を交差させて弾いてみせた。その演奏の様子が舞台上のスクリーンにズームアップで映し出されたので、改めて演奏家石丸さんの凄さを見せつけられた感じだ(凄すぎて思わず笑いが込み上げるほど…😅)。
しかも他の楽曲では、パイプオルガンを知り尽くした石丸さんが、ルーシーが持つ機能を存分に使ってくれるので、ルーシーが喜んでいるようにも見えた(感じられた?) 。その喜びが聴覚を通じて私の身体にも伝わり、日頃、無意識のうちに抱えているストレスから解放されて、身も心も軽くなったような感覚が演奏中にはあった。
これまでに何度も繰り返し書いてきたが、コンサートホールで聴く生演奏は感動的だ。それが学生の演奏であってもだ。これからも機会があれば、ホールでの演奏を聴いて行きたいと思う。
今回はタイトル画像のリーフレットが見開き4ページで、期待以上に充実した内容。理論物理学者・佐治晴夫氏が寄稿したエッセイは、物理学者かつオルガン奏者の観点から紐解いたパイプオルガンと宇宙の関係の言及が難解なるも楽しい(笑)。また、演奏曲のワンポイント解説も親切。さらに、演奏者石丸由佳さんとルーシーの詳しいプロフィールも。
とても楽しく充実した内容のリサイタルでした。
開演時には約2,000人収容のホールはほぼ満席でした。
《プログラム》
【第一部:J.S. バッハの宇宙】
ヨハン.セバスチャン.バッハ(1685-1750)
トッカータとフーガ ニ短調 BWV 870
平均律クラヴィーア曲集第2巻 第1番 ハ短調 BWV 1007 よりプレリュード
いと高きにいます神にのみ栄光あれ
BWV 662
トッカータとフーガ ニ短調 BWV 538 「ドリア調」
【第2部:星空のオルガン】
宮川泰(1931ー2006)
白色彗星 (映画「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」より)
アントニオ・ヴィヴァルディ(1678-1741)
協奏曲集「四季」より
「春」より第1楽章/「夏」より第3楽章/「秋」より第3楽章/「冬」より第1楽章
グスターヴ・ホルスト(1874-1934)
「火星-戦争をもたらす者」「木星-快楽をもたらす者」(組曲「惑星」より)
【追記】
奇しくも演奏会当日の夜11時にNHKで放映された海外秀才ドラマ「アストリッドとラファエル2 文書係の事件簿」の内容が、パイプオルガンに纏わるものだった。
劇中で登場人物達がパイプオルガンについての蘊蓄を次々と披露してくれたので、とても勉強になったし、パイプオルガンへの興味がさらに深まった。
パイプオルガンを1日のうちに2度も楽しめるなんて☺️ラッキー🤞。
(了)
✳︎長い記事を最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
✳︎何度も編集してフォロワーの方には送信通知を繰り返してしまい申し訳ありません。