台湾の総統選挙(2008年3月22日)で国民党の馬英九(得票765万)が大差で民進党の謝長廷(得票544万)をくだした。
李登輝以来8年ぶりの国民党の政権復帰は、ハーバード大学大学院出の馬英九が、京都大学大学院出の謝長廷よりもイケメンだったことと、陳水扁・民進党政権の8年間の経済運営の無能無策ぶりに有権者が嫌気をつのらせたことによる。台湾の人たちが民進党の台湾独立路線を退け、国民党の統一路線を選択したわけではない。
馬英九は選挙運動期間中に「もし中共がチベット人民を鎮圧し続け、チベット情勢がさらに悪化すれば、私が総統に当選した場合、北京オリンピックへの代表団派遣を取りやめる可能性も排除しない」と言明した。「中華民国は主権を持つ独立した民主国家であり、台湾の未来は2300万の台湾人民が決定し、中国の干渉を受けない」「我々の政策は『台湾を主体とし、人民に利益をもたらす』ことで一貫している。このような主旨の下に、我々は現状を維持するための『3つのノー』、つまり、『統一しない、独立しない、武力を行使しない』政策こそが台湾の主流民意と両岸関係の需要に合致するものと考えている」と表明した。
一方、謝長廷は「馬英九氏は『終極的統一』『一つの中国原則を前提として平和協議を進める』などと主張している」として馬英九批判を繰り広げた。
国民党が唱えてきたような「中華民国」の名の下での統一などもはや不可能能であり、統一が中華人民共和国の一部に台湾が組み込まれることを意味するは台湾人の誰もが知っている。とはいえ、台湾独立を声高に唱えれば中国をいらだたせることになる。そのことにはアメリカも反対している。したがって、台湾としては当面、事実上の独立主権国家として、現状維持のままで模様眺めをしたほうが対外的な摩擦がすくなくてすむ。台湾経済にとって中国の存在が巨大になっている現在、とくに中国とは穏便な関係を持ちたい。有権者はそう判断したのだろう。台湾の対中貿易額は2007年に1,000億ドルを超えた。中国向けが輸出全体の3割に達した。台湾の対外投資の8割までが中国向けである(台湾経済省統計)。
しかしながら、この8年間のうちに1人あたり平均所得で台湾は韓国に追い越された。その理由の1つが、中国と国交のある韓国とくらべて、中国と対立関係にあった民進党政権の台湾が対中貿易で不利だったためだといわれている。以上のような経済的理由から、台湾人としては中国とはことを構えたくない。総統選と同時に行われた住民投票では、「『台湾』の名での国連加盟」(民進党提案)と「『中華民国』の名での国連復帰」(国民党提案)の投票率が50パーセントに達せず、住民投票不成立に終わった。
対中政治関係を現状のまましばらく棚上げし、経済関係の改善に専念してほしいという台湾人の気持を国民党の馬英九がうまくくみあげた。民進党は台湾独立で有権者の気分をあおりたてようとしたが、チベットの事件がありながらも風に乗り切れなかった。
台湾では先の立法院選挙(定数113)で、国民党が3分の2を上回る81議席を獲得した。民進党は27議席だった。馬英九の国民党は立法・行政の両面で強大な権力を握ることになった。この機をとらえて胡錦濤の中国共産党が馬英九の中国国民党にどのようにすりよって新しい国共合作を打診するのか。それは今後のみものである。
台北の総統府ビル内部の見学は中華人民共和国の人を除くすべての国籍者に解放されている。中国国籍者に対しても馬英九政権がいつごろから総統府の見学を開放するか。中国・台湾接近のシグナルの1つになるだろう。
陳水扁政権の時代に台北の中正空港は桃園空港と改名され、蒋介石をたたえる中正紀念堂が台湾民主紀念館・自由広場と改えられた。これを馬英九の国民党政権がどこまで元に戻そうとするか。旧い国民党へのこだわりをはかるバロメーターになろう。
台湾の住民の84パーセントが本省人、外省人は14パーセント、先住民が2パーセントである。国民党が本省人の気持をつなぎとめるには、中国国民党から台湾国民党への意識の変革など、それなりの工夫が必要になろう。
(2008.3.30 花崎泰雄)
李登輝以来8年ぶりの国民党の政権復帰は、ハーバード大学大学院出の馬英九が、京都大学大学院出の謝長廷よりもイケメンだったことと、陳水扁・民進党政権の8年間の経済運営の無能無策ぶりに有権者が嫌気をつのらせたことによる。台湾の人たちが民進党の台湾独立路線を退け、国民党の統一路線を選択したわけではない。
馬英九は選挙運動期間中に「もし中共がチベット人民を鎮圧し続け、チベット情勢がさらに悪化すれば、私が総統に当選した場合、北京オリンピックへの代表団派遣を取りやめる可能性も排除しない」と言明した。「中華民国は主権を持つ独立した民主国家であり、台湾の未来は2300万の台湾人民が決定し、中国の干渉を受けない」「我々の政策は『台湾を主体とし、人民に利益をもたらす』ことで一貫している。このような主旨の下に、我々は現状を維持するための『3つのノー』、つまり、『統一しない、独立しない、武力を行使しない』政策こそが台湾の主流民意と両岸関係の需要に合致するものと考えている」と表明した。
一方、謝長廷は「馬英九氏は『終極的統一』『一つの中国原則を前提として平和協議を進める』などと主張している」として馬英九批判を繰り広げた。
国民党が唱えてきたような「中華民国」の名の下での統一などもはや不可能能であり、統一が中華人民共和国の一部に台湾が組み込まれることを意味するは台湾人の誰もが知っている。とはいえ、台湾独立を声高に唱えれば中国をいらだたせることになる。そのことにはアメリカも反対している。したがって、台湾としては当面、事実上の独立主権国家として、現状維持のままで模様眺めをしたほうが対外的な摩擦がすくなくてすむ。台湾経済にとって中国の存在が巨大になっている現在、とくに中国とは穏便な関係を持ちたい。有権者はそう判断したのだろう。台湾の対中貿易額は2007年に1,000億ドルを超えた。中国向けが輸出全体の3割に達した。台湾の対外投資の8割までが中国向けである(台湾経済省統計)。
しかしながら、この8年間のうちに1人あたり平均所得で台湾は韓国に追い越された。その理由の1つが、中国と国交のある韓国とくらべて、中国と対立関係にあった民進党政権の台湾が対中貿易で不利だったためだといわれている。以上のような経済的理由から、台湾人としては中国とはことを構えたくない。総統選と同時に行われた住民投票では、「『台湾』の名での国連加盟」(民進党提案)と「『中華民国』の名での国連復帰」(国民党提案)の投票率が50パーセントに達せず、住民投票不成立に終わった。
対中政治関係を現状のまましばらく棚上げし、経済関係の改善に専念してほしいという台湾人の気持を国民党の馬英九がうまくくみあげた。民進党は台湾独立で有権者の気分をあおりたてようとしたが、チベットの事件がありながらも風に乗り切れなかった。
台湾では先の立法院選挙(定数113)で、国民党が3分の2を上回る81議席を獲得した。民進党は27議席だった。馬英九の国民党は立法・行政の両面で強大な権力を握ることになった。この機をとらえて胡錦濤の中国共産党が馬英九の中国国民党にどのようにすりよって新しい国共合作を打診するのか。それは今後のみものである。
台北の総統府ビル内部の見学は中華人民共和国の人を除くすべての国籍者に解放されている。中国国籍者に対しても馬英九政権がいつごろから総統府の見学を開放するか。中国・台湾接近のシグナルの1つになるだろう。
陳水扁政権の時代に台北の中正空港は桃園空港と改名され、蒋介石をたたえる中正紀念堂が台湾民主紀念館・自由広場と改えられた。これを馬英九の国民党政権がどこまで元に戻そうとするか。旧い国民党へのこだわりをはかるバロメーターになろう。
台湾の住民の84パーセントが本省人、外省人は14パーセント、先住民が2パーセントである。国民党が本省人の気持をつなぎとめるには、中国国民党から台湾国民党への意識の変革など、それなりの工夫が必要になろう。
(2008.3.30 花崎泰雄)